オハナちゃんの、ワンダフルご飯。

シーラ

第1話

オハナちゃんのワンダフルご飯


ーーー


「お家を守っててね。行ってきま〜す。」


まさえちゃんがいつものようにお仕事に行くのを見送るために、私も玄関まで着いていく。尻尾を振ってお見送り。まさえちゃんが出て行き、鍵が閉まる重い音が玄関に響く。


あ〜あ、寂しくなっちゃった。


伸びをして、さて。私も仕事を始めよう。家の見回りだ。ベランダに鳩がウンチを落としに来るんだ。全く。綺麗なお家の維持は大変。


「くぁー!くぁー!」


あ、今日はカラスが来てる!コイツはしつこいんだ。あっちいけ!まさえちゃんと私の家を汚すな!こらっ!窓越しにカラスを追いたてる。


「がぁー!」


カラスは私を馬鹿にしたように鳴いて、飛んで行った。ふぅ。なんとか追い払えた。さあ、家の見回りに戻ろう。家の平和は私が守る!


ーーー


コツコツコツ


まさえちゃんの足音に気付く。帰ってきた!帰ってきた!


私は玄関の前に座ってお出迎えの準備をする。大好きな、まさえちゃんのお帰りだ!


「ただいま、オハナちゃん。」


玄関が開いたと同時に私はまさえちゃんに駆け寄り、足元に縋り付き、周囲をグルグルと回る。


お帰りなさいっ!私ね、カラスを追い払ったんだよ!頑張ったの!褒めて褒めて!


「お出迎え、ありがとう。」


まさえちゃんがとびきりの笑顔を向けてくれる。この笑顔が大好き。可愛いな。手に持っているクラゲ模様の買い物袋。この中身は、いつものビールだな。あと、何か甘い匂いもしている。私のオヤツかもしれない。


まさえちゃんの手洗い、着替えにも着いて行く。一緒が嬉して、堪らない。ウロウロウロウロ、後ろをついて行くだけで楽しくなっちゃう。


「いつもお仕事頑張ってるオハナちゃんに、今日はスペシャルご飯を作るよ。楽しみにしていてね。」


えー!嬉しいっ!ありがとう!


私の頭を撫でてくれる優しい手。優しい笑顔。ああ、嬉しい。大好き。


ガチャ、ゴソゴソ


料理をする準備を整えたまさえちゃんが、冷蔵庫を開けてお野菜や肉を取り出す。何を作ってくれるのかな?


「さあ!作りますよ。」


バリバリ、バリッ


トントン、サクサク、トントントン


まな板と包丁が触れ合う音が、耳に心地良く響く。規則正しいリズムについ眠たくなり、欠伸を一つ。


ザクザク、ザクザク、トントン


カチャカチャ、ザッザッ


「これ、オハナちゃんが大好きな鶏頭水煮缶!」


まさえちゃんが私に見せてきたのは、大好きな鶏頭水煮。確かに今日はスペシャルだ!


カシュッ、パカッ


この音を聞いただけで、堪らなくて。足もお尻も忙しくバタバタバタ。不意に、手の上にポタリと何かが垂れた。視線を落とすとヨダレが落ちている。どおりで冷たいわけだわ。やだ、はしたない。ああ、恥ずかしい。ペロペロペロリと舐めとる。


楽しそうに歌いながら手を動かす、まさえちゃん。お鍋に野菜を入れて火をつけた。静かだった鍋が段々と騒がしくなっていく。


グツグツグツグツ、コトコトコト


「んん〜、いい匂い〜」


お野菜を煮込む匂いが私の食欲を誘う。良い音、良い匂い。はぁ、お腹空いてきた。


カチャカチャ、ガサガサ、ザバー


「お出汁がとれたから、トロミをつけて〜と」


クルクルとお玉を動かすまさえちゃん。美味しいモノを何でも作ってくれる魔法の手をしていて、大好きなんだ。


「……うん。柔らかく煮えた。これは、オハナちゃんのね」


自分のご飯が出来たような匂いの後に、まさえちゃんのご飯を作っている匂いがする。

私の時と違い、鍋がグラグラグツグツと更に騒がしい。


パッパッパッ、ガリガリガリ


……クシュン!


「オハナちゃん、大丈夫?」


胡椒が鼻を刺激する。クシュンクシュン。ああ、ビックリした。胡椒嫌いっ!


「さあ、出来たよ。食べよう。オハナちゃん、席について」


待ってました!早く早くっ!


