第24話変わらない話



来那side


名前も顔も知らない人が必死に私に呼び止めていた

私はりつに会いたいのにこの人は誰なの?

私の肩をガシッと掴んで


「俺だよ、律だよ、ここにいるじゃん」


って言っていた


「嫌だ!りつじゃない!」


私も必死に振り払う


「来那!!!」


私の名前を思い切り叫んで

必死になってた人は私を抱きしめた

その瞬間私の体は暖かくなって

懐かしい匂いと優しさに包まれる感覚


「り…つ?」


りつだ

りつがいる


「俺は…ずっとここにいるよ?」


りつの落ち着く声を聞くと

私は自然と彼の背中に腕を回した


りつがいる

私はそれだけでなぜか前向きになれていた

私は記憶が無くなってしまったけど

りつのことが好きだってことは忘れていない

ここまで来ると私の執念のような気がする

こうやって私の事を何度でも救ってくれる

こんなかけがえのない人に出会えた私は本当に幸せものだと思う


今はりつとの思い出はなかなか思い出せないけど

りつの温もりをまた思い出してこうして抱きしめ合っていたい

りつだけは覚えてる

りつだけは忘れられない

りつだけは忘れたくない

もう記憶の中はりつしか居ない

ありがとうりつ

りつだから私の記憶に残ってくれてるんだよ

本当にありがとう



今は病院の病室で寝ていた

起きると周りに人はいない

……あれ?りつは?


「りつー?」


呼んでも返事がない

私はポケットに入ってたケータイを見た

するとメッセージが残ってる

りつからだ

見てみると


『今日はゆっくり寝てほしい、

また明日来那のところに行くね』


りつからのメッセージ

私は嬉しくても何て言えばいいかわからないから


『ありがと』


だけ送る

こんな文章でもちゃんと感謝してるよ

でも…やっぱりりつとの思い出を見てみたい

何かあるはず

私はケータイの写真フォルダを見る


りつとの写真がいっぱいあった

どこに行った時の写真なのか

ここで何をしたのか

事細かにフォルダのメモに記されていた

りつとの1年以上の思い出はこのケータイにある

私はりつだけを覚えてるならこのケータイをまた見返せばりつとの思い出は見れるんだ

よかった、全部無くなるわけじゃない

ほんの小さな希望を持ちながらも私は1つの動画を見つける


なんだろ?この動画

人が写ってる?

その動画を人差し指で押すと


『ねえりっちゃん

なんで海に連れてってくれたの?』


動画が再生される

私の声だ

海にいるの?


『あーそうそう』


りつの声?

何してんだろ?

いつの動画なのかも覚えてないけど

りつは木の棒で自分の名前を書き始める

そんなとこに書いたら…


【律】って書かれた文字は波で消されていく


『消えた』


りつは何度も名前を書いては消されていくのを見ていた

何がしたいんだろ?


『ねえ何がしたいの?』


私は今思った事を昔の自分もそっくりそのまま言っていた

それになんだか笑っちゃう

するとりつはこう言った


『海って来那みたいだよね』


『なんで?』


『思い出も全部波で消しちゃう

俺の名前も消しちゃうんだけど

俺は何回も来那の思い出に名前を書き続けるよ

何回消されても何回でも書く

さっきの銀髪は』


【銀髪】


『消えていい人間だ

俺の名前は消えてもまた俺が書くから消えない』


思い出も波で消しちゃう…か

りつの言葉はなんか面白いけど説得力はある気がする

今の言葉を聞いてりつはその通りにやっていた

私が記憶を無くしても私の思い出にりつは居てくれてる

何回消されても、何回でも

そんな動画を見ていたら


「何を臭いこと言ってんだか…」


クスクスと笑う声が聞こえる


「え?誰かいるの?」


私は慌てて動画を閉じた


「ばか、俺だよ」


私の隣のベッドで何故かお兄ちゃんが寝ていた


「何してんの?」


と、私は呆れた顔で聞いてみた


「俺も久しぶりの休みだし眠てーんだ」


お兄ちゃんは大きなあくびをする

そこから数秒間が空くと

お兄ちゃんはこう言った


「来那の記憶、戻るってさ」


「………え?」


私は突然言われたことに何も反応出来ないで間抜けな返事をした


「え、じゃねーの

律くんが何とかしてくれるってさ」


「りつが…?」


なんとかって言っても治療とか出来ないよね?

でもお兄ちゃんは体を起こして立ち上がりこういう


「さっき麻生先生に聞いたぞ

来那がいつまでも律くんを覚えていることが1番の治療なんだよ」


なにそれそれだけでいいなら絶対簡単じゃん

私はりつを信じてる

信じるだけでいいんだよね?

それだけでいいなら私は


「じゃあ、りつを信じる」


りつを信じるなんて簡単な事だよ

そう思いながらも私はベットから起き上がる


「おう、じゃあ帰るか?

来那が起きたら勝手に帰っていいって麻生先生が言ってたし」


「うん!」


私の記憶は1日しか覚えられなくなってしまった

でもりつとなら大丈夫

りつがいるだけで私は強く生きていける

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る