高嶺の花として君臨する城之内玲奈のシックスセンス(KAC20223)
寺澤ななお
シックスセンスで惚れられたのは果たして誇りか
「第6
才色兼備、文武両道の高嶺の花といえば、東京に通うすべての男子大学生が名を挙げるだろう。
「外見や才能、性格が魅力的な男性はたくさんいます。でも第6感は初めてです」
悪びれもなく玲奈は口にするが、なかなか失礼ではなかろうか?
俺こと
だが、父親と母親が一生懸命にそだててくれたのだ。せめて性格で惚れてほしかった。
じゃあ、交際を断るか?
答えは当然「否」
まずありえない。
立てば
この言葉はまさに城之内玲奈のためにある。
青少年が抱える色欲を数多のグラビアアイドルや女優、そしてアニメヒロインで満たしてきた俺からしても絶世の美女といえる。
スペインの血が入っていると言われれば信じてしまうほどのスッキリとした彫りのある目が素敵だ。
きめ細やかで雪のように白い肌が素敵だ。
何よりも黒髪のショートカットが素敵だ。
ドラマによく出てくるお嬢様のような長髪ではなく、肩に届くか届かないかの短髪。やや内側にカールしている。前髪は俺の好みど真ん中の“眉毛にかかる直前のパッツン”だ。
これ以上の美人と付き合うチャンスなど今後一切ないに違いない。
いや、絶対ない。俺はすべての運を使い果たしたと見ている。
たとえ、付き合う理由が第6感だけだとしてもどうでもいい。5感を超越したシックスセンスなど正直、気の
さらには、玲奈の両親はなかなかの資産家で、将来ハワイで余生を過ごすことを夢見た両親の期待を裏切るわけにはいかなかった。
ちなみに父親は俺と自身とのDNA検査を勝手にやっていた。本当に自分の血が継がれているか不安になったらしい。
「第6感がふるえたの」
その事実を告げられた初デートまではたちの悪いドッキリを疑っていたが、それから交際は問題なく進み、半年がたった。初デートで手も繋いだし、それからの間で恋人が踏むであろう段階も無事に超えた。
俺は幸せだった。
玲奈が刺される前は。
正確には玲奈は刺されていない。
玲奈と遊園地でデート中、熱烈すぎたファンが襲いかかる直前に俺が間に入ったからだ。
ファンは俺から身を離すと、わなわなと震えだしその場で吐き出した。
吐き出したいのは俺の方だというのに。
ファンが近付いてくるのは今までも珍しくなかった。多くは握手を求めるくらいで、悪質だと有無を言わさず抱きついてくる。
いつものようにそれを守るぐらいのつもりでいた。
悲劇のヒーローを演じるつもりなどなかった。ナイフを持っているなんて思ってもいなかった。めちゃめちゃ痛いし、苦しい、それを上回るくらいにくらくらするし、体が寒い。
玲奈の叫ぶ声やらなんやらが響き渡る。うるさいくらいに。そして寒い。
ともかくもシックスセンスを信じて俺と付き合った玲奈は正しかったわけだ。
俺は束の間の幸せに感謝し、意識を手放した。
もちろん、命を手放したわけではない。
三日後、俺は病院のベットで目を覚ました。
ベッド横には玲奈が座っていて、壁にもたれかかりながらスースーと寝息をたてている。まるで生まれたての豆柴のようだ。たとえ、この人のとばっちりで死にかけたにしてもその姿は可愛らしい。
あまりに見すぎていたのか。玲奈はふと目を開けた。寝ぼけ
「これが第6感?」
俺の問いに玲奈は、顔をしかめ、申し訳なさそうに頷いた。
「これしか方法がありませんでした」
玲奈は陰陽師である曽祖父の血を濃く継いでおり未来をみる予知視の能力があった。
そして、自分が死ぬ運命を見た。
助かるには俺と付き合うしか方法がなかったらしい。
「空手2段だろ?」
「いつ襲ってくるかはわかりません。事実半年経ちました。いつも警戒しているのは無理です。それにあの人が未遂に終わっても、他の誰かが襲ってくる運命でした。刺されそうになるところを助けられるのがキーポイントでした」
「俺が死ぬ可能性はなかったのか?」
「ありません」
とのことらしい。一点の曇もない瞳でそう言うもんだから、玲奈に抱いていた憤りはきれいに消えてしまった。
「責任をとります」
一生涯、俺の言うことを聞くと頑なに主張する玲奈。どこまでも真面目な彼女を好きにできる権利を得たわけだが、俺はその場でその権利を放棄した。
確実かどうかの保証もない予知視で命を落としかけたのだ。残りの人生は後悔することなく生きたい。
俺は翌日、幼なじみの
俺は美人が好きだ。黒髪が好きだ。前髪ぱっつんが好きだ。雪のように白い肌も好きだ。
だが、何よりも柚菜が好きだった。
足は速いのにスポーツは苦手。それでも剣道師範の祖父に憧れ、一生懸命に剣道を頑張る姿が大好きだ。
てか、可愛さでは負けていない。
髪型は後ろで髪を束ねたポニーテールで前髪はないが、昔はぱっつんだった。小学生の時に俺がそれをいじったら、翌日にはやめていた。
女として見るようになったのは中学生2年生の夏だ。
地区大会の団体決勝戦。チームの命運を託された大将の柚菜は相手校の一年生エースに惜敗した。
防具を脱いだ柚菜の顔は汗と涙でぐちゃぐちゃだった。だけど、誰よりもきれいだった。
柚菜に近づこうとして始めた空手は今でも続けている。素人のナイフもさばけはしないが。
大学受験は柚菜と同じ大学に入ろうと努力した。見事合格した俺はその晩に柚菜の家を訪ね、告白。見事に振られた。
その大学に通う高校の先輩が好きだと言われた。ふたりが一緒に居る姿を見たくなくて大学を変えた。
はずなのだが、玉砕覚悟で挑んだ俺の再度の告白を柚菜は涙を流しながら応じた。
高校の先輩話は嘘だった。最初の告白を断った理由は2つ。ひとつは、本当に学びたいと思える大学を選んでほしかったから。
もう一つは、「男からの告白は一度断ったほうがその先長続きするから」だという。
そんな入れ知恵をしたのは俺の母親だった。二人で交際を報告した際、ハワイへの移住を願っていたはずの母親は優しい笑顔を柚菜に向けていた。
傷が癒えたころ、柚菜を連れてキャンパスを案内していたら偶然玲奈に会った。
二人は既に顔見知りだった。
俺が倒れた日、病院に駆けつけた結菜は玲奈に掴みかかり激しく責め立てた。
俺の両親になだめられてからもつきっきりでそばにいてくれたらしい。目覚めたときは着替えを取りに戻っていたが。
玲奈の腕にはその時についたアザがある。
「罰としては些細な傷です」
玲奈はそう言って笑っていた。
結果的に恋のキューピットとなった玲奈と結菜は今も友人として仲良くしている。
玲奈はいう。
俺と結菜はどうなっても恋仲になったと。
高嶺の花の第六感はあてにならない。
高嶺の花として君臨する城之内玲奈のシックスセンス(KAC20223) 寺澤ななお @terasawa-nanao
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