ハズレスキルだと思った【第六感】が実は大当たりだった件 ~魔物の攻撃も美少女の乳首の位置も、全て正確に予感できる最強のチートでした~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

第1話

 俺はしがないDランク冒険者だ。

 今日も、低級の魔物狩りで日銭を稼いでいる。


「せいっ!」


 目の前のゴブリンに剣を振るうと、あっさりと真っ二つになった。

 そして、その死骸は光の粒子となって消えていく。


『レベルが10に上がりました』


 そんなメッセージが頭の中に響く。


「ふう……。ようやく二桁か。なかなか上がらなかったな」


 冒険者になって2年。

 最初の頃は順調に上がっていたが、レベルが6を超えた頃から急激に上がりにくくなった。

 俺が低級の魔物ばかりを狩っているのが原因かもしれない。

 だが、それでも地道にコツコツ上げてきた結果、なんとかここまで来れた。


『レベルアップボーナスが付与されます。スキル抽選中……』


「キタ! これで一気に戦闘力が増すぞ!!」


 アナウンスが流れ、思わずガッツポーズする。

 レベル10では新しいスキルを覚えられるようになるのだ。

 冒険者の先輩たちには【剣術】【豪腕】【健脚】【鷹の目】などのスキルを持っている人たちがいた。

 それぞれ、一人前の冒険者として一目置かれる存在だ。


 俺に与えられるスキルは何か。

 たとえどんなスキルでも、何のスキルもない今よりは強くなるだろう。

 俺はそう思っていたが……。


『おめでとうございます。あなたには【第六感】が与えられます』


「え? ……なんだそれ?」


『第六感とは、いわゆる直感のようなものです。このスキルを持っている者は、危機察知能力や危険回避力が大幅に上昇します。また、その他の局面でも活躍する余地があります』


 よくわからないが、要するに勘が良くなるってことかな?


「戦闘力に直接敵な影響はなさそうだな……。期待ハズレだ」


 俺はため息をつく。

 いずれはBランク……いや、Aランク冒険者になれればと思っていたが。

 そんなに甘くはないようだ。

 何とか気持ちを切りようとしていたとき……。


「きゃああああっ!?」


 悲鳴が聞こえた。

 女性のものだ。

 声の方を見ると、一人の女性がこちらに向かって走ってくる。


「た、助けてくださいっ!! 魔物に追われているんですっ!!」


 女性は必死の形相で叫ぶ。

 彼女も冒険者だろうか。

 銀色の長い髪を持つ美人さんだった。

 腕や体から血を流しており、なかなかの重傷だ。

 助けてやりたいのはやまやまだが……。


「げえっ! ブラッディベアーじゃないか!!」


 彼女の背後を見て驚く。

 Bランク指定されている危険な魔物・ブラッディベアーがいたからだ。

 こいつは熊型のモンスターであり、鋭い爪と牙による攻撃が得意である。

 しかも、その巨体は人間よりも大きいくらいだ。


「ど、どうか助けて……」


 女性の言葉の途中で、ブラッディベアが彼女に襲いかかった。

 彼女はもうダメだと悟ったのか目をつむる。


「危ないっ!」


 俺は慌てて飛び出し、彼女を庇うようにして剣を構えた。

 何をやっているんだ、俺は。

 たかがDランク冒険者の俺が、Bランクのブラッディベアーに勝てるわけがない。


 しかし、ここで見捨てたら寝覚めが悪いと思ったのだ。

 せめて一太刀浴びせてやる……!

 俺はそう覚悟を決めて、ブラッディベアーを注視する。


「(あれ……? 右手の攻撃が来る……? そんな気がする)」


 気のせいだろうか。

 ブラッディベアーは、まだ攻撃の構えをしていないのに、まるで右手で攻撃してくるような気配を感じた。


 次の瞬間……。

 ドゴンッ!

