第41話「デート」
「そろそろ決まった?」
凜がそう俺に話しかけてきたのは最後の授業が終わってすぐのことだった。先週の三連休は見事に勘違いしたおかげであってもなくてもいいような休日にしてしまった。
もちろんそれは凜と過ごしていたあの時間が嫌いだというわけではなく、デートの計画を立てたり溜まっている仕事を消化したりとすべきことがあったのにも関わらず、それを放り出してゲームに勤しんでいたことに対する呆れからくるものだった。
「最近できた遊園地に行かないか? そこではスポーツもいろいろとできるらしいから前に凜が言ってた勝負もできるかもしれない」
「本当?! じゃあそこに行きましょ!」
いますぐにでも出かけそうな雰囲気に俺は自然と笑みがこぼれてしまう。ここまで楽しみにしてくれているのなら頑張ってリサーチした甲斐もあったというものだろう。そしてそんな彼女ならば彼氏も嬉しいに違いない。
そんなことを考えていると凜がさっきの雰囲気とは正反対の沈んだ表情をしていた。
「どうした? 先約でもあった?」
「ううん、先約はないんだけどね......。かわいい服を着ていきたいのに......スポーツするなら動きやすい格好にしないといけない......」
何か外せない用事でもあったのかと思ったのだがどうやら違ったらしい。俺からすればあまり大事に思えない事柄なのだが凜のオーバーとも入れる悲しそうな表情を見ているとそれぐらいの大事なのか、とも思えてくる。
「ならスポーツはまた別の日にするか?」
「いや、駄目よ。私はもう空くんとデートでスポーツ勝負をするって決めていたしその気持ちにもうなってしまっているの。だから今更別日にするなんて言われたらお預けを食らったわんわんの気分よ」
「そう決めていたのに服装に関しては全く頭から抜けてたんだな」
あとわんわんって何? 高校生でもわんわんと呼んでいる人を初めて見た。俺が言っていたらアウトな気もするがかわいい、とか綺麗とか、そういう言葉を総なめにしている凜が言うのならまだセーフなのだろう。
「男の子はいいよね。スポーツするって先に知っていればいつものズボンを多少の伸縮性があるやつに変えればいいだけなんだから。女の子は下手にスカート履けないし」
「男はファッションにこだわりのない人が多いからな。もちろん好きでセンスのいい人もたくさんいるけどこれ着ておけば間違いないっていう王道パターンがあるからな」
「空くんもスカート履けばいいのに」
「どの話の流れで俺がスカート履く必要が出てきたんだ......。別にスカート履きたいなら履けばいいじゃないか」
「話聞いてなかったでしょ。スポーツにスカートは向かないのっ」
「......スポーツする前に着替えればいいのでは」
「......」
確かに、という顔をいただきました。
少し考えてみれば単純な話で、デートで楽しみたい服を着て少し荷物にはなるがスポーツウェアも持ってくれば万事解決である。デートを楽しんでいる間は俺が持っていてもいいし、近くのコインロッカーにでも放り込んでおけば問題ないだろう。
その旨を凜に伝えると、天才か、という表情で見られた。誰でも気づくわ。
ただその視線は浴びたことのないものだったし気持ちよかったので何も言わずに楽しんだ。
「空くんって好きな服とかあるの?」
「俺は動きやすい服が好き」
「そういうことじゃなくて......。もしも彼女とのデートだとしたら彼女に着てほしい服とか」
「着てほしい服ねぇ......」
俺のファッションへの興味はもう知られていると思うが皆無である。
自分の服に対して興味がないので他人の服になど興味があるはずもない。ただ服着てるなぁ、とそれぐらいの感想しか出せない。だがそんなことを聞くために俺にわざわざ聞いたわけではないということは流石に察する。
もしかしたら俺を将来の彼氏と見立てて練習しようとしているのかもしれないな。だとすると生半可な答えではいけないような気がする。もっとバカップルっぽいことを答えた方がいいのではないだろうか。
「ん~ペアルックとか?」
「ふ~ん、ペアルックね.......。えっ?!」
「俺の個人的な意見としてはワンピースでもいいしボーイッシュな感じでもいいし、上をダボっとさせて下履いてるの? 履いてないの? っていうぐらい短いズボン履いてても好きだぞ。けどまぁ.....な」
「結構個人的な意見多いね。興味ないって言ってたのに結構リクエストが具体的でびっくりしたよ」
素直に引いたと言ってくれてもいいんだぞ。
「興味ないぞ」
「それで興味ないって言い張ったら変態認定されそうだからそこそこっていいなよ。女性の服に関してだけ詳しいとかあんまり知られない方がいいと思うし」
「俺は男に興味ないぞ!」
「何でそんなに今日はポンコツなの?! 私としては興味ないって言われてちょっと安心したけど、今度は変態な感じが増してる」
「俺はペアルックにしか興味ない」
「そ、そんなまっすぐな視線で言われても......。ほ、他の人が見てるし、ちょっと場所替えようよ」
彼氏っぽく接しようと思ったのにあんまりうまくいっているような感じはしないな。凜がそんな俺の気持ちを理解してくれずに俺がおかしくなったと今にも泣きそうだったのでこれ以上は、と思って彼氏の気持ちになるのをやめた。
彼氏って思っていた以上に難しいのかもしれない。
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