【KAC20223】肉じゃがは次の日にカレーにはならない

姫川翡翠

東藤と村瀬と晩御飯

「村瀬ぇ、ひまぁ」

「暇も何も、明日からテストやないか」

「学年末テストって一番やる気でぇへんよな」

「そんなことないやろ」

「そもそも学校の定期テストの時点でやる気ないもん。普通高2にもなれば、定期テストの勉強とかわざわざしいひんやろ」

「目の前でしてるやついるやん。というかこの教室に残ってる人だいたいテスト勉強やと思うけど」

「だってさぁ、定期テストやで? 日々の学力の成果を見せる場所やのに、直前で詰め込んでどうするねん。入試みたいな一発勝負のためならともかく、点数に特に意味のない定期テストのために勉強するとかとか無駄すぎるやろ。お前は身体計測の前日に晩御飯を抜いて無駄な足掻きをするぽっちゃりかよ」

「妙にリアルな例えやめろ。絶対お前の体験談やろ」

「……まあそれはともかく。真面目な話、定期テストレベルなら真面目に授業受けて日ごろからちゃんと勉強してたら、普通にいける。8割は余裕」

「もうええて。俺が阿呆なんは認めるから黙っとけカス」

「怒らんといてよ」

「だいたい放課後に勉強会しよってお前から誘ってきたんやろ。僕は家で勉強する方が好きやのに、妨害するなら帰んぞ。つうか、じゃあ普通に受験勉強やっとけ」

「せっかくなんで超能力を見せます」

「『せっかく』ってなんやねん。話聞けや」

「昨日の村瀬家の晩御飯を当てます——肉じゃが!」

「……」

「当たってるやろ?」

「お前それ今日の僕の弁当みただけやろ」

「お? わたくしの超能力にケチをつけるんですかぁ? じゃあ今日の晩御飯も当てましょう——カレー!」

「いや、うちは余った肉じゃがをカレーにするタイプの家庭じゃないから」

「嘘やん! そんな家庭あるん?」

「白滝どうするねん。カレーに入ってたら変やろ」

「白滝って肉じゃがに入ってるっけ?」

「知らん。家庭によるかもしれんな」

「お母さんにラインして聞いてみ? 絶対カレーやって!」

「うっっっっざ」

「え? お前今日めっちゃ当たり強いやん」

「しゃーないやん。テスト前で若干イライラしてるし」

「ごめんて」

「生贄呼ぶわ」

「え? やめてよ」

黒岩くろいわ! ちょっと来て!」

「はいはい。なに?」

「東藤がちょっと勉強できるからって調子乗ってるし、文系学年トップの黒岩からガツンといってやってよ」

「いやいや、でも待って。申し訳ないけど今日の俺は黒岩君にも止められへんと思うで? ……止められませんよ?」

「というと?」

「昨日、年始に受けた全国記述模試の結果が返ってきた……、じゃないですか。あれの数学の学内順位、理系込みで4位やったしー。偏差値70超えてたしー。たぶん黒岩君にも勝ってると思う……、んですしおすしー」

「なんやねんこいつ」

「そうなんや。すごいなぁ」

「それで? 黒岩は?」

「数学は2位やったかな」

「え? マジですか?」

「はいお前雑魚決定!」

「いや待ってくれ。それはさすがに黒岩君がすごすぎるやろ」

「そうでもないで。3教科合計の順位も2位やったし。やっぱり理系のトップの子には勝てへんわ」

「はぇー。黒岩でも勝てへんねやな」

「うん。1回も学年で1位になったことないねん。ずっと2位。3年からは数Ⅲが入ってくるから、文理が対等に競えるのはこれで最後やったのに、勝ち逃げされたんがちょっと悔しいなぁ」