私は自分の食器置きの前で座って待つ。こうしていると、まさえちゃんが優しい目でお利口さんだねと褒めてくれる。まさえちゃんが喜ぶのが大好きなんだ。


カチャリとお皿の音を立てて、料理が置かれた。


「はい、どうぞ。オハナちゃんの大好きなゴロゴロお野菜煮込みに、メインディッシュは餡掛け鶏ご飯だよ」


一口の大きさに切られた、色とりどりの野菜。キャベツに人参、ブロッコリーも入ってる。

プルンとした鶏頭が乗ったカリカリご飯は、ツヤツヤの餡掛けを纏っていて。どっちも美味しそう。

お腹が空いて堪らないけど、まさえちゃんと一緒に食べたいから。我慢我慢。立ち上る出汁の香りに、また涎が出てきちゃう。


まさえちゃんが用意を終えるのを、今か今かと待つ。ローテーブルに置かれたまさえちゃんのご飯は私のと違い、お皿から湯気が立ち上っている。モクモクフワフワと。

お豆腐が赤いお風呂に浸かっているみたいな見た目。スパイスの刺激臭がフンワリと湯気と共に、私の鼻までやってきた。辛そうな匂い。まさえちゃんは、こういうのが好きみたい。私は自分用のご飯の方が好みだな。


「私は今日は麻婆豆腐。いただきます」


いただきます!


先ずは、鶏頭から!うんうん。美味しい美味しい……あ、もう空っぽになっちゃった。

隣のお野菜を食べよっと。うんうん。お出汁の優しい香りに、程良い柔らかさ。これはお腹がホッとする。


「あむあむしてるねぇ。美味しい?」


まさえちゃん、今日も美味しいよ!


尻尾をフリフリ返事をすると、まさえちゃんはビールをプシュッと開けながらニコニコ笑顔。グビグビとビールを飲む姿は、本当に美味しそう。

前に一度匂いを嗅いだ事があるけれど、苦そうな強いアルコールの刺激に飛び跳ねちゃった。駄目でしょって怒られたっけ。人間になれば美味しいって思えるのかな?


まさえちゃんがスプーンを手に取り、自分のご飯を掬って一口。


「ん〜!我ながら美味しい。胡椒たっぷり入れたから、山椒との刺激と混ざってビリビリっと。美味しい〜!」


ニコニコ笑顔でビールをグビリ。私ね、まさえちゃんが美味しそうに食べる姿見るの、大好きなんだ。


「美味しいね。一緒に食べると、より美味しく感じるね」


うん。私もそう思う。まさえちゃんと食べるご飯は一人で食べるご飯の何倍も美味しいよ。


まさえちゃんと美味しい手料理を食べる。幸せな食卓。私は幸せ者だな。


「ご馳走様でした。あ〜、美味しかった。オハナちゃん。全部食べてくれて、ありがとう」


ご馳走様でした。まさえちゃん。今日も美味しいご飯を作ってくれて、ありがとう。


「さて、私はデザートに『ふんわりトロトロ、キャラメルマシュマロパフェ』を食べちゃうもんね!………あ〜!美味しい」


パフェを頬張るまさえちゃんの顔を隣で見つめる。


キャラメルがトロリとかかった真っ白クリーム。スプーンで掬って笑顔でパクリ。まさえちゃんのホッペがほんのり赤く色づく。美味しいんだろうな。

ザクザクなコーンフレークの音。まさえちゃんが食べ進める度に香ばしい香りがしてきて、確かにこれは美味しいハーモニーだな。私のカリカリの音に似ていて、お腹いっぱいだけど舌舐めずりしちゃった。


「ごめんね。これはオハナちゃんは食べれないんだ」


いいの。まさえちゃんの食べるのを見るのが好きなの。

それにしても、今日のまさえちゃんは、いつもより楽しそう。何か良い事あったのかな?


まさえちゃんが優しい手で頭を撫でてくる。幸せ幸せ。ゆるんだ顔で私に話しかけてくれる。


「うふふ。今日はボーナス日だから、奮発しちゃった。明日はオハナちゃんのお洋服買いに行こうね」


私は一人が寂しい。一人はとても辛かった。


こうして私を思ってくれる人と共に居られるのは、なんて幸せなんだろう。

沢山色々なものを貰っているけれど、私は些細なお返ししかできない。だから、全身でありがとうって伝える。感謝しかない。


まさえちゃん、これからもずっと一緒にいてね。大好きだよ。



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