第76話「じっと待ってる」
俺は凜にメールを送ってからずっと屋上から動けないでいた。いや、ここはかっこよく待っていた、というべきだろうか。
萩は空気を読んだのか、さっさと帰ってしまうし俺はそれに合わせて帰った方がよかったのだが、どうにも足が動かずに見送る形となった。
『明日、話したいことがある』
俺は端的にそう送った。最近はメールで告白する人もいるにはいるみたいだが、俺は何だか逃げているように思えて好まなかった。だから要件は話さず、要件があるということだけを伝えることにした。凜がどう受け取ろうとも、大丈夫なように。
さて、問題は俺がどうやって告白するか、だ。
脈絡も何もなくいきなり告白などしてしまえば、相手も訳が分からくなってしまうに違いない。そのおこぼれで「yes」の返事がもらえるかもしれないが、それでもらった返事にどんな意味があるだろうか。
前のデートの時のように綿密に緻密に作戦を練る必要がある。
ともかく大事なのは、告白する前に今まで通りの普通の会話ができるかどうかだろう。そこから自然な流れで告白ができたらベストだろう。俺が緊張して嚙み噛みになったり、ぎこちなさを出したりしなければ。
「......そうだ、いいこと思いついた」
俺はその瞬間に自然な流れにする方法を思いついた。
それは、俺と凜を繋いでいる唯一のものを使うということだった。これを使えば俺は至って自然に振る舞うことができるし、そこから告白にも繋げやすい。
内容は決まった。ならば次は場所だ。
告白に相応しい場所はどこだろうと少し考えてみる。
体育館裏は王道だし、教室の中は今までの俺たちの関係に疑問を抱いていな人からすれば疑問でしかなくなってしまう。わざわざ好奇心を焚きつける行動をとる必要はないだろうし、俺としても一世一代の告白なのだから、必要最小限の人にしか見られたくない。
「......ここ?」
屋上。
俺と凜ははじめのころ、それこそ事あるごとに屋上に来ていたように思う。それにそもそも屋上に来た理由はほとんど人がこないルートの屋上を知っているから、というものだった。人の問題も一気に解決したように思う。
よし、ならば屋上にしよう。実にバレていたり、萩が知っていてたまに使ったりしているようだが、流石に明日ばったりと鉢合わせすることはないだろう。
実はそもそも学校に来ていないから心配する必要もない。
俺はそこまで考えてようやく足が動くようになったことに気づいた。これでようやく帰路に付ける。一歩一歩を噛み締めながら俺は屋上を抜けていく。
明日に希望と、未来を託して。
☆☆☆
空くんからメールが届いていた。中身は単純明快すぎるほど短文であった。けれど、それが逆に何か決意があるように見えて私は既読をつけることなく携帯を放り投げた。携帯は弧を描いて布団に沈みこんだ。
明日、私は空くんから何を告げられるのだろう。
ここ最近の私と空くんの関係はとてもではないがカップルだとは言えない。だから偽彼氏と偽彼女の関係を終わりにしようといわれても仕方がないかもしれない。そこで私と空くんの関係を繋ぐものは何もなくなってしまうわけだけど、空くんはそういう微妙なものを清算したいと考えるタイプだったのだろうと思うしかない。
一縷の希望を託すとするならば私に告白してくれるのかもしれない。
空くんの目前に無情にもたくさんの男を振ってきた女に?
考えたら抜け出せない沼にはまることを分かっていて考えることを止められない。
私はどうしようもなくなって、布団にダイブした。
「あいたっ?!」
不運にも先ほど放り投げた携帯が私の額に当たって私は悲鳴を上げる。
神様に追い打ちされたような気がして私は泣きたくなってしまう。そのまま布団にうずくまって足をバタバタとさせて気を紛らわせようとする。
悲しいのか嬉しいのか分からない。どちらもあるようでどちらともが攻撃し合って打ち消し合っているような気もする。
何か進展があったことは嬉しい。空くんが私に初めてメールを送ってくれたことも嬉しい。
私が考えていたみたいに契約を終了しようという話だったら悲しい。
告白だったら嬉しいけど、さよならを言われるのではないかと怖い。
感情が入り交じり、吐きそうになる。
こんな感情は初めてだ。今まで私に告白してきた人はこんな感情を抱きながらも勇気を振り絞って告白していたのかなぁ。だとしたら私は恋がどういうものかをも知らないままに振っていたことになる。申し訳ないと思いつつも、それでも私の気持ちは変わらないからと突き放す。
空くんがもしも告白してくれなかったら、もう終わりにしようと言ってきたなら。
たぶん叶うことはないと思うけど、最後に私の気持ちを彼に伝えよう。
私はそう決める。そしてそう決めると今まで不安でいっぱいだった心が段々と澄んだように整ていくのを感じた。
明日は朝から空くんとたくさん話そう。そして—―
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