ひとりぼっちの精霊さま

ひつじのはね

ひとりぼっちの精霊さま

あるところに、偉大な精霊さまがおりました。

精霊さまは、ながく街の人々を守っていました。


仲良しだったひとりの王様と、大昔に約束をしたからです。

偉大な精霊さまが、まだふつうの精霊さまだった頃の約束でした。

王様が、まだふつうのひとだった頃の約束でした。


けれどふつうのひとだった友だちは

いつしか王様になりました。


精霊さまは約束を守って、一生懸命街を守りました。

王様も約束を守って、いい王様になりました。


次の王様も

その次の王様も

次の次の王様も

いい王様になりました。


だから、精霊さまは友だちとの約束を守りました。


王様になった友だちが、王様のまま世界からいなくなっても。

みんなが、精霊さまを忘れても。


だって、精霊さまは覚えていたから。



偉大な精霊さまは

ひとり、約束を守っていました。

ながく、ながく守っていました。


そして、知っていました。

もうすぐ、ひとりぼっちで消えてしまうことを。


誰も、精霊さまが約束を守っていたことを知らないままに。





「こんにちは。あなたはだあれ?」

悲しみがとうめいになった頃

その声が聞こえました。


消えかけた精霊さまは、とても驚きました。

だれかが、精霊さまを見つめていたからです。

精霊さまが だれかの瞳に映っていたのは

もう随分と昔のことでしたから。


風変わりな天使さまは、精霊さまと友だちになりました。

一緒にごはんを食べ

一緒に悲しみ

一緒に舞い

一緒に喜びました。


精霊さまは、思いました。

天使さまといることが、『楽しい』ことだと。


みるみる元気になった精霊さまは

消えかかった精霊さまから、偉大な精霊さまに戻りました。


精霊さまは、天使さまが大好きでした。

天使さまも、精霊さまが大好きでした。


だけど、困っていました。

精霊さまが、天使さまを離してくれなくなったからです。


精霊さまは、天使さまが世界からいなくなる日を怖がりました。

天使さまよりながく在ることを怖がりました。

だって、ひとりぼっちを知っていたから。

だって、『寂しい』はたくさん知っていたから。


天使さまは考えました。

一緒に、考えました。


そして、精霊さまには

『楽しい』が足りないと思いました。

天使さまひとり分の『楽しい』では足りないと思いました。


たくさんの『楽しい』を集めるために

天使さまと精霊さまは、一緒に頑張りました。


天使さまは

ひとに

精霊に

妖精に

神獣に

幻獣に

生きとし生けるもの全てに話をしました。


精霊さまは、ひとの王様に話をしました。

王様は、精霊さまのお話を物語にしました。


精霊さまのお話は、詩になって語られ、劇になって紡がれ――


こうして

本になって語り継がれました。



そうして、ひとりぼっちだった精霊さまは ひとつ、後悔しました。


「しまった、もっと『ひとり』を楽しんでおけば良かった」 と――。



おしまい

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ひとりぼっちの精霊さま ひつじのはね @hitujinohane

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