第74話「惚気よりも相談に」
「遅いっ! 凜の大事な話があるって言ったじゃん! すぐに来てよね!」
「そ、そういわれても家からここまで二十分はかかるんだよ......。おまけに家に帰ってシャワー浴びてたところだったから......何でもないです、ごめんなさい」
前原くんはあおちゃんの緊急招集で急いで来てくれたみたいだ。少し申し訳ないことをしたなぁと思いながらもあおちゃんが先ほどとは違い、はっちゃけているところをみると楽しそうだなと思ってしまう。
前原くんは弁明しても許してもらえず、完全に尻に敷かれてしまっているが。
私は空くんを尻に敷くことはないだろう。きっと、たぶん、ほとんど?
まぁともかく、あおちゃんが前原くんを呼んだのは彼が空くんの限りなく少ない友人の一人だからだろう。
「それで、何の話?」
「凜が限りなく告白に近い告白をしたの。それで、返事が思ったものじゃなくて悲しんでるって話」
「ん? 空は何か言ってたの?」
「告白に近い告白をしたときは固まって何も話してくれなかったんだって」
「ははん、なるほど。でもそれってもう告白成功したようなものじゃないの?」
「だから私たちは凜をそういう気持ちに諭しつつ、自信を持たせてあげないといけないの、いい?」
二人がこそこそと話していることは全部筒抜けで、私の耳に飛び込んでくる。
私はこれから二人に諭されつつ、自信を持つように仕向けられるらしい。前原くんもどうしてそれで成功だといえるのか。私にはさっぱりわからない。
「こほん、まぁともかく。凜はこれからどうするつもりなの?」
「どうするっていわれても何も考えてなかった。......どうしたらいいかは分からないけど、このまま距離が離れて行っちゃうのは嫌かな」
「でも話を聞く限りでは空が凜を避け始めているよね」
そうなのだ。空くんは私のことを避けている。彼は私が避けていると思っているのかもしれないがそれは逆。
私は彼がわざと目を逸らしたり、わざと席を話したりしているのを知っている。その時は悔しくて訳が分からなくなって、私も意固地になって無視したりしてしまったけれど、私から始めたわけじゃない。
「私を名前で呼ばないで」
「ごめんなさい。......吉川さん」
「まだ凜を狙ってるなら私がいるのにいい度胸よね。後でじっくりと話聞きたいわ」
「いや違う、これはたまたま出てきただけでそういう意味ではなく」
言い訳がましい前原くんが突然ふぎゃっと悲鳴を上げた。ちらっと下の方を見ると、あおちゃんにぐりぐりと足を思い切り踏まれていた。
「私が明日から普通に接するのも変な感じがするし、そもそも会話にすらならないかもしれない」
「ならほっとく?」
「空くんはもともと一人でも平気な性格よ? そりゃ本当は友達が欲しいと思ってるから平気っていうのは変なのかもしれないけど。......そのまま心を閉ざされるかも」
私の本当の不安はそこだった。今までは普通に接してくれていた空くんがいつ心を閉ざしてしまうのか。そればかり心配していた。
心さえ開いていれば私は幾度も話しかけようと思うし、空くんだって拒絶することはないだろう。閉ざしてしまえばもう二度と話せない。
いや、本当は私がずっと話しかければいいだけの話なのかもしれない。本当に好きだというのならそれぐらいするのが普通なのかもしれない。けれど私はそれができない。好きな人に拒絶されるというのがどれだけ苦痛なことなのかはその苦痛を与えてきた一人の人間としていつも考えてきているから。
「その心配をする必要はないと思うよ。空は他の人に心を閉ざすことがあるかもしれないけど、吉川さんにだけは絶対に閉ざすことはない」
「何でそう言い切れるの?」
「明確な証拠があるわけじゃないけど、空の中ではもう吉川さんは家族の一人だと思ってるんじゃないかな?」
「家族の一人......」
「そう。それが凜の求めている形なのかどうかはしらないけどね」
前原くんは私を元気づけようとしてくれて、あおちゃんは私が突っ走らないようにブレーキをかけてくれる。
「私の求めてる形なんてないよ。私は空くんの隣にいつまでもいられたらいいなって思うだけ。それがどんな形であろうとも」
「それはもしも振られたとしても同じことがいえる?」
あおちゃんは容赦がない。それは友人として私に逃げを選ばせないために。前原くんはそんなあおちゃんの真意に気づかずにおろおろとしているが、私は気にせずに堂々と答えた。
「振られることはないって自信がないと、添い遂げたいなんて思わないわ」
絶対に振られない。そう思っていても心のどこかでもしかしたら、なんて考えてしまう。そして今はそれに負けそうになっていた。
「私は絶対に空くんと一緒になる。でも私からは言わない。空くんが私に自分の気持ちを教えてくれた時に私は自分の気持ちをもう一度、今後ははっきりと伝えるわ」
「それでこそ凜ね」
「その意気だよ。堂々としていれば空は絶対にコンタクトを取ってくるはずだよ」
私は自分の飲んでいたグラスを取って、視線で二人にも促した。
そして三人でカツン、と乾杯をした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます