第21話諦めない話
病院に戻ると言ってもお金を払うだけ
麻生先生には申し訳ないけど途中で診察を終わらせてしまった事を許してほしい
お金を払って病院を出る
来那を家まで送ろう
ひとまず落ち着かせなきゃだ
電車で来那の家の最寄りまで行く
俺と来那は会話を交わさずに歩く
今は俺を認識してくれてるけど
もう3日で記憶が無くなる
俺だってこんな事実受け止められないけど
弱気な来那の背中を押すのは俺じゃなきゃダメだ
「来那、さっきの公園に行こうか?」
「うん」
俺はまた来那に告白をした公園に行った
懐かしい風景だな
あの時も夜だったしまだ若干寒かった
でもあの時は心が穏やかだったはず
今ではこんなにも不安で二人、息苦しい中ベンチに座る
「来那、寒くないか?」
「寒い」
即答だった
まあそりゃそうだよな
俺も寒いくらいだ
さすがに上着は貸せないけど
寒がりな来那のためにいつもブランケットを持ち歩いてる
ブランケットを出して来那の膝に掛けた
「ありがと」
「おう」
カイロといいブランケットといい
色々持ってるのも全部来那のためだ
「来那、ここの公園でこのベンチで
来那と付き合ったんだよ」
「……そうなの?」
「おう、一年半前にね」
「…りつとそんなに長いんだ」
「いいや?まだ俺と来那は終わらない
あと100年半くらい一緒だぞ」
「なにそれ笑」
俺は無理矢理明るく接すると来那は少し笑ってくれる
「なんて言って付き合ったの?」
まだ寒いのか来那は体を縮こませながらも聞いてくれる
またこの場所で同じ事を言うのは若干恥ずかしい気もするけど俺は答える
「俺の人生、来那に全部あげる」
俺がそう言うと来那は
「りつらしい」
と、優しく微笑んでいた
来那が笑うとなんでこんなに嬉しいんだろうと改めて思う
「来那はどこまで俺のこと覚えてるの?」
りつらしいということはまだ前の事も覚えてるのかもしれない
そんな希望を抱いていると
「なんとなく覚えてる」
と来那は答えた
「なんとなく?」
「うん、りつの顔を見ただけで
りつがどういう人かわかるよ
優しくて、暖かくて、私を守ってくれる人」
来那は俺の服の袖をギュッと握る
「でも…りつの顔も
いずれ忘れちゃうんだよね…」
来那のその言葉に俺は思わず強引に来那を抱きしめた
来那が…俺を忘れる
そんなの絶対に嫌だけど
変わらない現実に俺は来那の温もりを求めた
「……それでも、来那のことは1人にしないからな」
気づいたら俺は涙を流していた
一度流れた涙は滝のように溢れ出て止まらない
来那が愛おしい来那とこのまま抱きしめ合いたい
なんで…なんでこの子だけ………
来那は鼻をすする音を出す
来那も泣いてるのかな
すると
「りつぅ……」
小さな声で俺の名前を呼んだ
「ん?」
「私が覚えてる恋はりつが初めてだよ
これから1日で記憶が無くなったら
ずっとりつに初恋するのかな?」
「そんな悲しいこと、言わないでくれ」
来那は強い子なんかじゃない
わかっていてもどうしても
来那に頼ってしまう
俺は来那の体を離しキスをしようとした
「……っ!」
来那は避ける
俺は何も考えずただ来那とキスをしたかっただけだけど
「ごめんりつ、
キスしたの覚えてないから」
と来那は声を震わせて言った
「……目、閉じて」
「……うん」
俺は優しく来那にキスをした
ゆっくりと、何度も唇を重ねる
「りつってやっぱあったかいんだね」
来那はおでこをくっつけ言う
「まあ、来那が寒がりだからな」
「嬉しい…」
そう言って来那はまた俺に抱きつく
すると
ブーーブーーブーー
と来那のケータイが鳴った
来那はケータイを出す
「お兄ちゃんからだ」
そう言って来那は電話に出た
「もしもし?……うん
多分りつが電話掛けた
……後で話すね…ばいばい」
来那は電話を切り
「りつ、ありがと」
来那は立ち上がり俺に言う
海さんにも事情説明しないとダメだし
来那を家まで送ろう
「じゃあ、行こうか」
来那の家まで送る
やっぱ俺には来那が必要だ
来那に俺の人生あげるって言ったけど
本当にその通りかもしれない
来那がいないと俺は生きていけないのかもしれない
来那の家の前まで来る
ドアの前で来那はもう一度俺の方に体を向けた
「また明日連絡するね」
「……うん」
来那の引きつった笑顔が逆に辛かった
「じゃあね」
「おう、また明日」
来那がゆっくりとドアを閉めると同時に
俺の胸にぽっかり穴が空いたような虚しさが足取りを重くさせた
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