【KAC20223】第六感の力を持つ魔眼の少女は未来を見通す

宮野アキ

少女は女性になり幸せになった

 とある国にエルデルと呼ばれている街があった。


 その街には、冒険者ギルドと呼ばれている組織の支店があり、冒険者ギルドは街の住人が依頼を出せば何でも、代わりに仕事を担ってくれた。


 家の掃除や街のゴミ拾いなどの清掃雑務から、他の街に行く時の護衛や危険生物の魔獣討伐などの荒っぽい仕事まで何でも受け付け、その仕事を冒険者ギルドに所属登録しているクラン、又はチームに依頼を出す。


 そんな冒険者ギルドの奥の席で一人の冒険者風の恰好をし、二本の長物の刀と短刀を腰のベルトに差している黒髪、細目の男性、レルン。


 この冒険者ギルドの受付嬢で、額に親指程の大きさの緑色の宝石が眉間に存在する宝石人種クリスタルウィルのクララが腰に手を当てていた。



「レルンさん!どうして先週の劇場の警備の仕事を蹴ったんですか!?仕事もせずに何処に一週間も何をしてたんですか!!」


「さっきから言ってるじゃないか。シトリーちゃんの公演の為に精神修行をしてたって」

「だ・か・ら!その精神修行ってなんですか!!大体――」


 クララがレルンに対して説教を続けているとそこに一人の女性がやって来た。


その女性は長い黒髪と海の様に深い青色の瞳、そして彼女の額にはもう一つ目が存在していた。


 彼女の種族は魔眼族ランミュゲという種族で、額に第三の目を持つ種族。


 その第三の目の瞳にはそれぞれ特別な力を持っていると言われている。


 そして実は、レルンも魔眼族ランミュゲ族で額に第三の目を持つのだが、今は閉じている。


 そんなレルンはこの場から逃げる為に女性に向かって手を振る。


「なんだシオン。クランの留守番をやめてこんな所に来てどうしたんだ?」


 シオンと呼ばれた魔眼族ランミュゲの女性は少し小首を傾げながら近寄ってレルンを席から立たせる様に腕を引っ張る。


「おいおいどうしたんだよシオン。なんか急ぎの依頼でも来たのか?」


「うんうん。これから来る」


「……なるほど。シオンの第六感の力か」


 魔眼族ランミュゲの第三の目には特別な力がある。


 例えばレルンは第三の目を開くと魔力を可視化する事が出来る様になる。


 この力を使えば敵の魔法がどんな魔法なのか、どんな挙動で攻撃を仕掛けて来るのかが分かる。


 それに対してシオンの力は第六感。


 パッと聞くだけではどんな能力なのかが分からないが、そうとしか言えない力だった。


 シオンの目の力は未来視から感や予感と言った根拠のない物を幻視したり、感じ取る事が出来る。


 そして、その力を使った占いはほぼ当たり。その界隈では有名だったりする。


 だからシオンがこれから依頼が来ると言うなら必ずと言っていいほど来る。


「了解。それで今回の依頼は誰からの依頼?」


「グスタフ商会のルドルフさんから」


「うちのクランのスポンサーからか……クララさんそいう訳だから仕事に行って来るね」


「……まったく。せめてギルドにクランでの個人依頼を受注した事を報告してくださいね」


「わかってる、わかってる」


 レルンがそう適当に返事しながら手を振りながらシオン一緒に冒険者ギルドを後にした。



◇  ◆  ◇



「今日も今日で慌ただしいね。この商会は……」


「それは、そう……事件が起きる時にしかここに来ないから」


 レルンとシオンはグスタフ商会の前に居た。


 だが、そのグスタフ商会には積み荷を乗せているであろうボロボロの馬車を数人の男達が囲って何か言い合いをしていた。


 そんな集団に臆する事もなくレルンは話し掛けた。


「ここはいつも騒がしいね。何があったのルドルフさん」


「お前らには関係――……なんだレルンじゃねぇか。それにシオンちゃんも」


 レルンが話しかけた途端に怒鳴り付けようとした筋肉質の男性、ルドルフがレルンの顔を見るとため息を付く。


「お前らはいつもうちに何かがあると呼んでもねぇのに来るな」


「それがうちらの仕事だからね」


「まぁいい。話しは店の中でしよう。……お前ら!積み荷を店の中に運べよ!!……来い」


 ルドルフは馬車を囲んでいた他の男達に向かって一言声を掛けると店の中に入って行った。


 それにレルンとシオンは付いて行く。


……………


………


……



「――と言う事なんだ」


「なるほどな……かなり大変な目に会ったんだな」


 グスタフ商会の応接室。


 そこには商会の主であるルドルフがソファーに座り、その正面には机を挟んでレルンとシオンは今回の依頼と経緯を聞いていた。


 要約するとルドルフ達が他の街から買い付けに行った帰り、森を迂回する道を進んでいる時に魔獣に襲われてしまった。


 そして、何とか撃退しつつ街に帰って来る事が出来たが大事な商品の一つが紛失してしまったらしい。


 恐らく魔獣に襲われた時に馬車から落ちたと思われるが、それが何処に落ちたのか分からないと言う事。


 しかも、その落とした商品は手のひらサイズの宝石箱で貴族から依頼で運ぶ事になった物らしい。


 もしこの依頼が失敗すれば首が物理的に飛ぶことになる。とルドルフは語る。


「……お前らに依頼だ。宝石箱を探してくれ、報酬は言い値で構わない」


「了解だよ、ルドルフさん。……シオン――」


