第37話「話題」
次の日も学校があることをすっかり失念していた。気分はすっかり金曜日だったのだがどうやら今日が金曜日らしい。
俺が失念していたのはそれだけではない。翌日に学校があるということよりも大事なことかもしれない。それは誰かに見られたのではないか、ということだ。
俺と凜は付き合っている、ということになっている。そのために俺の家に来て泊まること自体に問題があるわけではない。だが男子高校生の頭の中はピンク一色なのである。あることないこと噂されては堪ったものではないだろう。
実際にそういうことをしたのならば甘んじて受け入れる必要があるのかもしれない。いや、本当はそれすらおかしいのだが。
そういうことをしてすらいないのにいわれるのは間違っている。
俺はそれを思い立った時、すぐに凜に告げた。
「あ~うん、そうだね......」
しかし、凜の反応はあまり芳しくなかった。
それもそのはず、俺もそして凜ですら今日が学校であることを失念していたのだ。完全な寝起きで頭が起きていないらしい。
前に泊まった時も俺が起こされるぐらいには凜は早起きだったように思う。その凜が寝ぼけているのを見るのは結構貴重な体験なのかもしれないがそれに浸ってばかりいられない。
「凜、そろそろ起きろ。今日は学校だからな?」
「ふぇ......? 昨日は金曜日だから今日はおやすみ......なさい」
「ちょっ?! 待った! 諦めるな!」
俺の声援も虚しく、彼女は首が座っていない赤ちゃんのように頭をぐわんぐわんと回した後に枕に突っ伏した。
ぼすっという音を立てていたので結構な勢いだったのだろう。
時間的には全然大丈夫なのだが、早めに出ておかないと噂されてしまう。
俺がどうしたものかと頭を悩ませていると、ぴろん、と通知が鳴った。
「......えっ。......うわぁああああああああっ?!?!」
「え?! なになに? 地震?」
俺の叫び声に凜が驚いて目を覚ました。だがその時の俺はそれどころではなかった。
送られてきたのは一枚の写真だった。それも真っ暗の中でフラッシュを使って撮られたもののようで画質的にはお世辞にもいいとはいえなかった。だが、その画質は唯一、俺の正気を助けてくれていた。
送り主は父親。そして送られてきた内容は俺と凜が隣に並んで寝ている写真だった。
帰ってきていないと思ったらしっかりと帰ってきていたらしい。俺も凜も寝ているということはそれなりの遅い時間帯に返ってきたのだろうが、それにしてもこんな写真をわざわざ撮るとは......!
俺の記憶を探ってみても昨日どうやって眠ったのかよく覚えていない。
凜が風呂から出て髪を乾かすのが大変そうだな、と思い梳いたりドライヤーをかけたりしたのは覚えている。そしてその後に、ほとんど眠っていた凜がぎりぎり起きていた時に、とりあえず寝室に連れて行った。
そしてその後に俺は風呂に入って、そのあと......。
「なんか使った記憶のないコップがあってそれに水があったから飲んだな......。その後から記憶が全くない」
「私は寝室にいたことすら覚えてない」
えへっと笑う凜。
昨日の一部始終を教えたらどうなるのか、と思ったが俺も同時にダメージを受けるのでやめておく。命拾いしたな。
「おはよう、今日は学校だから急いで朝飯食ってくれ」
「......? 今日は学校ないよ?」
「今日は平日だぞ? 昨日が木曜日で今日は金曜日! だから今日は学校あるって!」
「確かに今日は金曜日だけど......祝日よ?」
......へ?
急いでカレンダーを確認する。
すると確かに今日は金曜日だ。そしてさらに赤文字で祝日、という文字までしっかりと記入されている。
「......マジだ。ごめん、もう一回寝てくるわ」
「何でよ。私を大きい声で起こしたんだから、空くんが寝るなら私はその上にドーンって乗るわよ?」
「それってむしろ......いや、何でもないです」
「せっかく起きたんだし今日を楽しみましょ? 朝から空くんの焦る顔が見れたし」
「そうだな、朝から寝ぼけている凜の顔もしっかり見たしな」
そういうと凜はぱっと顔を覆った。今まで散々見せておいて今更感は否めないが、それで一瞬のうちに顔が赤くなるのもまた面白い。
これ以上言うと本当に口を聞いてくれなくなってしまいそうなので言わないが俺にとっては朝一番から凜の整った顔立ちを見れただけでいいことあったな、という気分になる。
「ねぇ? 大声を出した原因って何?」
「え? 何のこと?」
「嘘下手すぎ。嘘つくときに声が変わる人なんて本当にいるのね」
あまりほめられたことではないが、俺は嘘は得意で上手な方だと思う。だがこれに関しては沢山弁明させていただきたい。
こんなものが万が一にも凜に見つかったら凜にどんな顔をされるかわからない。俺だって被害者なのに加害者にさせられては困る。
「プロの野球選手が何かすごい賞を取ったってニュースを見て......」
「ふぅん? 空くん野球には興味なかったわよね?」
「そんなことないさ。スポーツを全力でしている人は尊敬するし俺だってできるものならアスリートになりたいとも思ってる」
「けど野球選手は違うんでしょ? だって体型が......」
「あ~あ~聞こえない聞こえない」
その時にツルっと手を滑らせた。いや、油断していたせいで凜が手を伸ばしていることに気が付かなかった。俺の手を離れた携帯は彼女の支配下に下った。
「これ、どういうこと」
納得してもらうのに昼までかかった。
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