第54話「プレゼントフォーユー」

 俺が店の外でジェットコースターの悲鳴や、楽しげな会話をしている通行人の声に耳を傾けながら待っていると、凜がぱたぱたと駆けてきた。

 その手にはプレゼントであろうものがかかっていた。俺ももちろん持っているのだが、凜は結構大きなものを買ったようで不思議に思った。


「ごめんね、待たせちゃって。どれにしようかなって選んでたら時間過ぎてた」

「ちょうど十五分だしぎりぎりセーフだろ。誰かに何かされなかったか? 大丈夫だったか?」


 心配したせいで早口で問い詰めるような口調になってしまう。だがそれも凜の安全を思ってのことだ。凜はそれをしっかりと分かったうえで苦笑しながら、大丈夫とはっきりした口調で答えた。

 どうやら何もされてはいないようだ。


「ならよかった。......じゃあ移動しようか」

「ぷ、プレゼントは?」

「着いた時にしよう。その方が座れて落ち着けるだろうし」


 そういって俺は凜に行き先を告げずに歩き始めた。凜は聞きたそうに俺に話しかけようとしたが俺がさっさと行ってしまうので何も言わずについてきた。

 本当ならば話をしながらまったり行きたいのだがそろそろ時間がない。このままいくとぎりぎりで間に合わないかもしれない。


 その瀬戸際と闘いながら俺が向かった先は城。

 シンボルのように聳え立つそれは純白でありながら異彩を放っていた。


「お城って......何かあったっけ?」


 後ろでそう呟く凜の声を聴きながら俺は顔がにやけそうになってしまうのを必死に抑えていた。どうやら俺の見つけた穴場はまだ誰にも見つかっていないらしい。もしかしたら見つかっているのかもしれないがこの時間帯には見つかっていないらしい。


「ここで休憩しようか」


 俺がそう言って凜を手招きしたのは城のテラスのような場所だった。

 ちらほらと人がいるがその人は城のデザインの細部にご執心であり、外の景色などはどうでもいいらしい。ここは予約の必要もなく誰でもはいれる場所なのだが、人の少ない穴場である。

 理由は単純。城の上にまで上る手段が階段しかないから。子連れ客はもちろん、面倒だと感じる人が多いらしくここは知る人ぞ知る穴場スポットになっていた。


「階段何段あったんだろ......。結構上ったよね」

「あぁ、お疲れ様。ここは城のテラスの部分だ。知る人ぞ知る穴場だ」

「空くんよく知ってたね。ここに来たの初めてでしょ?」

「パンフレットみて、係員の人にも聞いてみたら見事にビンゴだったってだけだよ」


 入念なチェックをしていたことは言わない。隠れた努力こそ、いずれの信頼へとつながるのだ。今は苦労を何もわかってもらえなくてもいずれそうだったのか、と言われる日が来る。


「すご~いっ!! あ、ここってもしかして夜のパレードも見れる?」

「もちろん」


 そう。俺がここを探し当てたのは偏に夜のパレードのためだった。人ごみの中でパレードを見るのは一般人である俺ですらしんどい。ましてや美人で視線をくぎ付けにできるほどの美貌を持つ凜ならば尚更であろう。俺はゆったりとした感じにパレードを見させてあげたいと強く思ったのだ。そして探し当てたのがこの城のテラスというわけだ。


「予約はないから誰かに取られていないか心配だったんだ。先々進んでごめん」

「いいよ。私も時間に追われてるときは余裕なくて強引になっちゃうこともあるし。......強引に手を引っ張ってくれてもよかったんだけどね」

「何か言ったか?」

「いえ、何も」


 絶対に何か言っていたように思うのだが、時々、俺に聞こえないほどの小声で何やら呟いている。

 さては俺の悪口か? 階段沢山登らせやがって! ということなのか?


 確かめようにも怖すぎてできない。


「夜のパレードまでもう少し時間があるな。その間にプレゼント交換しておこうか」

「空くんから振る、ということは結構自信ある感じかな? 私も頑張って選んできたから受け取ってくれると......嬉しいです」

「俺のために選んでくれたんだろ? だったら受け取らないわけない。ありがたくいただくよ」


 俺と凜は袋に入ったまま、お互いのプレゼントを交換した。中身だけを渡すと持って帰るときが面倒だから、と俺は思って袋ごと渡したのだが、凜は流されただけのようだった。


「な、中身見てもいい?」

「どうぞ。俺も見てもいいか?」

「いいよっ」


 凜が俺に贈ってくれたプレゼントは服だった。襟元付近で値札があったので気になって値段を見てみるとどうにも一枚にしては値段が高いし、商品名には「ペア用」と書かれていた。

 どうやら彼女は俺にペアルックの服をプレゼントしてくれたらしい。

 デザインも遊園地特有の他ではきれないものではなく、少しファッションを考えなければならないが日常生活で着れるようなものだった。


「......綺麗」


 俺が彼女に贈ったプレゼントは三日月のペンダントだった。雲をモチーフにした紺色の模様が上手く三日月を引きだたせているように思えて俺はそのペンダントに一目惚れしてしまった。もちろん、俺が身に着けるのではなく、凜が身に着けた時を想像してだが。


「ねぇ空くん、着けてくれない?」

「......わかった」


 人どころか自分にすらペンダントを付けたことのない俺が太陽が沈みかけて見えづらい時に凜のうなじを見ながらペンダントをつけるという苦行を終えるのに時間がかかって、凜に変な誤解をされそうになった。

 男の子って女の子のうなじにドキッとするんでしょ? ですってよ。どっちかといえば、ちらっとみえるときにドキッとするんじゃないんですかね? 知らないが。少なくともうなじガン見でドキッとすることはないです。

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