「分かってる……ちょっと待って」


 レルンがシオンに声を掛けるとシオンは、既に机の上にこの街エルデルとルドルフさんが買い付けに行った街までの道が書かれている地図を広げていた。


 そして、シオンは腰に付けているポーチから5個の魔石を取り出して地図に向かって一つずつ投げる。


 すると魔石は不自然な挙動で跳ねながら地図の上を転がっていく。


 そして五つの魔石の内三つの魔石が道の近くの森の中の一か所に留まり、他の二つはエルデルの街の中と森の奥に留まった。


「……この森の中に高確率である……そして、街に行った魔石は持ち主であるルドルフさんの事……そして森の奥に行った石は宝石箱を狙っている奴……」


「宝石箱を狙ってる奴が居るのか!?それは誰だ!!」


「それは分からない……でも、人じゃない」


「そっか……じゃあルドルフさん行って来るよ。シオンも行こう」


「ううん、私は行かない」


「……え?どうして?」


「分からない。私の第六感がまだここに仕事があるって言ってる。そうだよね、ルドルフさん」


 シオンがそう言うとルドルフの方を見るとルドルフは呆れた顔でため息を付く。


「……さすがだな。実はシオンにこれから投資する品の意見を聞こうと思っていたんだよ」


「いや、それなら終わるまで――」


「それはダメ。遅くなると森の奥の存在が持って行っちゃう」


「……マジか。じゃあ、一人で行って来るか」


「すまねぇが、よろしく頼む」


「任せて……それじゃあ行って来るよ」


 そう言うとレルンは席を立ち上がり、宝石箱を取りに行くために森に向かった。



◇  ◆  ◇



「……はぁ、シオン。これは聞いてなかったぞ」


 森の中。


 樹木が無数になぎ倒されて少し開けた場所で右手に長物の刀と左手に短刀を持ち、第三の目を開いていたレルンが呟く。


「こんなに魔獣が出て来るなら先に言ってくれよ。シオンの事だから絶対に分かっていながら黙っていたな」


 レルンの視界の先には数十頭の狼型の魔獣と3mはあろう巨体の熊型の魔獣がいた。


 だが、その魔獣達はすでに動く気配は無く、息も絶えていた。


 レルンはまた一度ため息を吐いて二本の刀を納刀すると右側の腰に付けているポーチから手のひらサイズの宝石箱を取り出す。


「……特に傷はないな。よし、依頼は完了…………この魔獣の死体はどうするかな。放置するのは勿体ないしな……」


 そう言いながら魔獣の死体を眺めていると後ろから近付いて来る魔力を感じた。


 慌てて振り返るとそこには笑顔で手を振っているシオンの姿があった。


 そんなシオンの姿を見たレルンは第三の目を閉じてシオンに近付く。


「お疲れさまレルン。グスタフ商会から魔獣を運ぶ為の幌がない馬車を借りたから、一緒に運びましょ」


 シオンのその言葉にレルンはため息をついてシオンの頭を撫でる。


 そして、頭を撫でられているシオンは何処か幸せそうだった。


「全て想定通りって事か……なぁ、シオン。今、幸せか?」


 レルンにそう言葉を掛けられたシオンは驚くが、すぐに満面の笑みを向ける。


「何言ってるのレルン。冒険者を始める時にも言ったじゃん。二人で冒険者になれば幸せになれるって」


「……それも第六感か?」


「うんん、違うよ」


 そう言って、シオンはレルンに抱きついて甘える様な声で言う。


「第六感なんて使わなくても分かるよ!!だって、私はレルンの傍に居るだけでも幸せだもん」


「……そっか」


 抱き着いていたシオンをレルンは抱き返す。


 シオンから伝わって来る温もりを噛み締めるかのように。




……………


…………


……



 昔々ある所に第三の目持つ種族。


 魔眼族ランミュゲが居ました。


 そして、その種族の中にはとびっきり優秀な女の子が居ました。


 なんと、その子は未来を見通す事が出来るのです。


 周りの人は歓喜しました。


 これでまた一つ、魔眼族ランミュゲの悲願が達成されると


 そして、女の子は周りの期待に答える為に第三の目の力を使って、未来を見通し人々の願いを叶えて行きました。


 女の子は周りの人たちが喜ぶ姿に満足感を感じていました。


 そして、ある時。


 皆が幸せになるこの力で皆が幸せになるなら、自分はどんな幸せが訪れるのかと思い、自分の未来を見ました。


 きっとそこには幸せな自分が写っていると期待して……でも、その期待は裏切られました。


 そこには死んでいるかの様に横たわる自分の姿。


 そして、その少女に知らない男達が笑顔で触ったり、舐めたり、はたまた何かを握らせていました。


 何が行われているのか少女は分かりませんですた。


 ですけど、少女は少なくとも自分に幸せは来ない事を察してしまい。


 心が壊れてしまいました。


 だけど、そんな少女にも希望の光があったのです。


 少女はある男の子と出会いました。


 その途端、自分自身に降りかかる不幸がなくなったのです。


 女の子は喜びました。


 自分も幸せになっていいのだと……


 そして、女の子はその男の子と一緒に幸せな人生を目指しました。



 めでたし、めでたし

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