第59話「お土産」

 観覧車で風景を楽しんだ後、お土産を買いに来ていた。交換プレゼントを買うために入った土産屋とはまた別のところだが、俺がパッと見た感じではそれほど大差ないように見える。同じ遊園地内ということもあり、大体同じような商品ばかりだが、凜は初めて見たように瞳を輝かせていた。

 全くの謎である。


「誰に買うんだ?」

「えっとね、あおちゃんと、お母さんとお父さんでしょ、それから安部くんにも買ってあげようかなって」

「安部? これまでのお礼みたいな感じか」

「そうそう。私の知らないところでも私を守ろうとしてくれていたらしいからね。全然今まで知らなかったけど、そのこともちゃんとお礼言えたらいいなって思って」

「そうだな。その気持ちだけで安部は喜びそうな気がするけど、お土産をあげるともっと喜びそうだな」


 結局、あいつも口ではなんだかんだ言いながらも凜に好意があったに違いない。でなければ身を削ってまで彼女を守ろうとはしないはずだ。もちろん俺のように彼氏として振る舞っていた時期があったからこそ、彼をそのように動かしたのかもしれないが、ともあれ、何の感情もなく守ろうとするのは無理がある。

 人間が何も感情なしで警護できるのはせいぜい警備員レベルだと思う。


「大丈夫? 空くんは嫉妬してない?」

「どうして俺が嫉妬するんだよ。別にお土産ぐらい誰にでも渡すだろ。変なことは気にしなくていいから」

「嫉妬してないならそんなに早口で捲し上げなくてもいいのに。その言い方だと逆に怪しく思える」


 嫉妬していないのか、と聞かれると微妙なところだ。あくまでも彼氏として言わせてもらうが、二人で遊びに来ていて、他の男の話をされて面白いと思える男子がいるだろうか、いやいない。

 友達ならまだふぅん、で終わるが一応彼氏としての立場がある以上、あんまり面白くない。


 そんな俺の思いに気づいてか気づかずかはわからないが、凜は俺の腕をグイっと引っ張り、俺の耳元で一言囁いた。


「でも一番お礼を言いたいのは空くんだからね」


 ばっと仰け反り、俺は驚きと恥ずかしさを味わいながらじっと凜を見る。彼女は平然としているように見えたが、その挙動をよくよく観察してみると身体は揺れて、視線はきょろきょろとして安定せず、手遊びも激しい。見るからにそわそわしている様子だった。

 言われた俺よりも挙動不審ってどういうことなの、と思わなくもなかったが俺に同じことを言う勇気はなかったので黙っておいた。


「......あ、ありがとう。そういってもらえるだけで嬉しいよ」

「これぐらいならいつでも言うからね」


 言葉と動作が嚙み合っていないのだが?!

 凜がどんどん自分を追い込んでいっている風に思えて仕方がない。


「大丈夫か? 無理してないか?」

「無理なんてしてないよ。全然平気っ!」


 空元気にもはなはだしい。

 俺はこれ以上追い込むのをやめた。さすがにいじめているように思えてきたからだ。そこで話を変えていくことにする。


「そういえば、もうこんな時間になってしまったけど、スポーツ勝負は何にするのか決めているのか? 大抵のスポーツはできるようにはなってるみたいだが」


 遊園地の少し外れに、大きな体育館のようなものがあり、そこで多くの競技ができるようになっている。バスケットボールをはじめとした室内競技はもちろん、テニスコートも完備してあったり人工芝が確保されていたりと結構充実している。

 口コミでは広さは問題ないが、たまに高さが気になるというものを多く見かけた。


 ぎりぎりを攻めて作っているのだろうが、本気でするつもりがないのならそれでも十分な設備だろう。


「もちろんするよ! 空くんのデートプランが楽しくてついこんな時間までなっちゃってるけど、ちゃんと戦う」

「まぁ戦う気があるのはいいけど、種目は何?」

「ラケットスポーツと接触型スポーツならどっちがいい?」


 何その二択?

 普通接触型スポーツと比べられるものはネット型スポーツとかベース型スポーツとかではなかろうか。ラケットスポーツを比較相手に出してくるのは凜以外にはいないだろう。

 だが、ここは俺にとって好都合でもある。


「じゃあラケッ......」


 ちょっと待った。

 俺が確実に勝ちを狙うのならばラケットスポーツを選択すべきだ。運動神経も抜群な凜に全身運動が必要な接触型スポーツを挑むのは頭が足りない人間の行うこと。ラケットならばタイミングがずれただけで変な方向に飛んでいくという運も多少なりとも挟むことになるので俺の勝率が上がる。


 だが、接触型スポーツということはつまり接触があるかもしれないということだ。それもチームならともかく、俺と凜の二人きり。ゲームとはいえ凜は本気で行うのだろう。そうした場合、ラッキーチャンスを狙うのは男としては当然の思考回路ではなかろうか。


 ラッキーが起こっても起こらなくても俺が怒られることは絶対にない。

 そうだな。うん、そうしよう。


 俺は悪魔の囁きにつられるようにして種目を選んだ。


「わかった。でもその前にお土産は買っておかないとね」

「勝負のペナルティはどうする?」

「え~、罰ゲーム付けるの? 空くんさてはいい作戦でも思いついたの?」

「秘密」

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