ズレているツボのせいで......

ゆりえる

後悔先に立たずが多過ぎて......

 箸が転んでもおかしい年頃のうちに、その事に気付いていられたとしたら、どんなにか良かったのだが......


 頭の中に、雑草から観葉植物まで多種多様に咲き乱れているような私は、その年頃が、いつまでも続いても許されるものだと、勝手に錯覚していた。


 思い起こせば、かなり昔、中学生時代......


 その頃は、お笑いが一大ブームの時で、私の友人もクラスメイト達も皆、教室では前日のテレビのお笑い番組の話で持ち切りだった。

 が、私だけ、話に入れなかった。


 私は、その頃からずっと笑い上戸な性格で、もしも、お笑い番組を見ていたとしたら、クラスの話の輪に入り、思い出し笑いが出来ていたのかも知れないが、そうも出来ない理由が有った。


 今の娘達のアニメオタクの口火を切っていたと言っても過言では無いほどに、当時の私は、アニメや特撮ヒーロー番組が大好きだった。

 残念ながら、学校では共通の趣味を持つ友人を見付けられず、同じテレビ時間を共有している家族内だけで楽しんでいた。


 そんな内々のお楽しみだったが、野球のシーズンになると、テレビの主導権は父に移り、我慢させられる日々が続き、雨が降った時だけ、チャンネル権が回って来て喜んだ。


 働き出して1人暮らしをし始めてからも、自らお笑い番組など見る機会など無く、自分なりの日常生活を続けて来たが、その時にも、全く違和感無く過ごしていた。


 気付いたのは、主人と結婚してからだった。


 彼は、何よりお笑い番組が好きだったが、自分には、その頃はもうパソコンという強い味方がいて、それぞれの世界を楽しんでいた。


 そうも出来ない事態になったのが、主人の実家に遊びに行った時。


 主人と同様、お笑い番組好きの彼の家族が、当然の如く、団欒だんらんの時に、お笑い番組を入れてきた。

 初めて、お笑い番組を目の前にして、他の人達が一斉に笑っているところで、なぜか全く笑えず、周りが笑っている事に驚かされる。

 そんな事が何度も続き、ついに、

 

「これのどこが面白いの?」


 と思わず発した言葉で、主人の家族からは、かなり反感を買っていたらしい。


「自分の頭の回転が悪いせいで、面白く感じられないからって、皆が好きで楽しんで見ているお笑い番組を批判しない方がいい」


 と主人にきつく戒められた。


 そんな風に言われてもと思ったのだが......


 そういえば、たまに映画館やCMなどで、私が面白く感じて笑っている時には、周りはなぜか無反応だった。

 映画が終わった後、主人に、


「どうして、あのシーンの時に笑ったの?」


 と尋ねられたが、そう尋ねられる方が、私にとっては心外だった。


「そんなの当然、面白かったから、笑ったんだけど......」


「あそこは、笑うべき場面ではない。大体、いつも笑いのツボがズレている!」


 主人に指摘されて、やっと、自分の笑いのツボが他の人とズレているという事に気付かされた。


 これは、自分の生まれ持った個性のせいなのか、幼少期からお笑い文化に親しむ習慣が無かった事が原因なのか分からない。

 周囲に、主人のようにハッキリ言う人がいたから気付けたものの、それ以前は、気付かずに、周囲に無神経な言葉を発していたような気がしないでもない。

 

 気付かされなかったら、周りの気に障る事を無自覚のまま実行していたかも知れないが、気付かされた以上、これからは気を付けようと心して10年余りが経過していた。


 最近、今度は娘達から、その事を指摘された!


 あの時以来、ずっと自分の中では、周りに気遣っていたつもりでいたのに、なぜか、その辺りの学習能力が欠如しているらしい。

 

 お笑い番組で笑える訓練すべきかと、真剣に考えさせられる、今日この頃......



       【 完 】

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