神隠しの山

夏伐

面食い

 うちの村には神隠しの山と呼ばれている山がある。

 そこは厳重にフェンスで囲まれて入れないようになっている。


 子供の俺はいつもそこに何があるんだろうと思っていた。

 大人は入っていいんだけど、子供はダメなんだって。神隠しにあっちゃうから。



 でもそんなの昔話だろう? そう考えていた俺はこれっぽっちも信じてなかった。

 いつかフェンスの中を覗いてやろうと思っていたのだが、フェンスは高いし有刺鉄線も絡ませてある。


 でもある日、そのフェンスが壊れていた。

 これはチャンスだ! 俺は意気揚々とフェンスの内側に侵入した。

 数時間ほど色々と見て回ったが、これといって面白いものもなかった。


 夕飯時にそれを家族にに報告した。なんてことはない、ただの日常会話だ。


「あの山、何にもなかったよ」


 そうしたらその山に入った事を理解した親は泣いたし、じいちゃんは寄り合いに電話するわの大騒ぎになった。

 大人のそんな慌てた姿なんて初めて見た。

 親に泣きながら怒られて、理由は分からないが俺も泣いた。


 あのフェンスの内側では子供がよく行方不明になるらしい。

 そして子供が行方不明になると、前にいなくなった子が戻ってくるんだそうだ。

 いなくなったときのままの姿でさ。



 そんなこんなで、フェンスはすぐに直された。

 壊したのは近所のおばさんだったそうだ。



 じいちゃんには、


「良かったなぁ、不細工で。不細工なお前のお母さんに感謝しとけよ」


 と頭を撫でられた。


 俺はじいちゃんの足にローキックを、母は肩に手刀を叩きこみ、父はじいちゃんのコレクションしていたツボを割っていた。おかげで寿命が十年は縮んだとぼやかれた。


 ちなみに俺の親戚の中に、あの山で行方不明になった人はいない。

 神様も面食いなんだろう。


 それから少しして、俺の友達が一人行方不明になった。

 前にフェンスを破壊したおばさんの家に一人の子供が訪ねてきた。おばさんの子供は記憶より老いた家族や変わった街並みに驚いていたけど、嬉しそうだった。

 今はいなくなった友達の家族がフェンスをぶっ壊してる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

神隠しの山 夏伐 @brs83875an

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説