第47話「休憩」

「......人気ないのがわかる感じだった」

「私は嫌いではなかったけど......。まぁ好き嫌いは別れそうなアトラクションだったわね」

「長いんだよ。もうしんどくなってきてからが本番みたいに頑張りやがって」

「空くんの口調がどんどん悪くなってる......!」


 口調が悪くもなるだろ。まぁそれの少しの部分は俺が事前準備をしっかりとしていなかったせいではあるのだが、それでもこのアトラクションは今すぐ他のものに改修工事するべきだ。

 酔い止め薬を飲み、何とか収まっているからまだこれだけの気持ちで済んでいるが、もしかすると運営に抗議していたかもしれない。


 始め、トロッコが上昇しているのを感じていたのだがいつまで経っても降りる気配がない。そのまま上がって、油断した瞬間にストッパーが抜け落ちたエレベーターのように急降下した。自由落下というほど垂直的な落下だった。そして気が付けば感覚的に身体が真横になっているし、逆さまになって移動している感じもする。こっちは凜の髪が証明していたので間違いない。


 つまり、トロッコがトロッコしていなかったのだ。俺の思い描いていたトロッコは線路の上を走っているものだったのだが、同じ日本でここまでトロッコの認識に差異があるのかと思い知らされた。


「空くん大丈夫なの? 結構辛そうにしてるし、顔が青いよ?」

「大丈夫というべきだろうけどちょっと休憩させて下さい。ジェットコースターより無重力だった......」


 虚空に向かってそう呟くと凜はくすっと笑いながら俺が全身の体重を預けていたベンチの隣に腰かけた。俺は凜が座りやすいように少しだけ寄ってやる。

 ジェットコースターも結構な勇気を奮わせなければ乗ることのできない俺は唐突にやってきた無重力空間に耐えられなかった。俺の将来の選択肢に宇宙飛行士と書くのはやめておこう。そもそもなるつもりもなかったが。


「私は全然怖くなかったし、楽しかったよ? 無重力も体験できるなんて驚きだよ」

「本当かなぁ? 怖くなかった割には俺の腕がもげそうなぐらい思い切り握ってたような気がするんだが?」

「女の子はそうやってアピールするものなの!」

「怖くなくても?」

「怖くなくても」


 えー、こわー。

 それに騙される男が可哀そうじゃん。彼氏にはありのままの姿を見せてあげなよ。そういう簡単なスキンシップで喜んじゃう男子は多いんだから気を付けないと。

 その一人である俺が言ったところであんまり効果はないのかもしれないが。


「行動一つ一つが全部駆け引きだからね。他の女の子に目移りさせたらダメ、自分から意識が外れたと思ったらダメ、私のことを一番に考えてくれなかったらダメ。そんな感じで女の子はデートに臨むのです」

「何で知ってるの? デート初めてじゃなかったの?」

「初めてだけどそういうことはもう事前に頭の中に入ってるの。私からするとどうして男の子には入ってないの? って感じ」


 聞かれてもわかるわけない。

 デートが初めてなのならばそのぎこちないながらも精一杯楽しもうとする過程を楽しむのが普通なのではないだろうか。彼女どころか友達すらいない俺の考えはもうこの現代では通用しないのだろうか。だとしてら俺は誰の影響を受けたのかという話になってよりややこしくなりそうだ。だがともかくも、ここではっきりするのは男子と女子ではデートに対する捉え方が全然違う、ということだ。


 男性はいかに楽しむか、またはたのしませることができるのかを最優先で考える。

 その一方で女子はいかに自分を男に意識させられるかが最優先。


 その違いを笑って喜んで許容してくれる人はなかなか広い人なのだろう。だから喧嘩が起こったりうまく話ができなかったりするのだろうな。


「船酔いしたみたいな感じ。......悪天候の、波が高い時」

「あーそこまで酷いと私も酔っちゃうかも。せめて波が次どんな感じの揺れで来るのかを教えてくれたらいいのにね」

「まったくだよ。......でもあんまり時間もかけていられないからそろそろ行こうか」

「大丈夫なの? 楽しむのもいいけど私は空くんに無理してほしくない」

「無理なんかしてないし、こういうときは軽く何かを食べると気が紛れてか胃が動き出すからか、どっちかはよくわかんないけど気分が楽になるし収まった気持ちにもなる」

「そこまでいうなら移動しよっか。でもしんどくなったらすぐにいうのよ」

「お母さん化した?!」

「えぇ! 元気じゃないのに元気だと嘘をつく悪い子には母にでも修羅にでもなりますとも」


 美人の修羅は怖いと聞くので絶対に怒らせないようにしないとな。

 俺が人を怒らせることはあまりないので多分大丈夫だろうが、怒らせることがないせいなのか怒られた時の耐性もまた皆無なのですぐに涙がこぼれてしまうということは墓まで持っていかなければ!


「じゃあ、何か買いに行きますか」

「ポップコーン食べる?」

「食べる。キャラメルがいい」

「おっいいねいいね! 私もキャラメル好き。あ! あとあそこのお肉は?」

「昼食もかねてにするならアリだな。でもあんまり食べると夜が入らなくなるからそこは気をつけろよ?」

「わかってるって。夜には何かあるんでしょ? 空くんの表情観たらわかっちゃったしそれを失敗にさせるようなことはしないよ」


 できればサプライズでしたかったのにどうしてバレたのか。

 俺の顔はポーカーフェイスが家出状態らしい。

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