最終話 キミに出会えて良かった
「よう堅持、おはようさん」
「おはよう、梶川」
それから一週間後。登校して教室の自分の席に着いた直輝は、以前にも増して積極的に話し掛けてくる梶川に挨拶を返しながら、そっと窓からの景色を眺める。
「いやー、一週間前は色々あったよなぁ」
「そうだなぁ」
「それを踏まえて言わせて貰うが———ちょww、お前有名人じゃんwww」
「はっ倒していいか?」
こちらを指差してけらけらと笑ってくる梶川に悪態をついてしまうも、ここ最近の出来事を振り返ると事実なので否定しようもない。
というのも、直輝が朝陽のために大声を上げた裏庭での出来事はすぐに広まった。元々朝陽の影響力が大きかったのだろうが、きっかけさえあれば、という朝陽の言葉通り教室や廊下を歩く度に噂されるようになってしまった。
———ただし、良い方向でだ。
「いやいや、これでも俺はお前のこと尊敬してるんだぜ? あらぬ噂が原因で孤立してる女の子をたった一人信じて庇い、あの衆人環視の中恐れることもなく無実を訴えて、皆の心に問い掛けた。まさにヒーロー、相手を本気で想ってなきゃ実行移すことなんて出来ねぇし、そもそも誰にでも出来ることじゃあねぇ。それだけ凄いことをお前は成し遂げたんだよ」
「言ってろ」
「照れんな照れんな、そんな怖い目付きじゃ白城に嫌われんぞ?」
「余計なお世話だ」
当時のことを思い出して思わず頬を染めてしまうが、梶川の言う通り、周囲による評価は粗方そんな感じである。
因みにあの出来事以降、直輝は真面目くんを演じる事をやめた。
周囲を無闇に怖がらせない為にときっちりとした容姿を続けてきたが、告白して無事に返事を貰えた以上、朝陽から格好良いと言われた瞳を隠す必要はないと考えたからだった。
現在も本当の直輝の姿で過ごしており、髪を掻き上げて鋭い瞳は隠していない状態。
当然、周囲からの印象も変化した。これまでは成績優秀な真面目くんを演じてきた直輝。最初こそ生徒の戸惑いはあったが、裏庭での出来事がきっかけで「男らしくて勇気がある」「格好良かった」「なんで今まであの格好だったの?」「白城さんってどんな人なの?」などの朝陽への質問や賞賛の言葉を頂けた。
今まで姿を偽っていたのでどういった反応をされるのか心配だった直輝だが、どうやら杞憂だったようで一安心だ。寧ろこれまでよりも直輝への評価は上々で、そういった尊敬の眼差しや好奇な視線を向けられるとなんとも気恥ずかしい。
「っていうかお前の力のおかげっていうのも大きいだろうが、梶川。知ってんだぞ。裏庭での一件以来、あちこちにあの出来事の内容を流してるだろ。しかも若干脚色して」
「情報は新鮮さ第一ですからなぁ。それに俺も人間だからうっかりする時だってある。大切な人、ってところを”愛する人”って解釈する時だってさぁ?」
「本当にお前ってヤツはよぉ……」
「いやー、情報提供あざまーす!」
へらへらと軽い口調で敬礼のような仕草を行なう梶川だったが、直輝が提供する情報を噂として流してほしいと頼み込んだ手前、あまり強く言えない。
(でもまぁ、こんなんだが情報屋としてはピカイチの実力と影響力を持ってんだよなぁ。事実、朝陽への良くない噂を耳にする機会も減ったし)
実際に朝陽に対する風当たりも次第に無くなってきている。梶川の影響力や考察力のおかげで朝陽にフラれて適当な噂を流布した男子や、好きな男子が朝陽に告白してしまい嫉妬に狂った女子が少しずつ判明してきているのが大きいのだろう。
どうやら今度はそいつらが
何はともあれ、今回協力してくれた梶川には感謝してもし足りない。直輝一人の力では決してあの噂を払拭することは出来なかったし、もしかしたら状況が悪化する場合もあった。
直輝は頭をがしがしと掻くと、未だへらりとしている梶川に向き直る。そして、口を開いた。
「あー、まぁその、なんだ……ありがとな、梶川。これからはお前のおかげで朝陽となんの憂慮もなく過ごせる」
