第25話また内緒の話



律side


次の日俺は学校が終わってすぐに来那の家に向かう

少し駆け足で来那の家まで向かうと


「あれ、」


遠くの方から細くて華奢な体をした女の子が歩いてくる

あれはまさか


「来那ー!」


俺は来那の名前を思い切り叫んだ


「………りつ?」


と、俺の名前を小さく呟く来那

俺の名前を呼んでくれた??

ということは


「俺のこと覚えてるのか?」


俺は慌てて聞いてみる


「ううん、覚えてない

けど、ケータイに動画と写真が残ってたから見たの」


来那はまた涙目になりながら俺を見つめる

そんな来那を抱きしめると

来那は俺の背中に手を回して


「…りっちゃんだ」


小さな声で呟いた


「……また思い出してくれたんだな

ありがとな、来那」


来那が俺の名前を呼んでくれるだけで俺は嬉しいんだ

来那が俺を覚えてくれるのを俺は信じてる

いや、来那が俺を忘れたとしても俺はまた来那を信じてそばに居るから


それから俺と来那は毎日会って

毎日来那を抱きしめる度に俺を思い出してくれていた

俺に抱きしめられた感覚は覚えてくれてるからだ

そんな生活が2ヶ月続く

そしてある時来那から電話がかかって

出てみると


『りつ!昨日って何してた?』


電話に出た瞬間来那は勢いよく聞いてくる


「昨日?来那と夜飯食いに行ったけど」


『ラーメン屋?』


「そうそう、」


『覚えてる』


「……え?」


『ラーメン食べたの覚えてる』


「………ってことは?」


来那が記憶出来たってことか………?


『やったよりっちゃん!』


来那がそういうと思わず涙が出そうになる

でもそれを必死にこらえて俺は


「よく頑張ったな、来那!」


めちゃくちゃ喜んだ


俺と来那は次の日も

その次の日も思い出を共有していた

昨日はあそこにいって、何をした

どこで何を食べて何を見たか

来那と思い出の話をするのがこんなに楽しいなんて

こんなに幸せなことなんて思わなかった

来那が頑張ってくれたから俺は幸せになれたんだ


そして俺と来那が付き合った公園に2人で行く

そしてふいに来那に聞かれる


「ねえりつ」


「ん?」


「私、記憶が1日しかない時にりつのこと知らない人だって思って色々迷惑かけたのに

なんでここまで良くしてくれるの?」


と、来那は真っ直ぐ俺を見て言う

あの日来那が言ってくれた言葉が俺を強くさせる


"絶対に忘れないよ"


来那はあの時の言葉通り


俺が抱きしめると来那は俺を思い出してくれる

それだけでよかったんだ

ただ一緒に居たいだけ

来那もそれを望んでくれていたよね?

だったら俺は理由とか、言葉はいらない

一緒にいるって約束したから


「内緒だよ」


俺は来那に内緒にした

迷惑なんて思ったことがない

いい人だと思われたくて良くしてるんじゃない

俺はただ来那が好きなだけなんだ


大好きな来那との思い出は

来那と一緒に大事にしていきたい

来那が覚えてなくても

また一緒に思い出を作ろう

辛い彼女を助けるのは当たり前だ

毎日辛いなら、毎日助けるよ

俺を探してくれてるならいつでもまた抱きしめるよ


例え記憶がなくなっても

俺と来那と歩んできた思い出が全て空っぽの話になっても

俺はずっと好きでいる

その言葉を忘れても、毎日でも言ってあげる

来那が大好きだ




そして月日は流れ5年が経った

そのある日のこと

俺は夢の中に居た


『ねえ、りつ』


夢の中で来那は俺の膝の上に座って居た


『んふふっ』


ニヤリと笑う来那はそのまま何も言わなかった


『なに?』


『もう、忘れません』


『はあ?』


何を言ってんだ?


『ねえりつ、だから起きて』


『……ん?』


俺は激しく揺らされる

お、この感覚は!?


「ねえ律、起きてよ」


来那が布団と俺にまたがり俺の体を激しく揺らす


「………ん?今何時?」


「7時半だよ、律今日も仕事でしょ?」


「んーーありがと」


俺は意識が朦朧とする中、来那を抱きしめる

あーずっとこのまま来那を抱いて居たいな


「もう!そうやってまた寝るでしょ?

早く体起こして!」


俺は来那に無理矢理体を引っ張られ


「あーー襲われるー

来那のすけべー変態ー」


「ねえ、怒るよ?」


「ごめんなさい」


来那は今でも少し怒ると怖い

でもその中にでも確かに優しさはある

俺は立ち上がって洗面所に行き顔を洗う

そしてリビングの方に行くと

来那が作った朝ご飯が置かれていた


「お、卵焼き〜」


俺は来那の作る料理が大好きだ


「ほら、京都の和食屋さん行った時に律が私の卵焼き食べたいって言ってたけど

結局作んなかったからね」


「よく覚えてたね」


「忘れるわけないでしょ?」


来那は俺にとびきりの笑顔を見せる

京都行ったのは半年前か?

京都で卵焼き食べたいって言ったの俺が覚えてないわ

さすが来那だよ


来那のご飯を食べ終わり

歯を磨いて家を出ようとする


「んじゃ行ってくるね」


「うん、」


来那は何故か悲しそうな顔をする


「律、何時に帰ってくる?」


弱々しい表情は今でも変わらない


「んーーなるべく早く帰ってくる

でも遅くならないから大丈夫だよ」


「……よかった」


「うん」


俺は来那にキスをして


「いってきます」


「いってらっしゃい」


今こんなに幸せな日々を過ごせるのは

いつでも来那が俺を信じていてくれていたからだ

人を1人愛するのにこんなにも絆が必要になるなんて

人を1人大事にするだけでこんなにもかけがえのない存在になるなんて

来那がいなかったら味わえない経験だった

来那の記憶にも感謝している

経った1日だけの記憶の大切さを教えてくれたのも来那だった

来那との辛い日々も

来那との楽しい日々も

今では2人で思い出を振り返ることが出来るから

俺はそれでいいと思う

そう思えるからこそもう絶対に離れない

絶対に忘れない存在が今ここにある


何年経ってもやっぱり毎日こう思う


来那のことが大好きです



End……

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また内緒の話 ゆる男 @yuruo

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