第六感でガチャを引く男VS廃課金でガチャを引く男

クマ将軍

感か、金か

 場所は放課後の教室。


「さぁ始まりました! 費やした時間と金が一瞬で溶ける召喚対決!」

「先ずは赤コーナー、佐久間幸太郎!!」


 実況の巻田と解説の角田が選手達の紹介をする。

 先ずは不敵な笑みを浮かべる男、通称『第六感でガチャを引く男』佐久間幸太郎だ。


「続いて青コーナー、金原かねはら晴一せいいち!」


 蒼白そうな顔ながらも不気味に笑みを浮かべた男がやって来る。彼こそが『廃課金でガチャを引く男』金原晴一だ。


「見てくださいこの両者の笑みを!」

「両者とも自分が勝つと信じて疑っていないのでしょう」

「さて、これから二人が引くのは今大人気のソシャゲ『ラブマックス・フルパワー・ウォーリア 〜時をかける恋歌〜』の新しい限定ピックアップ召喚です!」


 新しく登場した限定PU召喚はこのソシャゲに登場するメインキャラ、ノンナの水着衣装だ。

 発表された性能はまさにトップクラス。彼女の登場によってセルラン一位はこのゲームの物になっているのだから彼女の人気も窺えよう。


「あっ因みに俺は五十連で出たんで」

「あっ俺の方はチケット一枚で出ました」

『クソが!』


 角田のカミングアウトによりこの場にいる三人が吐血する。

 キャラ引けたよマウントを取ろうとした巻田すらも巻き込んでの精神的ダメージだ。試合前の二人は自分も引かなくては次の復刻まで一生マウントを取られ続けるだろうと恐怖を抱く。


「ル、ルールは簡単! 先に彼女を引いた方が勝ち!」

「しかし先に石が無くなり、ガチャを引けなくなった者は失格となります! また石が無くなっても追加の補充は禁止となっておりますのでご注意ください!」

「まさに勝負はこの場一度限り! それでは両者、手持ちの石を見せてください!」


 実況の声に二人は手持ちのスマホを掲げた。


「僕の手持ちの石は九十個だ!」

「さ、三十連相当の個数だと!? バカな、限定PUだぞ!?」


 少ない。あまりにも少なすぎる。

 新規実装キャラのPUは通常年に一度。これを逃せば年末年始の福袋か来年の復刻PUしか手に入れる手段はないだろう。

 だというのに佐久間の手持ちは三十連相当の石だ。

 普通なら引けない。相当運がなければ出てこない。


「グハァッ!」

「巻田!?」


 突如として巻田が吐血した。


「さ、佐久間は生粋の無課金ユーザー……しかし『胸騒ぎ』とかいう訳の分からない第六感で数々のSSRを引いた実績のある理不尽ユーザーだ……!」


 そう、彼の『第六感でガチャを引く』通り名は伊達ではない。

 通常胸騒ぎという言葉は不安や不吉な予感に胸がざわつく意味のある言葉だが、佐久間にとっては違う。胸がざわつく時、それは彼の吉兆を表す時なのだ。


「でもその胸騒ぎはいつ起きるか分からない不安定な物だ……!」


 解説の角田の言う通りだ。

 この先引き勝負においてその能力はとても不利な能力。恐らくこの三十連は万が一間に合わなかった場合の一か八かで使う石なのだろう。


「し、しかし三十連以内で引いたら俺の五十連引きがカスになる!」

「それでもお前はちゃんと引いたじゃねぇか!」

「うるせぇチケット単発引き野郎が!!」

「ふひひさーせん」


 まぁどう足掻いてもこの場におけるマウント権利保持者は角田ではあるが。


「気を取り直して、それでは金原の所持数は……何!?」

「石が、ゼロ!?」

「バカな、これから勝負だというのに!?」

「ふふふ……」


 金原がゲームの画面を操作する。

 そこで金原が行った先の画面は……。


「この状況でガチャ石購入画面だと!?」

「これはパフォーマンスさ! 勝負が始まっていないこのタイミングで私は君に精神的ダメージを与える!」


 コピーン。


「おっほ決済の音ぉ〜!」

「課金の音だ! しかも当然のように一万円二百個コースだ!」

「更に私は課金を重ねる!」

「まさかこいつ天井まで!?」


 天井と呼ぶガチャの上限回数が三百連なので、天井分に必要な石の個数は九百個だ。そして、課金した今の金原の所持数は五万円課金で千個存在する事になる。

 天井まで引いても石は百個残る。

 そして天井分まで回せば確定で目当てのキャラが手に入る。


「この勝負……私の勝ちだ!」

「グハァッ!」

「佐久間が吐血したぁ!!」

「あぁそんな……ログボ、メインクエ、サブクエ、キャラクエ、イベント報酬、バトル報酬その他諸々で稼いだ僕の石が……」

「苦しかろう辛かろう! どうだ君が無課金で時間と忍耐を費やして得た石が一瞬にしてゴミになる瞬間は! これがバイトで手に入れた金の力だ! グハァッ!」

「金原も吐血した!」

「バイトで手に入れた給料の内五万円がデータに消えたからだ!」


 さて、このような場面があったがようやく勝負の時間が来た。


「……さぁ両者、石の準備が出来たところで!」

「勝負開始です!」


 解説の角田がそう宣言した瞬間ガチャ画面で待機していた二人が動く。


「……いや! 佐久間は動かない! 動いていない! スマホを机の上に置き、ガチャ画面の前で腕を組んでいるぞ!」

「どうやら例の『胸騒ぎ』が起きるまで待機しているようです」

「一方金原はガチャを回していた! 下手すれば最初の十連で出て来るぞ!」


 だが、現実は甘くなかった。


「クソォ! 最低保証だ!」

「何というグロ画像だ!」

「まぁまぁ最初の十連は遊びですからね。早々出ませんよ」


 そのまま二十連、三十連と回して、それは起きた。


「……! 来た!」

「な、何ぃ!? 佐久間がまさかの胸騒ぎ! そのままガチャを回したぁ!」


 佐久間の行動に金原が戦慄する。

 自分がバイトで働いている間、今まで佐久間はピックアップの度にガチャ自慢報告をして来たのだ。その度に自分も佐久間の胸騒ぎのような能力が欲しいと何度願って来たことか。