「はっ、つまり俺が二人の愛を繋いだキューピット……ってコトぉ!?」
「調子乗んな」
確かに百歩譲ってそうだとしよう。しかし元々二人は両片思いだったのだ。梶川による功績はとても大きいが、おそらく恋のキューピットとしては一割にも満たないだろう。
図に乗られると癪なのでそういうことにしておこう。
「くっくっく。ま、俺としてはこうして気兼ねなく話せっから、そっちの方が好きだぜ?」
「……そうかい」
梶川の茶目っ気が滲む視線からそっと目を逸らした直輝は、頬杖を付きながら隣の教室にいる朝陽へ想いを馳せたのだった。
あっという間に時は過ぎ放課後。校門前でとある人物を待っていた直輝は手元にあるスマホの画面に目を落としていた。
SNSに流れるタイムラインをざっと流し読みしていると、ふと近くから抑揚の少ない声が掛かる。駆け寄ってきた彼女は直輝の顔を覗き込むと、その綺麗な唇を開いた。
「やっほ。お待たせ、なおくん」
「おう、朝陽」
「じゃあ、早速行こっか」
そう言って長い黒髪を揺らしながらニッと可愛らしい笑みを浮かべる朝陽。隣に並び立った彼女は、こちらが返事をして間も無くそっと手を繋いだ。
突然の行動に、直輝は思わず戸惑ってしまう。
「朝陽、流石にここだと……」
「なに今更恥ずかしがってんの、なおくん。あれから手なんて何度も繋いでるし、それ以上のことだって———」
「あーあー聞こえない聞こえないー」
頬を赤くした直輝は周囲にぽつぽつといる生徒の耳に朝陽の言葉が届かないようになんとか遮る。未だ完全には良くない噂を払拭しきれていないというのに、火に油を注ぎかねない言葉を平然と口にするなど何を考えているのだろうか。
ちらりと周囲に意識を向けてみると、離れた場所で直輝らに視線を向ける二人組の女子生徒が目に入る。なにやら会話をしているようで、聞き耳を立ててみると直輝が思っていた内容とは少々違っていた。
「やっぱりあの二人が付き合ってるって本当だったんだ〜。お似合いだねっ」
「白城さんが男とつるんでたっていうのも実は彼のことだったんでしょ? 夜の街を歩いてたっていうのも、病院に入院してる妹さんのお見舞いの帰りだったって」
「噂は所詮噂だね〜」
「その光景をたまたま見た白城さんに振られた男子が、腹いせに事実を捻じ曲げて最初に噂を流したんでしょ? それも仲の良い女子のコミュニティを利用してさ。全く酷い話よね」
「それを素直に信じちゃった私たちも私たちだけどね……」
「うん……私、今度白城さんに話し掛けてみるわ」
こちらの視線に気付いた女子生徒は軽く会釈をすると慌てたように去って行ってしまったが、ふと隣からじとーっとした雰囲気が漂っていることに気付く。すぐさま直輝が顔を振り向くと、案の定朝陽がこちらを見ていた。
気怠げな、されど迫力のある笑みで。
「なおくん、浮気?」
「そ、そんなわけないだろ……」
「んふふ、じょーだんだよ。揶揄いたくなっただけ。さ、早くゆうちゃんを迎えに行こっか」
「心臓に悪すぎるわ……」
直輝が聞こえたのだから、当然近くにいた朝陽もあの女子生徒の会話は聞こえていただろう。こちらの手を引く彼女の顔を覗くと機嫌が良さそうな表情を浮かべているので、本当にただ揶揄いたかっただけのようだ。
茜色に染まる通学路を雑談を交わしながら二人一緒に歩くが、直輝はとある事をしみじみと考えていた。
(俺たちが恋人同士になってからというもの、朝陽はよく笑うようになったなぁ)
先程の朝陽の様子から見てわかるように、互いに想いを打ち明けてからというもの笑顔を見せる機会が増えた他に性格もやや明るくなり、前向きになったように思えた。言い換えれば、積極的とも言える。
これまでふとした瞬間に朝陽が見せる笑顔も勿論素敵だったが、現在の朝陽は更に魅力的だ。しかし、あらぬ噂を立てられていた朝陽の名誉を取り戻しつつあるのは大変喜ばしいことなのだが、直輝にとって女子はともかく男子生徒の関心が可愛い朝陽へ向けられてしまう事を想像すると複雑だった。
