・・・・ー

 犬は鶏肉を食べ終えると、再び折り重なった布団の上で、わふわふと寝言を言い始めた。俺は無線の前に座り、ツーとトンを打ち込みながら、学友にレシピのアンサーを求める。

「おまえの言い訳を聞く前に、俺は二つ……、いや三つ、おまえに文句を言いたい」

 俺はわざと意地悪く、彼のように早打ちで、カレーのレシピにケチをつけた。作り方が分かりにくい、作るのに苦労した、大体おまえは作れるのか……。そんなことをグチグチと、信号にして送り続けた。

「……けどさ、まぁ、上手くできたよ。プレゼントを開けるときみたいな、そんなサプライズ感があってさ。久々に、楽しい気分になった」


 ――返答は、ない。ここ最近、ずっとそうだ。俺が一方的に打ち込んで、一方的に喋っているだけ。


「なぁ、おまえの奇想天外なレシピは、一体何年分まであるんだ? それに、レシピは送り合うって、そういう約束だったよな? ここ何十回か、ずっと俺が作る番なんだが」

 彼は約束の時間になると、必ず信号を送って寄こした。それは昔も今も、全くと言っていいほど変わらない。……彼が無線の前にいるか、いないか。変わったのは、それだけだった。

「自動で信号を打つ機械でも作ったのか、それともプログラミングでもしたのか……。どちらにせよ、暇を持て余しすぎて、おかしな方向に凝るようになったな」


 ――核戦争で汚れた大地は、最早住める場所ではない。人々は核シェルターに逃げ込みはしたが、その全ては万全の状態ではなかった。死んだ者も、大勢いた。……そして、シェルターの中で息絶える者も、数え切れないほどだった。


「……もし、おまえが、生きていたら。そのときは、必ず応答してくれ。俺はずっと、このシェルターで、おまえの信号を待っているから」

 明日が来るかどうかなど、神でなければ分かりはしない。しかし俺は、明日も無線の前に座って、彼が送る信号を受け取ろう。彼が生きているかもしれないという、蜘蛛の糸よりも細い可能性に、延々と縋り続けながら。


 ――What hath God wrought.

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

・-・・・ ・・- ・・-・・ ・・- ・-・ -・-・・ ---・  ・--・ ・・- 中田もな @Nakata-Mona

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