第2話 「裸のサラダ」

「隊長! 全員揃いました!」

「よし! 上からの命令を伝える!」


 兵隊に向かない奴が居る。

 それでも、今の情勢、とにかく頭数が要る。

 なんとか使い物になる奴を使いまわして、まわして、融通して。

 最後に、どうしても使い物にならない残りモノが吹き溜まる部隊ができる。

 ユニークスキル『統率』があるおかげで押し付けられた、俺の部隊だ。


「そんなお前達への仕事が、これだ!」

「なんすか、それ。」

「どうしたらいんすか、それ。」

「食え!」

「食うの?」

「これ、食い物なの?」


 みんな、腹は減らしてる。

 兵隊だけど、戦う為に優先して物資を回されるはずの兵隊だけど、尚ひもじいのがこの国の現状だ。

 でも。


「匂い。判らん。」

「手触り。固い。」

「形。ごつごつ。」

「なんか変なイボがあちこちついてるぞ。」

「色。泥。」


 えー。


「命令だ!」


 命令なら仕方がない。


「よし! 総員、味の感想を言え!

 あと、これから何日か隔離だ! 体調に異変を感じたら速やかに申告しろ!」

「「「ええー!」」」


「うるさい! 命令だ! 味の申告!」

「土っぽいです。」

「土っぽい」

「土」

「泥」

「判ったもういい」

「あ、あのー」

「なんだ」

「あ、あ、洗ったら?」


 洗う。

 そういうのもあるのか。


「土の味がするのは、土がついているからか!」

「なんで食い物にわざわざ土をつけるんだ? これかなり念入りについてるぞ?」

「判らん」

「判らんものは仕方がない、とりあえず川行って洗おう。」


「洗ったけど、なんか、あんまり変わらないぞ? 色とか。」

「いやでも齧ってみろよ、土味は消えたぞ。あーなんか歯の間に残る。

 ああー、これ、皮か! 土色の皮!」

「こんな薄くて脆いのが、皮? そんな外皮あるのか?」

「あるんだから仕方ないだろう。ん、渋いし、舌触り違うし。皮っぽい。皮っぽいぞ。」

「あ、あのー」

「なんだ」

「あの、それ、むいたら」

「むい? むいってなんだ」

「違う、皮なんだったら皮は剥けって事だろう。」

「ああ! ここは食い物じゃないんだ!」


 皮を剥く。

 そういうのもあるのか!


 でも。

 どうやって?

 ナイフを持ってくる。剥くというより、削る。形が歪なので、切りにくい。凸だけじゃなくて凹もある。

 力加減もかなり微妙にいる。刃先が逸れる。


「いたっ」


 指を切った奴が居る。白い実の部分に、赤い血がぽたぽたと。

 赤と白のまだら模様のそれはあんまり美味しそうに見えない。

 拭くと汚れが広がる。そうじゃなくても持ち直しながら切ってるとあちこち汚れが。うんやっぱり美味しそうには。


「総員! 味の申告!」

「食えなくはない」

「土味じゃない」

「食えた」

「食った」

「判ったもういい」


 スキルがあってもこんなものだ。意味なし。


「隊長! トイレであります!」

「いってよし!」

「隊長! 俺もトイレであります!」

「いってよし!」

「た、たいちょ、おれも、きゅーぐるぐる」

「早くいけ!」


 報告書作成。ほぼ全員腹を下す。毒では?

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