猫の手を借りれなくなった犬。

かなたろー

猫の手を借りれなくなった犬。

 我が家には犬がいる。そして何年か前に亡くなってしまったのだが猫がいた。

 そして我が家のヒエラルキーは、妻、猫、犬、そして私であった。


 このヒエラルキーは絶対であり、ゆるがない。


 毎朝起きると、猫は、猫なで声をあげる。


「にゃーん」


 と、猫なで声でおやつのにぼしを要求する。

 要求するのは必ず猫で、犬は猫なで声の猫の後ろで、おすわりをして待機する。


「さかにゃーん」


 猫は、猫なで声をあげながら、その手…というか前足で、私の足をふみふみと踏んづけて、すりすりと自慢の毛並みを私の足になすりつける。

 私は眠い目をこすりつつ、台所にあるペット用煮干しの頭を取り除いて、猫に与える。

 そしてその一部始終を、ペロリンとしたなめずりしながら凝視している犬に、猫が嫌いなにぼしの頭をあげるのだ。


 これが、我が家の猫がなくなるまでずっと続いた。


 我が家のヒエラルキーは絶対であり、妻、猫、犬、そして私である。

 絶対なのである。


 さて、基本的にこのヒエラルキーが崩れることはないのだけれども、唯一崩れる瞬間があった。掃除機をかけるときだ。


 我が家の猫は、掃除機が嫌いだった。大嫌いだった。とにかく大きな音が苦手なのだ。

 猫は、妻や私が掃除機を持つや否や、大急ぎで別の部屋へと逃げていく。そしてその逃げていく様をまるで勝ち誇ったように犬がワンワンと叫び猫を追い立てる。


 日頃のうっぷんをここぞとばかりに晴らしているのだろう。

 猫の手を借りてにぼしをゲットしているくせに、恩を仇で返す、なんともひどい仕打ちだ。


 さて、我が家の愛猫は数年前に亡くなってしまったのだけれども、センパイの猫の手を借りることができなくなった愛犬は、朝、にぼしをゲットする手段を失った。自分からは、一切にぼしが欲しいとアピールをしてこない。


 おかげでうっかり、渡し損なってしまうことが度々ある。


 愛犬もすでに9歳。妙齢に差し掛かるころあいだ。カルシウムを積極的にとっていただきたいのだ。

 もう、猫の手は借りられないのだ。いい加減、自分でアピールをしていただきたい。

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猫の手を借りれなくなった犬。 かなたろー @kanataro_

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