第45話「パレード」
俺と凜が歩き始めて数分、何やら人だかりがあったので気になって近づいてみるとそこでは何やらパレードをしていた。
俺が調べたときにはこの時間帯にパレードをしているなどという情報は見つからなかったのだが現実ではパレードが行われており、俺は自分の甘さを呪った。
「あっ、見てみて! このパレードっていつどこで始まるのかが全く分からないシークレットのやつじゃない?」
「え、シークレット?」
その凜の言葉が正しいのならば俺が探せなかったのも頷ける。
だがいったい何のためにシークレットにしているのだろう。あらかじめ告知しておけばより多くの人を集められるだろうに。
「それだとほかのパレードと大差ないしエンタテインメントが足りないじゃない? それにこのシークレットのショーはどこかにQR コードがあってそれを読み取ると......」
「詳しいな、来たことあるのか?」
「ないよ、初めて。......本当だってば。空くんは王道のルートで調べようとするでしょ? だから私はちょっとマニアックな情報を仕入れてきたの」
俺の性格を完全に把握されているとこういうことが起こるのか。
確かに俺は初めて行く場所はその公式が出しているパンフレットやホームページを使って調べていく。そこで大体掲載されているし、抜け道などは現地に行けば何となくわかるからだ。
凜はそんな俺の考えを見抜いて俺が調べないようなマニアックな情報を仕入れてきたらしい。そこだけ調べて何のことを言ってるのか分かったのかは疑問だがこうしてしっかりその場に応じた情報が出てくるあたり本当にそこだけを調べてきたに違いない。
「そのQRコードを読み取ったらどうなるんだ?」
「次のシークレットパレードの時間と場所がわかるの」
凜の言葉に俺は関心のため息をこぼした。
シークレットにしているのはしっかりと戦略があったらしい。より熱心なファンをもっと虜にさせるためにわざと情報を秘匿させ、ある特定の行為を行うとその情報が解禁される。
上手い集客の仕方だ。
「撮れた?」
「人が多すぎて私の身長だと難しいや。......空くんが私の代わりにコード撮ってきて!」
「凜よりは高いけど一般男性レベルしか身長ないんだが」
実際には一般男性の平均身長よりも数センチだけ低い。170cmという多少小柄な体格なのだ。萩に突進でもされた日には軽く数十メートルは飛んでいきそうな気がする。
だが凜のお願いを無下にするわけにもいかず俺は仕方なくカメラを持ってコードを探す。
今のカメラは高性能で適当にかざすだけでも読み込んでくれるのだが、人ごみの中であることや、前にいる人の後頭部が一定間隔で入ってくるためになかなか読み込んでくれない。
もっと前に出ようと思ったときには自分の意思で動けないほどのおしくらまんじゅう状態になっていた。
とりあえず凜だけははぐれないようにしっかりと手を握りなおす。本当はもっと近くに引き寄せたいのだが、熱狂的なファンは他人のことなどどうでもいいらしい。
さっきの褒めた時間を返してほしい。こんなパレーはド今すぐやめにするべきだ!
「空くん、今回は諦めよ! 撤退っ!」
「撤退したいのはやまやまだが、これじゃ動けないぞ?」
「任せて」
凜はきりっと堂々とした表情を作った。いくらパレードに熱狂的なファンであっても凜の近くにいる人は彼女の美貌や容姿に一時だけだが釘付けになる。そして凜は俺の手を引いてゆっくりと歩き始めた。
不思議なことに凜が歩く方向には道ができて、先ほどまでの渋滞とは程遠い、一塁の道が存在していた。
人が凜を避けている。なぜかはわからないが彼女にはそれだけの力があるのだろう。
完全に抜けてからはぁーっと深く一息ついた。
「何とか抜け出せたね」
「何か技でも使ったのか? どうしたらあんな女王様みたいなことが......?」
「それは......あんまり褒められたやり方じゃなかったんだけどね、ああいう人ごみの中にいるとよく痴漢の事件が起こるでしょ? それを逆に利用したの」
「逆に.....利用?」
「そう、ここに女の子が一人いますよ~って示したら男性は自分の保身のために少し引いてくれるの。もともと誰かの付き添いとか彼女とかと一緒に来ている人だから面倒ごとは御免って感じでね、そしてその波はよくわかってない人にも伝播する。そうやって道を開けてもらったの」
しっかりと説明を聞いてもあんまりよくわからなかった。理論上は可能なのかもしれないがそれを現実にしてしまえるのはきっと凜だけだと思う。
だがそれはある意味で自分を腫れもののように扱わせたように俺は思えた。
目的は達成できたのだからそれでいいのだと凜はいうのかもしれないが、俺はそういう心が痛む手段を用いてほしくないと思う。俺が口に出したところで聞くとは思えないが。
「でもちょっと残念だね。せっかく見つけたのにQRコード読み取れなくて」
「俺が持ってそうな人に聞いてこようか?」
「いいよ、載ってるのって今日の分だけなんだよね。だからまた今度見つけたときに挑戦するよ」
「その時は俺が事前に統計から予測も立てて完全に把握して見せる」
「そうすると楽しみが半減しちゃいそうだけど」
なるほど、絶対にみる、というよりはその過程を含めて楽しみたいのだな、と俺は今更ながらに理解した。
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