「五感王子ファイブウィッツ」の実写化が不安しかない件について

タルタルソース

「五感王子ファイブウィッツ」実写化に不安しかない件

「え…五……なんて?」

「いや、五感ですよ、“五感王子 FIVEWITS《ファイブウィッツ》”」


 テレビ局の撮影スタジオ横の小さな控室。深夜ドラマの撮影を終えた俺、八久梨也(やく・なしや)は、「良い話」がある、とマネージャーの岡田に声をかけられた。


「聞いたことないですか?」

「一ミリもないけど……知らないとヤバい?」

「ターゲットの10~20代女子の一部の界隈ではじわじわ来始めそうな感じがしないでもないアニメです」

「歯切れわる」


 高校卒業して役者の世界に飛び込んで4年。自分なりに頑張ってきたつもりだが、与えられる役は、今日の“主人公の友達の大学生”……のようなちょい役ばかり。いい加減もっといい役もらえねえかなぁ、と悶々としていたところだったので、岡田の喜々とした顔に色めきだっていたのだが……。


 岡田のいう「良い話」とは、“五感王子 FIVEWITS”なるアニメ(タイトルのダサさはどうにかならないんだろうか)が来年春に実写映画化することが決まり、そのメインキャストの1人として、俺にオファーが来ている、というものだった。


「これは絶対チャンスですよ!八久さん」

「うーん……」

 映画のメインキャスト、というと確かに悪い話ではないが、なんだか素直に喜べない自分がいた。アニメの実写化って当たり外れ大きいって聞くし、原作ファンでお客を確保しようという「商業感」が個人的に好きではない。俺はもっと渋い、硬派な作品に出たいのだ。そもそもあんま有名な作品でもなさそうだし……。


 俺はスマホを手に取る。ご、か、まで入力したら予測変換に「五感王子」が出てきた。へえ……ほんとに実在するんだ、という妙な気持ちになった。


【『五感王子 FIVE WITS』は、ペンタゴン・エンタテインメントが提供する女性向けスマートフォンアプリ、およびそこから派生したアニメーション作品。】


 もともとアプリのゲームなんだ、ふーんとウィ●ペディアを読み進める。



【ストーリー

 主人公は、私立五感学園に通う冴えない女子高生。学園内で知名度・人気・学業やスポーツの成績全てにおいてトップクラスのイケメン5人、通称「FIVE WITS」とひょんなことから知り合いになり、彼らに振り回されながらも学園のトラブルを次々解決していく。

ゲーム版では、ストーリーが進むにつれ好みの「FIVE WITS」のメンバーと「親密度」を深めることができ、一定数を超えると、告白やデートなどのイベントが発生する。】


 あーーーーーね。こういうやつね、はいはい。イケメンに囲まれる系のね。そういえばCMで見たことあるような。いや私立五感学園ってなんだよ、とか、ひょんなことからってどういう具合だよ、とか設定の各所にツッコミポイントは見受けられたものの、なんとなく大筋は把握した。


「メインキャストってことは、俺はこの……「FIVE WITS」なるやつらの誰かをやってほしいってこと?」

「はい。個性的なキャラたちを、まだ知名度が高くないフレッシュな若手イケメン俳優に思いっきり演じてほしい、と」


 個性的なキャラねぇ……なんかこう、なんとなく想像はついちゃう気がするんだが……と思いながら、ウィキペ●アの「キャラクター」欄に目を通してみる。



FIVE WITSのメンバー


(「五感を刺激する5人」という意味で、学園内のファンクラブの間では、それぞれに五感とイメージカラーを当てはめている。)


●藍川瞳真(あいかわ・とうま) 2-A 【視覚/赤】

 性格はクール。鋭い目つきで口も悪く、周囲の人間を見下す傾向にあったが、主人公との出会いで徐々に変わっていく。「怖い人」と思われがちだが、実はおっちょこちょいで、大の猫好きという一面も持つ。コンタクトをよくなくし、主人公とよく捜索する。

決めセリフ:「お前の瞳を俺でいっぱいにさせてやるよ」


●甘坂味和(あまさか・みわ)  1-D 【味覚/黄色】

 性格は甘えん坊。“年上キラー”の異名をとり、メンバー曰く「可愛い顔して一番女好き」。

 狙うのはもっぱら上級生。実家の定食屋を小さいころから手伝っており、料理の腕は一級品。得意料理はオムレツ。

 決めセリフ:「恋の味、俺に教えて?」


●三宮音(みみや・おと)    2-C 【聴覚/緑】

 性格はマイペースで気さく。藍川瞳真とは幼馴染の親友。軽音部に所属し、ボーカルとギターを務める。「天使の歌声」と称される綺麗な歌声で、その腕前は有名レコード会社も注目するレベル。主人公とは好きなバンドが同じことで、打ち解けていく。

