第51話「一目惚れをしたんです」
「あんなに根掘り葉掘り聞かれるとは思わなかった......」
「あれは流石にプライバシーもへったくれもなかったな。途中から完全にあの人の趣味だっただろ」
「男の人でも恋バナを聞くのが趣味な人なんているんだね。女子だけかと思っちゃってた」
「まぁ好きな人はいるだろ。流石に場所は弁えてるけど。いや、あの人は弁えてなかったか」
リポーターは俺たちがカップルであることを聞いて急に態度を変えた。中途半端な関係では到底聞けないような際どい質問までされた時には焦って、手汗が止まらなかった。
聞きたいと言っていた質問は前座のようにすぐに終わってひたすら恋バナをしていたように思う。返答は凜が主に行っていたが大変そうだった。
隣にいただけの俺も大変だった。それは俺と凜が誤魔化してカップルです、と言ってしまったからだろう。俺はいう気がなかったのだが。
「空くんも好きなの?」
「さっきの後でまた恋バナするのはやめておこう。また別の日なら話してあげるから、今は恋バナから距離を置きたい」
「そ、そうだね。ごめん」
凜はもう少し恋バナをしていたかったのだろうか。凜も女の子だからな。
とはいえ俺の方は完全に男であるため、もう限界が近い。申し訳ないがまた今度にしてもらおう。
「あれで取材になったのか? この遊園地の取材というよりは凜への取材だったように思うけど」
「ぐいぐい来てたね。リポーターってあれぐらい度胸とかがないとできない職業なのかな」
「もしかしてなりたい職業なのか? リポーター」
凜の呟きに俺はふと気になって訊ねた。
もしもなりたいのならいい職業だと思う。容姿は申し分ないのであとは度胸と機転が利くかどうかだろう。
「まだ考え中。でもいろんな職業に興味を持つのは大事だと思うよ。たとえ、将来が決まっていても」
「......そうだな」
凜のまっすぐな視線に耐え切れず俺は顔を背けながら相槌を打った。
その言葉が俺を指しているのはわかっていた。俺は高校生を卒業したのち、父親の仕事を継ぐ。継ぐというよりは父親と二人三脚で共同運営していこうと考えている。
このことを父さんは知っていて、それも相まって今までいろいろと仕事を経験させてくれている。だが凜の言う通り、将来が決まっていてもいろいろな職業はこの世界中にあふれているし、その職種で働いている人を見てもしも自分がそこで働いていたならばと想像するのは楽しいし夢がある。
想像だけなら無料だしな。
「決まってない私がとやかくは言えないんだけどね」
凜は悲しく笑った。きっと彼女なりに焦っているのかもしれない。高校生にもなれば将来の目標ができて当たり前、そしてその目標に向かって全力を出す。そうするのように学校は推しているし、それを本当に実践している人も多い。
だがそれがすべてではない、と俺は思う。
「別にいいんじゃないか? 将来の職業が決まってないってことはそれだけ真剣に悩んでるってことだろ? それを馬鹿にするやつはいないし、俺はさっきの凜の言葉で興味持とうってちょっとだけ思ったし」
「ちょっとだけなの?」
「あくまで本命がダメだった時に備えてって感じで......」
俺が必死に弁明していると凜が急に笑い出した。どうやら本気で言ったわけではないらしい。俺の狼狽ぶりに笑っているように思えて俺は小突いてやりたくなったが、身体が動かず、ただ見ているだけにとどまった。
「その慎重さが空くんらしいけどね。......将来の夢は決まってないけど、絶対に叶えたい夢はあるから」
「それってあの人に話していたことか?」
「あれ、空くん聞いてたの? なんか恥ずかしいな......」
「聞いていたも何も、隣にいたんだから聞こえてくるし、俺に話す機会なかったし」
「だってずっと上の空でたぶん「早く終わらないかなぁ」って考えてるんだろうなって思ったから」
それはその通り。
だって暇だったんだもん。俺の話は明らかに興味なさそうに聞いてくるので話す気もなかったし。まぁ俺の昔話をしたところで喜んでくれる人は誰もいないわけだが。
「私は空くんの昔話聞きたいよ?」
「......ぜんぜんあのリポーターにされたことは気にしてないから。それに俺も人に話せるような面白い過去を持ってるわけじゃないし」
「そう? でも話したくなったらいつでも言って! 私、飛んでくるから」
そんなに面白い話はない、と何度も言っているのに彼女は聞く耳を持ってはくれない。けどそんな彼女の様子に俺の心は安らぎを感じているように思った。
「まぁ俺のはいいとして、凜もその相手が見つかるといいな」
「その相手?」
「恋バナしてるときに言ってただろ。高校受験の時に一目惚れをした男の子と付き合うのが夢だって」
彼氏はもういるのに? とリポーターに変な顔をされていたがまぁ俺と凜の関係を知っていなければ当然の反応だろう。
その先は沼だと察したリポーターはそれ以上深いことは聞かなかったので詳細は不明だったが。
しかし偶然とは面白い。
その経緯を片耳で聞く限りではいつの日にか俺が明晰夢で見た夢と酷似していたのだから。
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