思わず渋い表情を浮かべるも、すぐさまこちらの表情の変化に気付いた朝陽はきょとんと首を傾げた。
「なおくん、どうしたの?」
「いやさぁ、朝陽ってすごく可愛いだろ? 美少女ギャルっていうかさ」
「え、あ、う、うん。その、ありがとう……」
「俺と朝陽の話に耳を傾けてくれる人も多くなった。これから噂が少しずつ減っていって、完全に噂が無くなったらきっと可愛い朝陽は人気者になる。特に男子から、な。……そう考えると、少し、少〜しだけだが、もやもやしちゃってな」
歩きながら自分の気持ちを素直に吐露する直輝。
今まで自分しか知らなかった魅力が他の人に知れ渡ってしまう、優越感が薄れてしまうこの感じ。いつの間にか朝陽が遠くに行ってしまうような物寂しさを感じていたのだろうか、と直輝は朝陽に対する独占欲を自覚すると同時に自己嫌悪してしまう。
嫌われてないだろうか、と直輝は不安を覚えながら恐る恐るちらりと隣にいる朝陽へ視線を向ける。しかし、何故か彼女はきょとんとした表情を浮かべていた。
「……え、もしかして嫉妬? なおくんが? ウチに? ……マジぃ?」
「あーそうだよ。マジもマジ、大マジだ。朝陽が他の男子と仲良さげに話しているのを想像すると軽く死ねる」
「……へー、ふーん。そっかそっかぁ」
「あのさぁ、別にこれはふざけて———」
「良かった。ウチもおんなじ気持ちだったから」
「へ?」
思わず呆けた声をあげてしまう直輝だが、彼女はそのまま言葉を続ける。
「今まで気付いてないみたいだったから黙ってたけど……なおくんのその姿、実は他の女子から人気があるんだよ?」
「ははは……それこそ冗談だろ?」
「ワイルドで格好良い、これまでとのギャップに萌えた、とか様々だね。なおくんに関するそーゆー話を聞いてると、嬉しかったと同時に嫉妬しちゃった」
「なんだ……。朝陽と俺、似たもん同士だな」
「そうだね、なおくん」
歩みは止めず、互いの瞳を見つめて微笑み合う。
どうしても伝えたいことがあった直輝は、間を一拍あけると再び言葉を紡いだ。
「なぁ朝陽」
「なぁに、なおくん?」
「俺、あの日キミに出会えて良かった」
優しげな笑みを湛えた直輝がそう告げると、朝陽は少しだけ目を丸くさせる。そして次の瞬間、ふわりと目を細めながら笑顔でこう言った。
「ウチもだよ。……大好きっ」
———二人が結ばれる日も、そう遠くはない。
———fin.
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どうもぽてさら(/・ω・)です!!
最終話までお付き合いして下さりありがとうございます。
「ダウナー系美少女ギャルに告白したらフラれた。諦めずに何度も告白したら彼女になった。」、リベンジ系いちゃあまラブコメは如何でしたでしょうか? 少しでも暖かい気持ちになって頂けたのならば幸いです。
さて、普段から私の作品を読んでくださっている方ならばお気付きだと思いますがこの「ギャル告」、実はなんと毎日更新してたんです(どどーん)!!
日頃から遅筆だの虚弱体質だの言ってる私が毎日更新(最終話を除いて)!! 久しぶりの試みでしたが、なんとか描き切れたのはとても嬉しいです。はい!!
おそらく皆様の暖かなコメントや応援がなければ厳しかったでしょう。
重ね重ね、ありがとうございましたm(_ _)m
それではどこかでまた会いましょう。
是非「面白かった」「可愛かった」などなど思って下さったら最後にフォローや☆評価、♡ハート、コメント、レビューでこの作品の評価をよろしくお願いします(*´ω`*)
ダウナー系美少女ギャルに告白したらフラれた。諦めずに何度も告白したら彼女になった。 惚丸テサラ【旧ぽてさらくん。】 @potesara55
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