「ま、まさかの虹回転!?」


 角田の叫びに、バイトの重労働で青褪めていた金原が更に青褪める。

 虹回転は所謂確定演出と呼ばれる物で、この演出が出現すれば確定でSSRが出て来るのだ。


「出すなぁ! 俺の五十連より少ない回数で出すなぁ!」

「巻田が血涙を流している!」

「クソクソォ!」

「金原選手も急いでガチャを回す! しかし金原選手はガチャ演出を律儀に見るタイプのため天井まで回せていない!」


 そして佐久間の画面にSSRが出た。


「いや、これは……!?」

「SSRはSSRでも……SSRヴィエラ・パッツェだぁ!!」

「すり抜けかー!」


 ここで第六感の第二の弱点が現れた。

 確かに胸騒ぎが起きた時に引けば当たりは出る。しかし、当たりは当たりでも決してピックアップ対象のキャラである事はないのだ。


「グハァッ!」

「角田が吐血した!?」

「エ、SSRヴィエラは恒常召喚で出て来るトップTier帯のキャラ……! 攻略において欠かせないキャラだ……! そして俺は姐御を推しているユーザーの一人……!」

「なのに角田は何故かヴィエラというキャラだけ一体も出せていなかったー! それが目の前で出されて角田は精神的ダメージを負ってしまったのだー!」

「でももう持ってるしなぁ……」

「グハァッ!?」

「佐久間の追撃で角田が倒れるぅー!」


 ガチャ勝負は続き、金原は天井まで折り返しとなった。

 対する佐久間はまた腕を組んで胸騒ぎが来るまで待機している。


「……グハァッ!」

「なっ金原が静かに吐血した!?」

「仕方がない……金原選手はここまでやっても水着ノンナが出てこないばかりか、ずっと最低保証ばかりですり抜けが一枚もないから」

「来た!」

「ま、まさか佐久間が二度目の胸騒ぎだと!? 間隔が短すぎるぞ! 病院行った方がいいんじゃないか!?」


 佐久間が動く。

 そして二度目の虹回転が目の前で起きた。


「クソ、何なんだアイツの第六感は!?」

「よし出ろ水着ノンナ!!」

「そして出たのは……っ!?」


 それは確かに水着キャラだった。


「おーっと!? それは水着は水着でも去年実装され、今回のピックアップに同時封入されたSSR水着ノエル・アークラヴィンスだー!!」

『グハァッ!?』

「角田と金原が地面に沈むぅ!」

「うーん水着ノエルかぁ……いや前回逃したから嬉しいんだけど……でもなぁ、水着ノンナじゃないしなぁ……いや嬉しいけども」

「この野郎! 去年の大当たりだぞこの野郎!」


 だがこの時、金原のガチャ画面に異変が起きる。


「っ!? 来た、虹回転だ!」

「なっ金原が天井前に虹だと!?」

「頼む出てくれぇ!!」

「……がっ、だめ……! まさかのSSRキング!」

「このSSRキングは動物キャラで恒常……まぁ無かったから嬉しいんだけど」


 当たりなのに目当てじゃないので微妙な嬉しさを感じるあるある。


「……え、来たんだけど?」

「な、まさかの胸騒ぎ三回目だと!?」

「おっしゃ虹回転だ!」

「当然のように虹回転はふざけてんだろ! 運営に通報するぞ!」


 佐久間のガチャ運に巻田がキレる。だが現れたのはまさかの水着ノルド。このゲームの男性キャラにして主人公の別衣装キャラだった。


「よしこのガチャが終われば天井だ!」

「ここで金原がまさかのリーチ!」

「いや、佐久間がまた虹回転だ!」

「なにぃ!? まさかの同一ガチャSSR二体目だと!?」


 佐久間か、金原か。

 感か、それとも金か。

 金原が天井まで行き交換画面へと移動する。

 だがそれと同時に佐久間の画面にSSRが登場する。


 果たして勝負の行方は!?


「……SSR水着サラだー!」

「まさかのすり抜け四体目だったー!」


 なんと佐久間が引いたのは去年の水着ノエルと同じ水着サラだったのだ。因みにこのソシャゲのメインヒロインである。


「勝者は金原選手だ!」

「結果だけ見れば佐久間選手は三十連で計四体のSSRを引いた形になりましたが……まぁ勝負は勝負なので、うん」

「目の前でSSR四体とか……うん」

「ところで金原の反応がないけど……?」


 そう佐久間が呟いた瞬間、金原が吐血した。


「引いた……引いたけど、天井……ガクッ」

「金原ー!? おい大丈夫か傷は深いぞ!」

「あっ何かまた胸騒ぎしたから金原のスマホでガチャやっていい?」

「おいそれ本人に許可貰ってから……」




「あっSSR水着ノンナだ」

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