last season. 向日葵が作った太陽のオーダーゼリー

 誕生日パーティをすると言っていた翌週、棗がパーティを終えた報告をしに葵の元にやって来た。

 しかし何故か棗は気まずそうで、ええと、あの、その、と口ごもる。

 葵はクスクスと笑い、つんっと棗の腕をつついた。


「ホールケーキ必要だったでしょう」

「……分かってたの? 結が瓶ケーキ嫌がるって」


 パーティは無事開催されたが、ちょっとした事件が発生したのだ。

 それは累が参考例として瓶ケーキを取り出した時の事だ。


「結! 今年のバースデーケーキはこれだぞ!」

「瓶? あ、瓶ケーキ?」

「材料詰めるだけだから簡単なんだ。今年はこれ一緒に作ろう!」


 結は完成済みの瓶ケーキをまじまじと見たが、ドンっと累に付き返してぷんっとそっぽ向いてしまった。


「嫌! 僕それいらない!」

「え⁉ 何で⁉ 簡単だから大丈夫だって!」

「だってこれ絶対女の子の入れ知恵じゃない! 何でせっかくの誕生日にそんなの食べなきゃいけないの! 嫌!」

「それは、だって毎年ケーキぐっちゃぐちゃだから」

「僕は累のヨーグルトケーキがいいの! 他のはいらないっ!」


 結はどすどすと足を踏み鳴らしてソファにどっかりと座り込んだ。

 膝を抱えてしょんぼりとして、いらないもん、と口を尖らせる。

 その可愛い姿に累は喜びと愛しさがこみ上げて、涙目になって結に勢いよく抱き着いた。


「そうだよな! 結には俺がいるもんな!」

「ぐえっ。苦しい」


 結局双子でボロボロのスポンジにヨーグルトを掛けたとの事だ。

 葵が教えた瓶ケーキは、せっかくだし、と両親の分として作ったそうだ。何しろ累のヨーグルトケーキは結が分けてくれないから、毎年両親は食べるケーキが無いのだ。

 話を聞きながら、葵はにやにやとドヤ顔をしていた。


「結は喜んでくれると思ったのに。何で分かったの?」

「あんな幸せそうな写真見たら誰だって分かりますよ」

「じゃあ何でわざわざ教えてくれたの。無駄な時間取らせちゃったじゃん」

「それ! ご両親何て言ってました⁉」


 ぐわっと葵は棗に食らいついた。

 その勢いに驚き、棗は一瞬びくりと震える。


「良くしてくれる友達がいてよかったわ~とか安心してた」

「でしょ⁉ あれは大学でちゃんと交流してるアピールになると思ったんですよねー!」

「え? まさかそっち狙い?」

「感謝してくれていいですよ」


 ふふんと葵が自慢げに笑うと、棗は一瞬きょとんとしてから声を上げて笑った。


「頭良いなあ。結も可愛かったし、大成功だよ」

「ふふーん。でも私の大成功はまだですよ。先輩これ」


 葵はごそごそとマチの広い小さな保冷トートバッグからまるっとしたガラスコップを取り出した。

 その中には真夏の空のように透き通った鮮烈な青いゼリーと、入道雲を彷彿とさせるメレンゲが空の中から上にまで顔を出している。


「うっわ! 何これ!」

「弟さんの誕生日は先輩の誕生日。おめでとう御座います、先輩」

「すげー……夏空だ……」

「太陽である先輩が持てば完成ですね」

「ははっ! 天才! じゃあ向日葵むかいあおい先生、新作ゼリーのタイトルは?」


 葵が棗にしたように、メニュー名を求めてきた。

 棗は弟に向けた名前を付けていたが、これは葵が棗に向けて作った物だ。


向日葵ひまわりが作った太陽のオーダーゼリー、かな」

「え~まんま~」

「うるさーい。先輩よりはオシャレですよ」


 どっちもどっちだ、と二人は顔を見合わせて笑った。

 けれど棗は嬉しそうにゼリーを受け取り太陽に透かした。陽の光が差し込んだゼリーは本当に夏空のようだ。


「二つ作ったから弟さんとどうかなと思ったんですけど、止めた方が良さそうですね」

「あはは。てか一緒に食べよ。食堂で食器借りよう」

「え?」

「ん? いや?」

「嫌というか……」


 今はランチタイムだ。きっと女子生徒もたくさんいる。棗を好きな女子生徒が何人も。


「喜んで」

「何だよ。じゃあ行こ」

「はいっ」


 そして二人はケーキ作りの振り返りをしながら、いつの間にかすり替わった棗の弟自慢を聞き写真と動画を見てゼリーを食べた。

 葵にとって入学してから一番幸せな時間だったが――


(視線が痛い……)


 ひと騒動あるな、とその場の全員が思っていた。

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サマーオーダースイーツ 鳴宮つか沙(旧:蒼衣ユイ) @sahen

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