シックスセンス

三枝 優

「危ない!」

「え!?」


 横断歩道を渡ろうとしたエミの腕を誰かが強く引っ張った。

 そのせいで、バランスを崩したが抱きとめられたおかげで転ばずに済んだ。


 その目の前を、物凄いスピードのバイクが横切っていった。

 エミがさっきまでいたところだ。


 横断歩道の信号は青。

 信号無視して行ったのだ。


 驚くエミ・・そのバイクを唖然と見送ることしかできなかった。


「大丈夫?怪我はない?」


 背後から声を掛けられる。


「あ・・・ありがとうございます」


 エミは振り向き礼を言うと・・・それは見たことのある人物だった。

 同じクラスの・・・どちらかというと存在感の薄いクラスメート。


 確か名前は、薄井・・・だった。


「怪我がないならよかった。じゃ・・・」


 立ち去って行こうとする、薄井君になんとなく声をかけた。


「あ・・・ありがとう。助かったよ」

「いや・・・ああいうのもいるから気を付けて」


 そう言って背を向けて去って行こうとする。

 

「あ・・・あの!」


 不思議そうな顔で振り向く薄井君。


「よかったら、お礼にハンバーガーを奢らせて!」




 ハンバーガーショップに向かう途中。

 エミは、一方的に話をした。


 最近、運が悪くてものが飛んできて頭にぶつかったり自転車が急に壊れて転んだりしたこと。

 今日起こったことも、その一連の流れなんだろう・・・と。


「それで、お祓いでもしてもらおうと思っていたところなのよ。週末に近くの神社に・・」


 急に腕をつかまれた。


「止まって」

「へ?」



 カコン!!


 一メートル先の地面に何かが落ちてきた。

 缶コーヒーのようだ。ただし、中身入りの。



「ごめんなさい!!大丈夫ですか!?」


 頭上から声がする。

 見ると4階付近のビルの窓から見下ろしている男性。

 誤って落としてしまったようだ。


「もう!!危ないでしょ!!」


 エミはその男性に憤慨して大きな声で文句を言う。



「それにしても、薄井君。よくわかったわね」

「感は良い方なんだ」

「へえ・・・」


 エミは、にっこりと笑って薄井君の顔を覗き込む。


「第六感ってやつ?うらやましいなぁ~」

「そんなにいいもんじゃないよ」

「え~?私も第六感があったらなあって思うもん」



 薄井は、眼をふせる。


「ほんと・・・いいもんじゃないんだ」




 第六感なんかじゃない。

 彼が・・・耳元でささやくのだ。


 幼いころに死んだ兄が・・・骸骨の姿で。





 ささやき続けるのだ。 いつも・・・いつまでも。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

シックスセンス 三枝 優 @7487sakuya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