びっくりするほどユートピア よ永遠なれ

惟風

永遠なれ

 あれ、お兄さん見ない顔っすね。もしかして新人さんすか?

 あー、遅刻しちゃったのヤバいなあ。今日のシフトAだって完全に勘違いしててー。てっきり夜中から交替だって。申し訳ないっす。

 先輩も先輩すよね。新人さん一人にしたまま引き継ぎもせずに上がっちゃうなんてねー。いつもは結構そういうトコ真面目にするヒトだと思ってたんだけどなあ。

 えーと、じゃあ今日は同行で一日自分がつくんで、あんま緊張しなくて大丈夫っすよ。ゆっくり覚えてください。

 え、仕事自体が初めてなんすか? 何が何やらさっぱりわからない? ホントっすかあ? その割りにめっちゃ慣れた感じで自担じたんいてこうとしてたじゃないすか。

 気のせい? そっかー。まあいいや。

 “上”もさあ、新人さんにはちゃんとオリエンテーションするとかしてほしいもんすね。

 初めてで大変なとこに来ちゃったっすね。ここ担当するの、結構キツいっすよー。

 んじゃ、イチから説明するっす。


 簡単に言うと、ウチらの仕事は「守護霊」やることっす。

 現世でおっんだ人間の中から、色んな審査を経て抜擢ばってきされたヤツがなるんすけど、ぶっちゃけどこの誰が選んでるかは自分もれき浅いんでよく知らないんす。

 ある程度おつとめを果たしたら天国に行けるー、みたいなハナシも聞くんで、頑張るに越したことないかなあって個人的には思ってるっす。

 新人さん、気がついたらここにいた、って感じじゃないっすか?

 あー、わかるわかる。自分もそうでしたもん。いきなり半透明の透けた身体で浮いててびっくりするっすよね。

 自分は前の人間の時がデビューで、赤ん坊の時から老衰で死ぬまできっちり見守りました。

 最初はどうしたら良いかわかんなくてオロオロしてたんすけど、近くにいた人間の守護霊がちょいちょい教えてくれて。

 守護霊つってもね、基本的には何もすること無いんすよ。今みたいにこうやって自分が守護する担当の人間を見てるだけ。あ、そろそろ家に着く頃っすね。

 たまに成仏できなかった悪霊が寄ってきたらシッシッあっちいけー、ってするくらいっす。そんな怖がらなくていいっすよ。悪霊なんて滅多に出ないっす。

 まあ、たまーにすげえタチの悪いのに出くわすこともあるらしいっすけど。生きてる人間の魂だけじゃなくて、守護霊まで食べちまうってハナシですよ。怖いっすねー。

 え? いやー、立ち向かうとかムリムリムリ。そういうときは即逃げで上司に報告っすよ。後は上が何とかやってくれるっす。後でそういう報告とかの仕方も教えますね。

 で、まあ基本の説明って言ったらこんなもんすけど、新人さん……運が悪かったすね。

 コイツの守護霊やってる間は、あんまり基本通りにいかないんす。

 コイツ。ウチらの担当。


 波多家はだか 賢治けんじ

 パッと見、普通のサラリーマンって感じなんすけど。

 コイツがもうめちゃくちゃ特殊な奴で。

 そもそも、守護霊てのは基本、一人につき一体て相場が決まってるんす。

 それが、コイツに至っては、複数いるんす。

 いや、そりゃあ、たまにめちゃくちゃソッチ系の能力が強かったり徳の高い人には二〜三体くらい憑いてるのはありますけど。

 コイツはもう規格外なんす。

 担当の守護霊何体いると思います?



 です。



 いや、言いたいことはわかります。みんな、最初は「は?」って思うんす。自分もそうでした。

 こんなん「ショートコント『守護霊』」って叫んでからやるようなやりとりっすよね。全然ウケない芸人が。でも違うんす。これがサムいお笑いのネタだったら良かったんすけど。

 こればっかりは見て、経験してもらうのが一番早いっす。

 ちょうど良いっす。そろそろ始まるんで。

 見てくださいよ。コイツ仕事から帰宅したら当たり前のように脱ぎ出すんす。

 まあこれはそこまでおかしくないっすね。裸族なんて珍しくないっすから。

 問題はここからっす。ほら。

 すんげえ顔してますよね。コイツ自身が怨霊なんじゃねえのってくらい。白目がエグい。

 そんで。ね。すごい音でケツ叩くっしょ。

 これが、こっちの魂に響くんすよね。初めてでちょっと刺激強すぎたすかね。大丈夫すか。何か震えてますよ。

 まだまだこんなもんじゃないっすよ。

 あ、始まった。


 あんなドスドスとベッドで踏み台昇降して、バチンバチン尻しばいて、苦情来ないんかなって思うっしょ。

 割りとスルーらしいっすよ。

 何でかって



「びっくりするほどユートピア!」



 あー、ほら。

 もうわかったっしょ?

 コイツのこの奇行、めっちゃ悪霊退治に効果あるんす。もう覿面てきめん

 だから、霊障に悩まされてる曰く付きの物件に住んでる人達にとっちゃ、うるさいどころか逆に有り難いみたいすね。


 もう限界なんじゃないすか? めっちゃ苦しそうすよ。

 いやあ、最初っからわかってたっす。いくら自分みたいなテキトーな奴でもね、悪霊かどうかくらいはね。

 アンタ、先輩喰ったろ。

 シフト間違えたりしなきゃ、守れたかもしんねえのになあ。悔しいっす。面倒見の良い先輩だったのに。

 おっと、そんな簡単に逝かせないっすよ。

 アンタには、かぶりつきの特等席で浴びてもらいますからね。

 コイツ、体力切れて気絶するまでやり続けますから。ゆっくりお話しながら楽しみましょうや。


 悪霊を引き寄せやすい土地柄ってのがあるんすよねえ。祓っても祓っても、アンタみたいのがすぐに寄ってきちゃって。

 でも、コイツが住んでる間はその土地大丈夫なんす。だって、コレを毎日やってるんすから。

 毎日。正気の沙汰じゃないす。

 しかも本人には霊感も何もないから、お祓い行為をしてる気は微塵みじんも無いんすよ。頭おかしいですよね。

 奇跡の変態す。

 いくらお祓いの対象じゃないからって、こんなん毎日浴びせられたらコッチも無事じゃ済まないんすよ。

 だから、毎日交替制なんす。

 一回勤務するだけでダメージ半端なくて、回復するまで百日くらいかかります。

 はあ、っぱキツいなあ。


 ……ふう、先輩倒すくらい強い癖に案外根性無いんすね。

 今まで喰った人間に謝りながら消えると良いっすよクソが。


 ヤレヤレ。今日はとんだ一日だったな。

 ケンジも気絶したし。

 明日の逢魔が時までゆっくりするか



「びっくりするほどユートピア!」



 え、ちょ、え?

 おかわりなんて聞いてないっすよ!?



「びっくりするほどユートピア!」



 ちょマジやめてそんなアッそんな強いのもう何回もはもうダメんっアァッしゅご



「びっくりするほどユートピア!」




 アッ―――♡





 〜fin♡〜



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