第3話 「三蜜スライム」

「実験ネズミ、お前に決めた!」

「人をネズミ呼ばわりするな!」

「じゃあ、人柱一号!」

「余計にひどい、そしてお前が二号だ!」

「いやでも、一番は君って事で。だってスキルがあるし。」

「クソッ」


 俺のスキルが火を吹いた。吹いてしまった。

 部隊で、俺だけ、腹を下さなかった。

 ユニークスキル『悪食』。

 幼少の頃から、鍛えに鍛えたこの技よ。

 ……みんな貧乏が悪いんや。


 いやでもこれ、完璧じゃないからね? 死ぬ時は死ぬからね?

「それでも、お前が一番助かる率が高い。」

「そりゃそうだけど。」

 だけどもやっぱり死にたくない。

 死ぬ確率を少しでも減らす為、考える。


「”熟してない”とか、あるんじゃないか?」

「じゃあこの柔らかいのとかいってみるか。

 ……うげー!!! げろーーーー!!」


 それは”熟してる”んじゃない。”腐ってる”んだ。

 匂いで気づけ。

 いやそれも無体な話か。なんせ相手は未知の食材。

 本当に食材なのかすら判っていない食材なのだから。

 匂いが云々では決め手にならない。


「土色じゃなくて、草色になってるコイツとかどうだ? 俺らだって、実じゃなくて葉を食べる植物あるじゃん。そっちに近いって事で大丈夫なんじゃないか?」

「なるほど。」

「だから、皮だけど、この緑色の濃い部分。一番葉っぱに近そうな、こういう所を集めて食べてみるってのは」

 激烈に吐いた。

 その後すごい幻覚を見た。突然変な恋人ができてにゃんにゃんするのだが、それがちょう気持ち悪いという何重にも最悪な体験だった。

 緑は駄目。学習した。決め手とかどうでもいい。とにかくダメ。


「毒抜きっていったら、普通、水に晒す、か?」

 皮を剥いて白くなった実を、更に細かく切って、ボウルにはった水につけてみる。

 ゆする。混ぜる。

 水が濁った。これか! これをもっと出せばいいのか?

 まぜまぜ。もっとまぜまぜ。

 更に念を入れ、放置とする。

「普通、どんぐらい置くんだ?」

「そりゃあ、モノに拠るだろう。」

「ひ、ひ、一晩、ぐらい?」

「じゃあそれで。」


 一晩経つと、濁りが消えていた。何故だ!

「あ、消えたんじゃない、底に溜まったんだ。」

 白くてどろっとしたものが。

「これが、毒、か?」

 毒か否か。どうやって確認するのか。

 ちなみに、この実は軍医が既に調査していて「問題ない、はず」との答えが出ている。”はず”ってなんだ”はず”って。

 だから、そっちの方面に依頼しても、毒かどうかの判定は、できない。

 となると。

「出番だ、実験ネズミ!」

「クソッ! クソッ! クソッ!」

 俺はそのどろりを口にした。


 結論、俺は大丈夫だった。俺は。

 俺の後、暫く様子見をして、俺と同じどろりを口にする者と、水晒しした後の実を食べる者に分かれて試した。

 どろり側はトイレとお友達になった。全員。

 水晒し側もトイレとお友達になった。でも、全員じゃなかった。

 何人かは無事だったのだ。

「よぉうこそ、こちら側へ、二号、三号。」

「「ちっくしょーめー!」」

 仲間が増えた。

 思うに、こいつら、もう少しで『悪食』スキルが生えるぞ、多分。


 その後も色々面子を変えながら試した結果。

 どろりと水晒しなら、水晒しの方がマシ。

 もっともっと水晒しを徹底したら大丈夫そう、というのが一つの結論となった。

 どろりの部分は、沈殿と上澄みに分けられる。

 上澄みは、つまり、水は、誰が食べても(飲んでも)大丈夫だった。毒は溶けてない。これも一つの結論。

 つまり、沈殿。これが毒なのだ。


 で。

 それの濃縮を食わされそうな、俺が居る。

 部隊で一人だけ、ズボンを汚していないのが許せない、のだそうだ。

「代わりに幻覚見たじゃん! 俺だけ!」

「あれな。あれは面白かった」

「面白がるな!」

「それはそれ、これはこれだ!

 面白がるとかいうなら、お前、俺達がズボン汚すの見て笑ってたろう! 許せるか!」

「そうだそうだ! お前も腹を下せ! 仲間だろうが!」

 ひどい仲間もあったもんだ。そんなのなら仲間外れでいいのに。

「スペシャルを作ってやる! 水分をトばして、より濃くするぞ、これならさすがにお前にも効くだろう!」

 どろりを入れた鍋が火にかけられる。水分が蒸発していく。

「あれ? 混ぜてたら、なんか……」

「蒸発じゃなくない?」

 どろりが、どろりになった。

 白くてもったりしてたのが。

 ねばねばした透明のものに。

「え、なにこれ」

「スライム……」

「粘体? 寄生虫? えまさか」


 なんか、すっげえ、やばい予感がする。

「やめろ! やああめええええろおおおおおぉうぉうぅう!!!」

 大声を上げた。暴れた。

 だが、逃げられなかった。

 雁字搦めに体を抑えられ、

 俺はそのねばねばを、食わされた。



 結論。

 俺は大丈夫だった。

 そして、俺以外も。


 予感はあたらない。学習した。


 どろりは、混ぜながら火にかけると、別のどろりになり、食える。

 結論が増えた。


 ただこの食べられるどろり、味は無い。

 で、ちょっと味付けを考えた。

 部隊内だけでの、他に教えないレシピ。

 火にかける時に、一緒に三つの”蜜”を加えるのだ。

 一つは、蜂蜜。採ってきた。刺されて痛かった。

 一つは、樹蜜。盗ってきた。大変だった。

 貴重な甘味だが、癖のないどろりと合わすとイケるし、嵩増しになる。しかもある意味”薄めて”いる訳だが、どっこい何故か、この方がとろりもっちりと美味しくなっている、気がする。

 火と鍋をみんなで囲んで隠すようにしながら、匙を回す。というか沢山の匙で取り合いしながら楽しむ。

 正に、俺良し、お前良し、世間(はこのレシピを知らない=誰からも文句は出ないので)良し、の三方良し、だ。


 え? 蜜が一つ足りない?

 それは”秘密”。

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ポテトDE戦争 一歩 @ippo

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