騎士の勘

ホイスト

第1話

 月明りが、少し開けたこの辺りを照らしている。

 肌寒い空気に少し体を震わせ、息を吐く。

 

 母国に帰り、この戦争が引き起こされた原因を今一度調べてほしいと上告したが、上の方々は動いてくれなかった。

 それどころか、国の協調を乱す者として追われる身になってしまった。

 何とか森へ逃げ込み追手を振り払えたが、手入れされていない森は社会に住んでいた人には進みづらく、戻ることも難しかった。

 私は、進める方向に進むしかない。


 一歩を踏み出そうとした時だった。

 何か、誰かに背後から見られている様な緊張感を覚えた。張り詰めるような感覚。

 とっさに身をかがめる。

 ヒュン、と頭上を何かが────いや、おそらく矢が、空気を貫く。

 直ぐに樹が近い右手の方へ走り、射線を切る。

 追手か、まさかこんな夜中まで探しているとは。

 矢の飛んできた方向を考える。こんな森の中だ、遠くから射っても木々に邪魔され当てられないはず。

 位置にアタリを付け、木々で射線を切りながら徐々に向かう。

 近くまで来た────と感じたところで頭上に緊張感を覚えた。

 腰に提げた剣を抜き天へ振る。中ほどから折れたバスタードソードだ。母国に帰る前の戦闘で折れてしまった。

 キン、と弾かれた感覚と音、そして少量の火花が散った。

 ぼんやりと人型が見えた。

 少し離れた位置に着地音がする。


「人間よ、なぜ私の位置がわかる?」


 妙な物言いの奴だ。そう思いながら着地音のした位置へ走り突きを放つ。

 が、それが受け止められる。折れた先端に獲物を合わせたようだ。 


「たとえ音で解ったとしても、急所の位置をこの暗闇の中で正確に突けるはずがない」


 耳元で吐息を感じる。


「お前、森の祝福を受けたな」


 肩に足を掛けられ、何者かが跳ぶ。

 

「そんな奴と森で戦うわけにはいかないな。また今度会おう」


 その言葉を最後に妙な緊張感も無くなった。

 わけのわからない事を言っていたが……。

 そう考えながら言葉を思い返し、はたと気付く。

 目の前は真っ暗だ。先ほどの開けた場所なら月明りで明るいが、この木々の中だ。月明りは届かない。

 それなのに、なぜか周りの環境が把握できた。

 足元には大きめの木の根があり、背後には斜めに生えた樹。右には背の高い草が生えており、前方はほんの少し開けている。

 これはいったい……?

 

────────────────


「ここが覚醒の森かぁ!!」

「いや、鎮守の森だよ」


 金髪の少女が嬉しそうにぴょんぴょん跳ねる。

 彼女がドはまりしているADVゲーム『二つ救の騎士』の聖地巡礼に強引に連れられて森に来ていた。


「この森で騎士さまが森の祝福を受けて第1段階の覚醒を果たすんだよ!」


 史実を元にしたゲームの為、この流れは現実に起きた事らしく、主人公の騎士はこの森に祝福という力を貰ったそうな。


「この森の中にいれば目を瞑っていたとしても! 敵の位置、攻撃の位置がわかって早く動けて────」


 この森は、その騎士が居た時代三つの国の中心にあったらしく、危なくなったらこの森に逃げたりして何とか生き延びたとか。


「────おーい! もっと奥行こー!」


 気が付くと金髪の少女は離れた位置にいた。

 遠い。


「はいはい」


 私は進む彼女を樹の根などに躓きながら追いかけた。

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