第六感って言われてもよく分からないわ…

閑人

第六感って言われてもよく分からないわ…

『三回目お題 第六感』

 

「第六感ねぇ……。第六感って言われても……。」

 

 カクヨムでは、KAC2022というイベントが開催されている。あるお題をテーマにした小説を投稿して、評価し合うというものだ。そのKAC2022でのお題が、第1回は二刀流、第2回は推し活、そして第3回が第六感というわけ。

 

「推し活も難しかったけど、第六感はさらに難しいねぇ……。」

 

 私、早川優子は、家事やパートの合間を縫って小説を書くことを趣味にしている。もうすぐ定年の夫、大学生の娘、高校生の息子の4人家族で、娘は一人暮らし中だ。家族には私が小説を書いていることは内緒にしている。だってバレたら恥ずかしいもの。

 

「第六感……。五感以外のもので五感を超えるもの。理屈では説明しがたい、鋭く物事の本質を掴む心の働き……。」

 

 第六感の意味を検索し、反芻する。うん、これはファンタジーかな。流行りの異世界モノでも書いてみようかしら。異世界に転生した主人公は、ありえないくらいの第六感を駆使して、1度も攻撃を受けずに魔王を倒す……。うーん、面白くできる気がしないわ。

 

 お昼休憩が終わって、午後の仕事に取りかかる。事務員としての仕事をこなしながら、頭の片隅では小説のプロットを練っている。

 

 そういえば昔、シックスセンスとかいう映画があった。確かあれはホラーものだったか。第六感が鋭くて幽霊が見えてしまう主人公のお話だった気がする。

 ホラーは書いたことがあるけど、話を作るのが難しいんだよね。第六感で幽霊が見える主人公は何をするのか……。やっぱり逃げるのかな……。

 

「……さん。早川さん。」

 

「っ!はいっ。」

 

「どうしたの早川さん。珍しくぼーっとして。」

 

「すみません。少し考え事をしていて……。あ、旅費の精算ですかね。資料できてますよ。」

 

「おぉ、さすが早川さん。仕事早いね。というか、よく旅費の話だってわかったね。」

 

「あー、なんとなくですね。はい、メールで送っておきましたので、確認お願いします。」

 

「ありがとう。これ、出張のお土産。事務のみんなでどうぞ。」

 

 ありがとうございます。とお礼を言って、お土産をみんなに配る。お土産は生八つ橋、少量のパックのやつだ。職場でも配りやすい、気が利いたお土産だなと感心する。

 あー、京都、お寺……、お稲荷様……。修学旅行で、京都に行って……、神社仏閣を、巡っていたら、突然現れたお稲荷様に、巻き込まれて……。

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

「うーん、やっぱり面白くないな。」

 

 あまりファンタジーを書いたことが無い私にとって、SFっぽい話は上手く表現することも出来ないし、まとめることもままならない。結果、まとまりがない話になってしまう。

 他の人はどんな話を作っているのだろうと思い、KAC2022のタグを検索しようとした時、ブブッとスマホが震えた。

 

『荷物届いたよ!ちょうど食料が尽きかけてたところだったから助かったー。あと葛根湯も。最近なんとなく調子悪いなーって思っててさ。』

 

 娘からLINEでメッセージが送られてきた。先日送った荷物が届いたみたいだ。

 

『それはよかった。忙しいのかもしれないけど、ちゃんとご飯は食べなさいよ。』

 

『はーい。それにしても、何で葛根湯も送ってきたの?』

 

『なんとなく送っておかないといけないと思ったの。母の勘ね。』

 

『すごいね。どうもありがとう!』

 

 最後にスタンプが送られてきて、母と娘の会話は終わった。そのタイミングで息子がお風呂から出てきた。

 

「冷蔵庫に牛乳あるよ」

 

「ん。」

 

「んー、あんたさー。彼女できた?」

 

「ぶっ!」

 

 あら、流しに牛乳を吹き出しちゃった。勿体ない。

 

「なんだよ急に!」

 

「なんかそんな気がするのよねー。母の勘ってやつ!」

 

「……、まぁ……。できたけど。」

 

「よかったねー。初カノだね!仲良くしなさいよ。」

 

「分かってるよ。」

 

 それだけ言うと、さっさと自分の部屋に戻っていってしまった。反抗期は終わったと思うんだけど、少しぶっきらぼうというか素っ気ないというか…… 。まぁ、そういうものなのかね。息子っていうのはよく分かんないわ。

 

 ちらりと時計を見ると、時刻は21時近い。そろそろ、夫が帰ってくるかなと思い、ご飯の準備を始めようとした時、何か嫌な予感がした。

 

「んー、今日は呑みに行ってるのかな?」

 

 私はご飯の支度をやめて、風呂に浸かりながら小説のプロットを考えることにした。私にも第六感みたいなものがあれば、もっと楽に面白い小説を書けるのにねぇ。

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

「もうみんな寝てるのかぁ……。まったく、なんで水曜から呑みに行かなくちゃならないんだか……。」

 

 仕事終わりに部長から誘われてしまっては断ることはできない。仕方なく付き合いで呑みに行ってしまった。

 

「はぁ……、なんか小腹が空いたな。」

 

 ぶつぶつと文句を言いながら、ダイニングの電気をつけると、ダイニングテーブルの上にお茶碗と箸、お茶漬けの素が置いてある。横には書き置きも添えてある。

 

『お仕事お疲れ様です。どうせ部長に誘われて呑みに行ったのでしょう。冷凍庫にご飯があるのでお茶漬けでも食べて下さい。おやすみ。』

 

「何でもお見通しかい……。昔から嫌に勘が鋭いんだよなぁ……。第六感ってやつかね。」

 

 苦笑いしつつ、妻からの厚意をありがたく頂戴することにした。

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