 そんな音と共に、奴の右手が勢いよく地面に叩きつけられた。

 俺はギリギリのところでかわす。

 もし俺が避けなければ、今の一撃だけで終わっていただろう。

 何となくの予感に従ってよかった。


「まさか……これが【第六感】か!?」


 俺は確信した。

 これが先ほど取得した【第六感】というスキルの効果なのだと。


「よし! こいつを倒してしまおう!」


 俺はブラッディベアーに向き直る。

 奴はこちらを威圧するように睨みつけていた。

 俺は剣を構え直す。

 そして、ゆっくりと相手を見据えながら、じりじりと距離を詰めていった。


「グオォオッ!!」


 すると、突然ブラッディベアーが叫び出す。

 その声に気圧されそうになったが、どうにか耐えた。


「(……むっ! 次は噛みつき攻撃か!)」


 次に相手がどう動くかを、俺は直感的に感じ取る。

 それを冷静に分析して対処すればいい。


「せいっ!」


 俺は素早くステップを踏み、相手の攻撃を華麗に避ける。

 そして、反撃のチャンスが訪れた。


「今だっ! 【パワースラッシュ】!!」


 俺は戦技を発動し、剣を思い切り振り下ろす。


「ガアッ……!?」


 俺の放った渾身の一撃は、見事にブラッディベアーの胴体にヒットする。

 奴はその衝撃によりよろめいた。

 俺はさらに追撃をかける。


「【連続斬り】!!」


 俺は次々に斬撃を放った。

 ブラッディベアーは、何とか対抗しようとしているが……。


「グギャアアアアッ!!」


 やがて、ブラッディベアーは断末魔の悲鳴を上げた。

 俺は奴の動きを完全に見切っていたため、全ての攻撃を受け流しつつ、攻撃の手を緩めずに済んだのだ。

 ブラッディベアーは光の粒子となって消え去った。


「ふぅ……。なんとか倒せたな……。大丈夫だったか?」


 俺は後ろを振り返る。

 そこには、呆然と立ち尽くしている銀髪の女性の姿があった。


「す、すごい……! Bランクのブラッディベアーを一人で倒すなんて……。あなたは一体何者なのですか?」


「えっと……。俺はただのDランク冒険者だが……」


「嘘を言わないでくださいっ! Cランクの私でも歯が立たないブラッディベアーを倒したあなたが、Dランクのわけがないでしょう!」


 女性は興奮気味に言う。

 この女性はCランクの冒険者であるらしい。


「実は、つい先ほどレベル10に達してな。【第六感】というスキルを得た。まだ使いこなせていないが、たまたまそれが噛み合っただけさ」


「【第六感】……? 聞いたことがないスキルです。直感が鋭くなるのでしょうか。ブラッディベアーを倒せるぐらいですから、有用なスキルであることは間違いないでしょうが」


 女性は顎に手を当てて考え込む。


「あの……。助けてくれてありがとうございました。私はミレアナと言います」


「俺はカイトだ。よろしく頼む」


「はい、こちらこそ」


 お互いに自己紹介をする。

 ミレアナの方が冒険者ランクは上なので、本来は敬語を使うべきかもしれないが……。

 今回は俺が助けた形なので、しばらくはこれでいこう。


「さあ。とりあえず街に戻ろうか」


「そうですね。……あ、あれ?」


 突然、ミレアナがフラリと倒れそうになる。

 俺は慌てて彼女の体を支えた。


「どうしたんだ!? いや、この傷じゃ無理もないか……」


 彼女の体を見ると、かなりひどい状態だった。

 顔や腕には無数の切り傷を負っており、血が流れ出ている。

 早く治療しなければ危ない。


「……すみません。血を流しすぎたみたいで、意識が遠くなってきてしまいまして……」


「無理もない。だが、なおさら早く手当てしないと危ないぞ」


「少しだけ休憩したら……。きっと、復活できますから……」


 彼女はそう言いつつ、目を閉じる。

 これはマズい。

 俺の【第六感】がそう告げている。

 彼女がこのまま意識を手放せば、そのまま死んでしまうだろう。


「……仕方ない。かつて師匠に教えてもらった、秘奥義を使うときだ」


 俺は気合を入れる。

 両手の人差し指に魔力を込めた。


「集中しろ……。この込めた魔力を、人体の入口にピンポイントで注入する必要がある……。しかし一方で、肌に直に触れるのもマズい……」


 人体に負荷がかかり過ぎる恐れがあるのだ。

 服越しに魔力を注入すると、ちょうどいい感じになる。


「考えるな、感じろ……。ミレアナの注入ポイントはどこだ……?」


 師匠に教わった秘奥義ではあるが、成功率は1割にも満たない。

 服の上から注入ポイントをドンピシャで見極めるのは、卓越した観察眼が必要なのだ。

 しかし、今の俺なら……。


「見極めたっ! ここだぁっ!!!」


 俺は叫ぶと同時に、両の人差し指を彼女の乳首に突き刺す。


「んひゃうっ!?」


 ビクンッ! と体を震わせるミレアナ。

 俺はすかさず、治療魔法を唱えた。


「【エクストラヒール】!!」


 すると、彼女の体が淡く光り輝く。


「ああああぁっ!? んんんんんっ!!!」


 その瞬間、ミレアナは艶っぽい声を上げた。

 そして、みるみると傷が治っていく。


「ふう……。成功だな」


 俺は額の汗を拭った。

 【エクストラヒール】の治療効果は抜群だ。

 傷を治す他、増血の効果もある。

 その欠点は発動難易度の高さなのだが、俺の【第六感】は女体の乳首の位置を服越しで見極めてくれた。

 まさに天啓と言っていい。


「あ、あの……。今、私の胸に……?」


 意識がはっきりとしたミレアナが、顔を赤らめながら聞いてくる。

 ……しまった。

 緊急事態とはいえ、女性の乳首に人差し指を突き刺したのはマズかったかもしれない。

 セクハラだ。


「すまない! 緊急処置だったんだ! 許してくれ!」


 俺は即座に謝る。

 だが、彼女の反応は意外なものだった。


「い、いえ……。ありがとうございます! おかげで助かりました!」


 彼女が素直にお礼を言う。


「いいのか? 治療のためとはいえ、君の乳首に指を突き刺したのだが……」


「い、言わないでくださいっ! いいんです!!」


「だが……」


「とにかく大丈夫です! ……気持ち良かったし……」


 ミレアナが最後にボソッと呟いた言葉がよく聞こえなかったが……。

 まあいいか。


「無事に元気になったし、街へ戻るか」


「そうですね! ブラッディベアーの魔石も回収して、っと……。カイトさんはDランクでしたよね? 今回の功績が認められれば、私と同じCランクになるでしょうね!」


「それも悪くはないが……。俺自身【第六感】のスキルを理解しきれていないし、無闇にランクを上げるのは少し怖いな……」


「なら、私にお任せください! パーティを組みましょう!!」


 ミレアナが提案してくる。

 確かに、ソロ冒険者より二人の方が心強い。


「そうだな……。では、よろしく頼む」


「はい、こちらこそ!」


 こうして俺は、初めて女性の仲間を得た。

 そして、二人で仲良く街へ戻り始めたのだった。

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