第23話繋がる話


律side


今日は休日だ

昨日のこともあってか体が重い

そんな朝を迎えて早々だった


ブーーブーーブーー


ケータイが鳴る

画面には『来那』と書かれていて慌てて俺は電話に出た


「もしもし?」


『も、もしもし!?律くん?』


来那ではない人が出た

この声は


「海さんですか?」


『おう!お、お、落ち着いてよく聞いてくれ!』


落ち着いてないのは海さんの方だと思うけど


「はい?」


『来那が倒れた』


「………え?」


またか?


『だ、だから急いで病院に来てくれ!

俺も一緒にいるから!』


「わ、わかりました!」


俺は急いで着替えて向かう

俺は走って駅まで向かい

病院へと急いだ

病院に着くと来那が寝ている病室へ案内された

ドクドクと心臓を激しくさせながらも

病室のドアを開ける


すると海さんが椅子に座って雑誌を読んでいた


「おう、来たか」


さっきとは違って落ち着いてる海さん

その横でベットで寝ているのは来那だった


「来那は無事なんですか?」


「ああ、軽い脳震盪だってさ」


そ、そうなのか


「来那が部屋に居ないからどこ行ったのかと思って玄関開けたら目の前で来那が倒れてて焦ったよ」


海さんは雑誌をパラパラとめくりながら俺に言う


「そうなんですね」


俺も一旦落ち着いて椅子に座る


すると来那がパッと目を開けて


「りつ?」


と言って体を起こした


「来那、起きたか!心配したぞ?」


俺は安心させるために笑顔を見せたが


「………誰?」


来那が俺の目を見て言う

一瞬心臓が止まりそうになる


「…ら、来那?また忘れたのか?」


「……りつ…」


「そうだよ、律だよ」


「りつに会いたい」


「…………え?」


「りつに会わせて」


「来那!?俺だよ、律だよ、ここにいるじゃん」


「いやだ!りつじゃない」


「何言ってんだよ…!」


「りつに会いたい…助けてりつ!」


「来那…!」


「りつぅー!りつぅー!」



「来那!!!」



俺は大声で来那を呼ぶと来那は固まる

そして耐えきれず俺は来那を抱きしめた


「俺は…ずっとここにいるよ?」


「り…つ?」


すると来那はゆっくりと腕が動いて

俺の背中に手を回した


「……りつだ」


来那は泣きながら小さな声で言ってくれる

その間に海さんは「やれやれ」と言って病室を出た


「俺の顔、忘れちゃったのか?」


「………うん」


来那は3日ではなく、1日で記憶が無くなって居た

そんな残酷な現実の中で俺の名前を呼んでくれたのが俺の小さな幸せだった


「俺だってわかってくれた?」


「……うん、絶対りつだよ」


来那がそう言ってくれるから俺はふと1年前に来那が言っていた言葉を思い出す


『りつに抱きしめられてる感覚は覚えてる気がする』


……そうか、抱きしめると俺を思い出してくれるんだ


「りつ、あったかいね」


来那がギュッと抱きしめる

こんなに純粋で柔らかい空気を出せるのは来那だけだろうな


「体は大丈夫なのか?」


「……うん」


と言って来那はベットに潜り込むように入る


「寝てないとお兄ちゃんに怒られそうだから」


あぁ、確かにな

海さんもなんだかんだで来那のこと大事にしてくれてるもんな


「んじゃ寝てな」


また俺は安心する

いつも来那が俺を安心させてくれる

でも、ここから来那は明日も俺を忘れてしまうんだろう

でもまた今日みたいに来那を抱きしめれば思い出してくれるのかな?


10分くらいが経った時

ガラガラと病室のドアが開く


「…はは、昨日ぶりだね」


麻生先生が居た

昨日といえば診察ばっくれた時か


「麻生先生昨日はすいませんでした!」


「ううん、来那ちゃんに1番有効的なのは心の治療をしてくれる人だからね

僕らじゃ出来ないことだから大丈夫」


「そうなんですか?」


「うん、でも今日から来那ちゃんは

記憶出来なくなっちゃったみたいだね」


「……そうなんですよ」


「でも、不思議に思わない?」


麻生先生はニヤリと俺を見る


「な、何がですか?」


「わずかだけど来那ちゃんの記憶障害が治る方法がある」


……治る方法?


「記憶出来なくても

なぜか君だけ、特別扱いじゃない?」


確かに記憶が無くなってるはずなのに

顔も忘れたのに俺の名前を呼んで

俺に会いたがってた


「僕も来那ちゃんの変化には戸惑った

けど、やっと確信を持てたことがある

それはたった一つの記憶だけは覚えている

それが律君、君だよ」


「………」


俺は思わずゴクンと唾を飲む


「愛の力で愛の治療をするんだ」


「………は、はあ」


俺は間抜けな顔をして麻生先生を見る


「ほんとだよ?

来那ちゃんを救えるのは君だけだよ」


と、麻生先生は言う





「来那ちゃんは心に深い傷を負ってる

だからその傷を拭えるのは君しかいない

それが出来た時、来那ちゃんはごく普通の生活が出来ると思う

1ヶ月記憶するんじゃなくて

10年前を記憶出来るくらいにね?」


麻生先生は微笑みながらも真っ直ぐ俺に伝えてくれる


「手術でどうにかなる問題ではない

障害ってのはそういうものだからね」


そうなのか

それを聞いて俺はさらに来那が愛おしくなる


「じゃあもう、いつでも帰って大丈夫だからね?」


「……はい」


来那に普通の生活をあげたい

もう俺には来那しかいないから

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