「理系のトップって誰やったっけ?」

「6組の川上さん」

「ああ、あの美人やのに奇行で有名な」

「俺見たことあるで。前に朝早めに登校した時、逆立ちで廊下歩いてた。さすがにくっそビビった」

「スカートは?」

「履いてたで?」

「いやちゃうやん。パンツ見えますやん」

「下に体操服着てはったからセーフやと思う」

「アウトやろ」

「はは。やっぱすごいなぁ。俺も彼女が「お昼ご飯♪」って言って電気ポットを取り出して、そこで卵を茹で始めたのを見たときは、この人には勝てへんなぁって思ったわ」

「いやいや。そんなとこで黒岩は張り合わんくてええよ。黒岩の頭いいのに常識的で謙虚なところ、僕は好きやで」

「ありがとう。普通に嬉しいわ」

「それはともかく、そう、お昼ご飯の話や。おい東藤。お前黒岩の昨日の晩御飯当ててみ? 当てたら超能力信じたるわ」

「え? そうやな、えーっと、ハンバーグでした?」

「嘘やろ。すごい。当たってる」

「マジ? お前の超能力、本物やったん?」

「あ、いや、普通にお弁当でハンバーグ食べてていいなぁって思っただけですね、はい……」

「お前クラス全員の弁当把握してんの? きしょいな」

「いやだってさぁ! うちの両親夜に家おらんし、晩御飯も宅食サービスで味気ないし、お昼もコンビニで買うしかないから、普通に母親の作るお弁当とか羨ましくてつい見てしまうっていうか……」

「急に重い話すんなや」

「うちのおかんに東藤君のお弁当も頼んで見よか?」

「いやいや! さすがにそれは無理や。でもありがとうございます。お気持ちだけいただきます」

「東藤君が超能力使えるってそれマ?」

「植野」

「おうホンマやで。植野さんも当ててもらい」

「おい待ってくれ」

「ワクワク」

「あ、えー? うーん……、その、天ぷらそ……ば? とか?」

「ええ!? マジで? すご! 正解なんやけど!」

「東藤君すごいなぁ」

「お前女子の弁当までじろじろ見てたん? さすがに僕もひくで」

「はぁ!? ちゃうちゃう! 今のはホンマに何となくやって! 俺もびっくりしてるもん! やめて! 俺を変態にせんといてくれ!」

「確かに、今日の私のお弁当はオムライスやったから、弁当見ても当てられへんはず」

「というか! 天ぷらそばを弁当に入れてくんのはそもそも無理やん? 冤罪の証明やん!」

「でもそれは東藤が植野さんの弁当を把握してなかったという証拠にはならへんよね? 証明失敗」

「お前意地でも俺に変態の汚名を着せようとするやん。やめろよ」

「じゃあ、東藤君のあだ名は今日から『エスパー東藤』で決定やね」

「黒岩君!?」

「あれ、某芸人さんと1文字違いやん。もしかして必然?」

「植野さんも本当にやめてください……お願いします……土下座するので」

「じゃあ黒岩。そろそろテスト勉強に戻りたいので、東藤の『定期テスト論』について一言物申してください」

「東藤君の『定期テスト論』とは?」

「かくかくしかじか」

「なるほど。そやなぁ。定期テストのたびに詰め込むのもそんなに悪くないと俺は思うで。一生懸命勉強するから意外とずっと覚えてられるし、だからこそ受験勉強にも活きてくる。あとは、余裕とか言うなら9割はとってほしいな。8割て。とりあえず東藤君はテスト勉強をきっちりしている俺に勝ってから、テスト勉強を馬鹿にしてください」

「はい……。反省します……。誠に申し訳ございませんでした……」

「マジでへこんでるやん! ばーかばーか! あほー!」

「まあ、村瀬のこと馬鹿にするのはしゃーないけどな。馬鹿やし」

「え!? 黒岩!?」

「植野さんもしょうもないこと言ってんと勉強に戻りや」

「はーい。てか黒岩君、各教科のヤマ教えて!」

「ええで」

「さらっと酷過ぎひん!? え、待って! 僕にもテストのヤマ教えてくれー!!」

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