 決めセリフ:「耳元で、なんてささやいてほしい?」


●花倉薫(はなくら・かおる)  3-B 【嗅覚/紫】

 性格は上品で落ち着きがある。華道の名家の生まれだが、運動神経に恵まれ、サッカー部

 ではゴールへの嗅覚に優れたFW。練習後の匂いケアは欠かさない。人を「香り」でかぎ分ける特技があり、主人公の「香り」が特にお気に入り。

 決めセリフ:「もうちょっとだけ、君の香りで癒されたい」


●霜触辰智(しもふれ・たつち) 2-E 【触覚/青】

 誰にでも優しい性格。大財閥「霜触グループ」の御曹司。1万に1人といわれるほどきめ細やかなもち肌を持つ美白男子。幼少期にアメリカで育ったため、挨拶がハグ。仕事に忙しい親と接点が薄い反動で、「人の温もり」を大切にする。

 決めセリフ:「もっと君に触れたいから、もっと僕に触れて」


「あの、岡田」

「はい」

「どれもやりたくないんだが」


そう言って、俺はコト、とスマホを机に置き、天を仰いだ。

いやどの決めセリフも言いたくねえわ!

ていうかそもそも「五感」がコンセプトってなに!?攻めすぎじゃない!?

普通、こう、星座とか、十二支、とかそういう感じなんじゃないの?「五感」て!

結局無理して五感に合わせてキャラつくりました感が滲み出てるしね!?

これキツイよね?アニメならぎりっぎりなんとかなったのかもしれないけど、実写映画化はどう考えても横暴だよね???

……と心の中で叫び終わったあと、もう一度岡田の方を向く。


「ちなみに、俺はこの5人のどの役でオファーがきてんの……?」

 そう聞くと、なぜか岡田は気まずそうな顔をしていた。

「あ、えーと……オファーが来ているのはその5人ではなくて」

「は?」

 メインキャスト、という話だったはずだが、と俺は首をかしげる。

「実は……実写映画では、オリジナルキャラを加えようという話になってて」

「オリジナルキャラ……」


 原作の良さも大切にしつつ、オリジナルの要素も加えて、新鮮味を出したいというプロデューサーの意向により、実写映画化のみの「オリジナルキャラ」を出す脚本になっている、そして、その「オリジナルキャラ」役としてオファーが来ている、と岡田は話した。


 最悪だ、と俺は思った。そういう、原作ファンの愛を無視した荒療治が一番作品を台無しにするんだよ……やだよ、オリキャラ役なんて絶対地雷じゃねえかよ……


「……一応、一応聞くけどさ、どういう役なわけ?それは」

「えーと、名前は“六 勘之助(ろく かんのすけ)”です」

「おい絶対2秒で決めただろ」

 いや僕に言われても、と岡田は愚痴をこぼし、手元の資料を見ながら話を続けた。


「えーと……設定はですね、私立五感学園にやってきた転校生で、特技は剣道。語尾は“ござる”。未来を察知するような「直感」を持つ。最初はFIVE WITSと敵対していたが、彼らのピンチを「直感」で察知し、救ったことから仲良くなっていく……」


「設定は30秒だな、合わせて32秒。五感に1人加えんなら“第六感”でしょ~~っつって酒飲みながら考えた感じがもう見え見えだわ」


 そう吐き捨てるように言って、俺は席を立ち、帰り支度を始める。


「あ、ちょっと……梨也さん、受けない気ですか?」

「わりぃけどな……。そんなえり好みできる立場じゃないってことも分かってはいるけどよ。正直映画は大コケする気しかしねぇし、“オリジナルキャラ”役なんてなおさら叩かれそうだ。泥船にのるのは御免だぜ」


 自前の衣装をリュックに詰め、俺は部屋を後にした。



 半年後。

【実写版「五感王子 FIVE WITS」大ヒット!!

 オリキャラ「六 勘之助」の渋さにハマる人続出!!】


 仕事のない平日の昼間、俺は家のベッドでスマホニュースを観ながら、唇を噛んでいた。おい、うそだろ……。


【……公開1週間で観客10万人を超える大ヒットにプロデューサー護摩 須利之助は、「オリジナルキャラを出すのは個人的には挑戦だったが、ファンに受け入れられてよかった。決断の決め手?うーん……ぼくの第六感ですかね(笑)」と語る。


六 勘之助役を務めた弥里 益男(21)は「僕ももう、話が来たとき、直感、僕のなかの第六感でこれはやったほうがいいと思いましたね。なんか僕の前に役を断った人もいたみたいですが……」と笑う。】


第六感……か。

俺にはなかったなぁ……。


とりあえず、アニメ観るか……。

俺はアマ●ンプラ●ムを開き、「五感王子 FIVE EITS」の第一話を選んだ。


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