第46話「トロッコアドベンチャー」

 シークレットパレードに別れを告げてさらに進んでいくと「トロッコアドベンチャー」という文字が目に飛び込んできた。

 普通ならばあっそう、という感じでスルーしそうなものなのだが、この時は何故か足が止まった。


「アトラクションが待ち時間なし......? これは乗るしかないな」

「ふぇ?! ちょっと空くん?! これ乗っても大丈夫なの?」

「大丈夫って何が?」

「他のアトラクションのファストパスとか......いろいろと考えてくれてるんでしょ?」


 俺が綿密な計画を立てていると思い込んでいるらしい凜は俺の突飛な行動に驚きを隠せないでいた。だが綿密な計画は立てていないので問題ない。この時間までにここにいればいい、というような案外適当な感じでスケジュールを組んでいるので無駄なことをしても大丈夫なのだ。


 せっかく楽しみに来たのに時間に追われては楽しくない。そういう時間とのしょぶが好きという人もいるらしいが少なくとも俺はそれを好まなかった。


「大丈夫、これに乗るぐらいの時間はあるよ。それに待ち時間がないらしいからほぼノーダメージ」

「そっか、なら行こっか」


 それらしいことを並べて俺は完璧にスケジュールしてきたと見えを張る。

 待ち時間ゼロは本当で入ってすぐに通された。


 本当は沢山の客が来てくれることを見越していたのかえらく長い通路をすたすたと歩いていく。本当はここで長い待ち時間を無駄話しながら過ごすのだろうがそれは別のところでするつもりだ。


「どういうアトラクションなのかな」

「俺も思い付きで入ったからあんまり調べてなかったな。......ただ、設定としては西部開拓時代をモチーフとして描かれたもので、プレイヤーは盗賊の一味となっていろいろな金銀財宝を手に入れていくらしい。けどそれを止めさせようとしてくる民間人とか捕まえようとする保安官からトロッコを使って逃げ惑うらしい」

「......めっちゃ詳しいじゃん」


 凜が目を丸くさせてこちらを見てくる。まるでそれは立派に調べてるよ、とでも言いたげだった。しかし俺はこのアトラクションについてほとんど調べていない。定員数すらわかっていないのだからまだ調べているという段階にはないだろう。


 凜の驚いた顔がとても面白かったので結果オーライということにしよう。


「話を聞く限りでは絶叫系、ではなさそうだね。どっちかというと逃走系?」

「凜が全身を使ってしてたゲームみたいな感じだよ」

「そういう覚え方は今すぐやめなさい。でないと空くんが私を笑いものにしたってあおちゃんに言いつけてやるんだから」

「そうすぐに人を頼るのはよくないと思うぞ! あ、今のは別に俺が頼れる人がいないから言ったわけじゃないからな? もう少し自分で対処しようとする心意気が」


 俺の言葉は最後まで続かなかった。

 もうトロッコについてしまったからだ。係員に誘導されるがままにトロッコに乗り込む。とはいえ本当のトロッコではなく、それを模したものにすぎないが。


 トロッコの中は意外に狭く、思ったように身動きができない。これは男女の友達で乗ったら気まずいだろうな、と思うほどには密着を必要としていた。

 俺は気まずいのだろうか。そっと自分の心に問いかけてみるもその答えはノーと返ってくる。


 だが、凜は彼女ではない。友達、とも言いにくい。彼女ではないけれど友達でもない、その中間にあるぐらいの仲。それが今の俺と凜の位置だろう。


「緩急激しいので乗り物酔いをされるからは気を付けてくださいね! それでは、行ってらっしゃーいっ!」


 ちょっと待てっ! そういう大事なことは乗る前にいうべきだぞーっ!! そんな笑顔で送り出すなって、俺乗り物酔いすぐしてしまうタイプなのに! すぐ吐いちゃうタイプなのに!


 俺の表情が一瞬でげんなりしたものになった。あたりは薄暗くなっていたにも関わらず、凜はその俺の表情からただならぬものを感じたらしく心配そうな声色をあげた。


「ど、どうしたの?! 気分悪くなった?」

「いや、大丈夫......」

「そんな顔して大丈夫って言われても説得力ないよ......。もしかして酔った?」

「......恥ずかしながら」

「はい、これ飲んで。水のいらないやつだし、酔った後でも効くやつだから」


 うす暗い中で凜の手から薬を受け取ってそれを口に入れる。まだトロッコがゆっくり動いている段階で助かったな。完全に酔ったわけではなく、これから酔うことに対してげんなりしていただけだったのだが、凜の素早い動きで俺は嘔吐するのを免れた。


「凜も乗り物酔いするのか?」

「え、私? 全然平気だよ?」

「......? だったら何で......?」

「さぁ空くん! 来るよっ!!」


 へ? という俺の言葉はもう音になっていなかったと思う。

 ジェットコースターの初めのように一気に急降下したのだ。隣では黄色い悲鳴が飛んでいる。結構楽しそうだな。

 俺は怖くてしかない。少しでも気を抜くと意識が飛んでいきそうなのだが。何ならちょっとこのアトラクションに入ったことを後悔し始めていた。


 俺は乗り物酔いをしない凜がどうして酔い止め薬を持っていたのか、という理由を聞こうと思っていたのにアトラクションが異常にGをかけてきたせいで頭から飛んでしまった。

 謎が増えた。

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