第22話覚えてない話
来那side
私はりつの悲しそうな表情を閉ざすようにドアを閉めた
玄関で靴を脱いで自分の部屋に入る
大きく壁に貼ってある
『私の大好きな人はよしみりつ』
というメモをしばらく見つめていた
絶対に忘れるわけないと思ってた
でもこんなに好きなのにあと3日で記憶が無くなっちゃう
なんでこんなことになっちゃったんだろう
昨日の記憶がほとんどない
でも微かだけど私の記憶にりつが残ってる
それだけが私の救いだった
日記を書いてたはずだけど
どこにしまってたか覚えてない
だからもういよいよ私は記憶を記録出来なくなってしまった
もう、どうにもならないよね
ただ記憶が無くなるのを待つだけ
しばらくすると
乱暴にドアが開く音がする
ものすごくうるさい足音を立てて私の部屋をノックする
「来那?帰ったぞ」
いつもより少し早めにお兄ちゃんが帰ってきた
「……うん」
「話ってなんだ?」
「………」
私は今日あったことを全部話した
昨日の記憶がないのと
思い出そうとすると目眩がする
そして
「3日で記憶が無くなるみたい」
「………はあ?」
お兄ちゃんは眉間にしわを寄せていた
「じゃあもう何も記憶できないってことか?」
「多分そうだと思う」
「………」
お兄ちゃんは黙ってしまう
しばらく沈黙が続く
「原因不明の記憶障害だからな
治す手段がないってことは俺にもわかる」
お兄ちゃんは沈黙を破った
「……うん」
私は一言返事をするだけ
「……わかった、でも昔の記憶は?」
昔の記憶……
お母さんに虐待を受けてたこと、
ちゃんとそれは覚えてる
「覚えてるよ」
「なんだ、じゃあ俺を忘れることはないんだな?
それなら生活はあんま変わんないだろ
それがわかればそれでいい」
「お兄ちゃんはそれでいいかもしれないけど
私、りつの事も忘れちゃうんだよ?」
「ばかやろー、男はな
一度決めた覚悟は曲げねーんだ
今日律くんと色々話したんだろ?
その言葉を信じるのもそうだし
律くんを信じれば、来那を絶対幸せにしてくれるはずだよ」
「………お兄ちゃん…」
すごく嬉しい言葉だった
お兄ちゃんがそう言ってくれただけで私は少し安心できた
「よし、飯食って今日は早く寝ろ
んで、明日俺が休みだから1日面倒見てやるよ」
お兄ちゃんは私の頭をくしゃくしゃと撫でる
「ありがと」
そう言って私はお兄ちゃんのご飯を食べてすぐに眠りについた
そして次の日の朝
起きると私は頭が真っ白だった
私の記憶はあの日お母さんに包丁を突きつけられたところしか残っていない
ここは、どこ?
体をゆっくりと起こすと
知らない部屋に居た
紙がいっぱい貼られていてすごく怖い
すると大きな紙が貼られているのが見えた
そこには
『私の大好きな人はよしみりつ』
と書かれている
……りつ
真っ白な頭の中にりつがぼんやりといる
りつに会いたい
私は部屋を出る
りつ……
どうしよう、りつの顔がわかんない
でも、りつに会いたい!
玄関らしきドアを開けて靴を勝手に履いて外に出た
もちろんどこの家かわからない
でも玄関のドアには『川本』と書かれていた
私の……家?覚えてない
でも、自分で自覚してることは
記憶障害ってこと
きっと、何も覚えてないんだ
昨日は…何してたっけ?
思い出そうとすると
視界が真っ暗になる
くらくらする
私はその場で倒れてしまう
その拍子に首に痛みが起きた
ブチっと何かが切れる音が聞こえる
なにこれ?ネックレス?
すごく綺麗なネックレスだけど
なんて書いてあるんだろ?
ゆーあーいんまいめもりえす?
よくわかんない
思い出そうとしてもまた視界が暗くなって
もう私、ダメかもしれない
そう思うとまたどこかで影が見えてくる
私の記憶でぼんやりといるあなたに会いたい
こんな時に私は会いたくなる人が居る
ねえ会いたいよりつ
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