第六感

ひぐらし ちまよったか

村長の野望

「――結局、逃げちゃいましたね? 竜」


「よかった~!! ホント! マジ助かった!!」


「お武家様……?」


「あ……いや……無駄な殺生は好まぬゆえ、立ち去ってくれて良かったわい! むっほっほ!」


「おお! なんと慈悲深い! やっぱりお武家様は『勇者さま』と呼ぶべきお方ですね!」


「ぬほっ!? 村長、また『勇者』か? まあ、呼びたければ、好きに呼ぶがよいぞ!」


「ははあ! ありがたきしあわせ!」


「しかし竜の奴め? 何故いきなり、飛び去ったかのう……?」


「何か感じるものがあったのでは?」


「感じるもの? 何かおかしな事した? ワシ」


「……勇者様が、荒い息遣いで現れたからじゃ無いですか?」


「――え~? だって、『竜殺しの剣』って結構重いんだもん……それを二本背負って山道でしょ? ワシ、正直キツかったわ~!」


「え!? 殺気を込めた呼吸法だったのでは!?」


「む!? ……村長、お主、素人だとばかり思っていたが……実は、意外と、分かっておるな?」


「はい? 何の事でしょう?」


「あれはの、己の肉体を疲労状態へ追い込むことで、逆に精神に危機感を持たせ、剣技を究極の高みまで昇華させるという、わが流派、秘中の秘、『パンプアップ』というものじゃ!」


「ぱんぷあっぷ? ですか?」


「うむ! 一見疲れ切って見えるがの? その実、筋肉は膨れ上がっているのじゃよ!」


「おお! そうでしたか! そういえば山に登る前よりもムキムキって成ってましたね!」


「うむ、肉体を肥大させたは良かったが、呼吸に殺気が漏れ出ていたか……わしもまだまだじゃのぅ……村長にまで気付かれてしまうとは……ちと、やり過ぎてしもうたワイ!」


「竜たちも危険を感じ取って、逃げちゃったんでしょうかね!?」


「第六感と云うやつじゃのう? あれも野生生物だから、そういった物を持っているかも知れぬのう?」


「――ひとまず勇者様! お疲れさまでした! まあ、おひとつ……」


「お、すまぬの村長! お、と、とと」


「――勇者様? わたくし、お耳汚しをひとつ思いつきましたよ! えへへ……言ってもいいですか?」


「うん? なんだね? 言ってごらん」


「え~、『野生の竜の行動』と掛けまして『上野と秋葉原じゃ、秋葉原の方』と、解きます……」


「お! 謎かけで笑わせてくれるのかい? それは良い! して、そのこころは?」


「えへへ……『神田寄り(感頼り)』でしょう!」


「おおっ? うまいね村長! どれ、盃をこちらに寄せなさい……ワシが注いで進ぜよう?」


「わ! あり難き幸せ! では、お流れを……お、ととと……」


「わはは! 気分のいい酒だのう!」


「――でも勇者様? 危険を察知するのが『第六感』なら……『山勘』ってのは? これも『第六感』っていいません?」


「うーむ……そうだのう? 人間の『五感』以外の感覚を『第六感』と呼ぶのではないかの?」


「なんだか沢山有りますね……? 『霊感』てのも『第六感』て言いますよね?」


「え! 『霊感』って……怖い話をするつもりじゃないよね? 怖いの苦手よ? ワシ」


「勇者様でも、怖いのこわいんですか!?」


「あ、ゴホン! いや、武士というものは……極端な現実主義者なんじゃよ……? 非現実的なものは嫌なのよ……」


「ああ! 希望や憶測だけで、自分の実力以上の敵に向かったら、やられちゃいますもんね?」


「――村長? おぬし、かなり賢いの? 村長とはいえ、このような田舎に置くのは勿体ないわい」


「有難う御座います! いや、実はですね……こんな田舎の村長やってる私にも……野望と呼べるものが有りましてね……聞いて貰ってもいいですか?」


「――怖い話はやめてね? ここん家、おトイレが外にあるでしょ? 田舎だから……家の中でしちゃうよ? ワシ」


「あ、それは困ります……いや、怖い話じゃないですよ?」


「ほんとう……? ウソついたらひどいよ……? 何なら、もらすよ?」


「ダイジョウブです……! いえ、さっきの謎掛けなんですけどね? わたし、ああいったもの考えるの好きなんですよ! えへへ」


「ほう? なかなか良い趣味ではないか!」


「でね、『第六感』ですか? インスピレーションと云うか、ネタをこしらえるコツってのを学びたいって、ずっと思ってたんですよ」


「ふむふむ」


「そんな時にですね? 山を降りてった先にある漁村に『都で評判のコント作家』って人が泊っているって噂を聞きましてね……」


「ほう!? そのような御仁が、こんな田舎の漁村にのう?」


「『こりゃいいや! 学ばせてもらおう』ってんで、手土産もって会いに行ったんです……」


「頭を下げて教えを乞う気じゃな? 殊勝な心掛けじゃ! いや、天晴」


「そしたらその人、『この漁村を一回りしてから、もう一度来てみなさい』って言うんですよ」


「ふむ? 教えもしないで一回りして来い? おかしな話じゃのう?」


「でしょ? でも、とりあえずアチコチ回って戻るとですね、その人……」


「何と言うたかね……?」


「……どうだね? かね?」



―― え~、おあとが……よ、よろしいようで……。

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第六感 ひぐらし ちまよったか @ZOOJON

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