第10話

カラオケの部屋に入室すると、泉は部屋の電気は付けずに自分が羽織っていたコートをドアに掛ける。


「これで2人っきりですね先輩。学校だとあんまり話せなくて寂しいです。」


そう言って隣にすわる。


「なにか飲み物を取ってこようか?」


「お願いします。私はアイスティーでよろしくお願いします。」


「了解。」


僕は部屋を出てドリンクバーに向かい、飲み物を取りに行く。


自分には炭酸飲料をとり、泉のアイスティーを取って部屋に戻る。


戻ると僕の制服のブレザーに頭を埋める泉がいた。


「何してるの?」


そう聞くとガバッと起き上がる。


「見てたんですか!?…先輩成分の補充です。部活中もあんまり話せなくて寂しかったんです。」


僕も席に座り、飲み物に口をつける。


「奏が部活に入るとは思わなかったよな。なんかごめんな。」


「いいんです。」


そう言って泉は僕の膝に頭を乗せて寝転がる。


「だからここで先輩を感じさせてください。」


それを聞いて僕は泉の髪を撫でる。


しばらく泉は目を細め、心地よさそうに僕に撫でられる。


深く呼吸をする度に上下に動く胸に目がいく。それとなしに目を逸らして髪を撫でるのを続けると。


「先輩…。隠さなくたっていいんですよ…?」


泉はそう言うと、制服のワイシャツのボタンを2つほど外す。


目に映る景色に昨日の情景を思い出し、目を合わせられず視線を彷徨わせる。


「目、そらさないでください。こっちみてください先輩。」


「こんなとこでダメだろ。監視カメラとかもあるかもしれないし。」


「知らないんですか?ここって監視カメラなくてカップルのデート場所として学生の間で有名なんですよ?」


「そんなこと言ったって…。」


「なんで私が部屋に着いたらドアにコートをかけたか分からないんですか?部屋の中が見えなくなるためですよ。ね?だから先輩来てください。」


泉は僕の手を引っ張ると僕が泉に覆い被さるような姿勢になる。


「なんだか、先輩に抱きしめられてるみたいです。いつもと逆ですね?私先輩に抱きつくの好きですけど、こっちもいいですね。もっと強く抱きしめてください。お前は俺だけのだーみたいな感じに感じたいです。」


「わかったよ。」


僕は泉に言われた通りに強く抱きしめる。彼女の体は細く、強く抱きしめるとなんだか折れてしまうような不安を感じさせるようなものであった。


「もっと強くです。私を壊してもいいんです。他のものなんていらないですよね。私だけを好きにしていいんです。」


さっきまでの明るく会話していた彼女の影はもうなく、昨日の夜のような。その瞳に吸い込まれるような闇が浮かぶ。


「好きです。先輩。」


口の中がからからに乾き、コップの中身を飲み干すと、僕が持ってきた飲み物の炭酸は抜けきっていた。

















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ツンデレ幼馴染は僕に彼女が出来たらヤンデレる 甲種ヤンデレ取扱者 @genesissakuya

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