第95話「ミニスカート」

 とある休日の昼間。

 俺と凜は家でまったりと過ごしていた。最近はお義父さんの嘘が発覚して家族が崩壊しかけたり、市民プールで涼むつもりが恥ずかしさで全身に血が通ってむしろ熱くなったりといろいろなことがあった。


 凜はいまだに俺の家に泊まっているが、そろそろ自分の家に顔を出すつもりらしい。今日は暑いので取りやめにしたそうだ。


「じゃーん! どう?」

「かわいい。けど露出が多い」


 そんな俺たちが何をしているのかというと、リンコレだ。

 俺の家に泊まることになる際に、お義母さんが凜のタンスにあった服をすべて持ってきてくれた。そして最近凜自身もネットショッピングや大型ショッピングモールに行った際に気に入った服を買い込んでいた。

 その一方で気温はどんどん上がっていきもともとインドア派である俺は家にいることを好む。凜はそれに合わせてくれているので必然的に買った服を着る機会がないという問題に直面する。


 そこでその問題を解決するために凜が考え出したのがリンコレである。

 することは単純明快。凜が好きな服を好きなようにコーディネートしてモデルのように歩く。俺は観客として凜のファッションをみながら、同時に彼氏として隣に立つものとしての忌憚なき意見も求められている。


 そんななかで俺と凜が物議をかもしたのはミニスカートだった。


「え~、でもミニスカートなんてそんなものでは? このひらひら感がかわいいよね」

「分かるぞ。隣に並ぶ彼氏はずっと鼻の下伸ばしてそうだな」

「あ、空くんが鼻の下を伸ばしそうだからダメってこと?」

「そうじゃない。......あと、俺は鼻の下なんて伸ばしたりはしない。せいぜいストーカーだといわれない程度の視線で追いかけるだけだ」


 見るのね、と若干引かれたような印象を受けたが、そんなものは男に生まれたならば日常茶飯事であり、一喜一憂する方がおかしいというものだ。

 そして俺はミニスカートが嫌いなわけじゃない。むしろどちらかというと好きだというぐらいまである。健康的な肌が絶対領域を通して露になるもはや風景ともいうべきその光景はどの絵画よりも引き付けられるし、どの経典よりも確実に人の心をつかみ取るだろう。


「ミニスカートが嫌いってわけじゃなくてむしろ好き。でも露出が多いからいやだ......。空くんの好きなミニスカートを私が履くとどうしてだめになるの? 私そんなに似合ってないのかな?」

「いや、よく似合ってる! そこは本当だよ! そもそも凜に似合わない服なんてないだろうに。そうじゃなくて露出が多いからであって」

「露出が多いってミニスカートなんだから生足が出るのは仕方ないでしょ? タイツ履けってこと?」


 タイツもいいな、と考えてしまった俺を心中で殴っておく。今はそういうことを考える時ではない。

 俺は凜に正直に話すのは避けたかったのだが、どうしても理由を聞くまで引き下がってはくれないらしい。仕方ないので俺は思い口を開いた。


「そうじゃなくて。......凜は可愛いから、世界で一番かわいいから生足なんてだしてたら他の男がたくさん寄ってきちゃうだろ」


 俺が若干拗ねたように言うと、凜はきょとんとした表情を浮かべた後、本当に面白そうにくすくすと笑っていた。


「な、何だよ」

「別にっ? 前の水着の時はなんだかんだ言って結局私はビキニ姿で泳いだのに、ミニスカートは全力で止めてくるんだなぁって思って」

「あれだって完全に認めたわけじゃないぞ。あの日はたまたま凜と同じようにビキニの人が多いと思ったから何も言わなかっただけで」

「というのは建前で実は?」

「俺が凜の姿をもっと見たいと思ったからです。......って違うからなっ!」


 俺がノリツッコミをいれると凜は面白そうに笑った。俺もそれにつられて笑ってしまう。

 こういう他愛もない話をしているときが一番凜と一緒に過ごしているという感じがして好きだ。もちろん、どこかに遊びに行くのももちろん楽しいし、そこで見せてくれる凜の表情は無二であるからそこでしか味わえないこともたくさん。だが安心感というか俺の心を温かくしてくれるのは今のような空間でしかない。


「本当はミニスカートでも何でもいいのかもしれない。凜が俺の隣で笑顔でいてくれるならそれで」

「え、ごめん聞いてなかった」


 ......。

 ま、まぁ?! 俺だって急に湿っぽいこと言ってしまったような気もするし、凜に言おうとしたのではなくて俺自身を納得させるために言葉にしただけだし? 別に聞かれていなかったとしても損害ゼロっていうかむしろ聞かれなかっただけよかったなぁって感じだから別にいいんだけど! 別にいいんだけど!


 俺がせめてもの仕返しにとした唇を尖らせて猛抗議をしていると、凜は俺のその表情を見て近づいてきた。

 そして何を思ったか、俺の唇に自分の唇を重ねた。


「私も空くんが笑顔でいてくれるならミニスカートだろうが何だろうが別に何でもいいよ。二人が笑い合えるような服を選ぼ! 今度のデートのために!」


 凜には絶対に敵わない。そう思わされた。

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