ポテトDE戦争
一歩
第1話 「俺様お前丸齧り」
「王よ。現実を直視して下さい。
我々は、”勇者”の召喚に、”失敗”したのです。」
目の前でとてつもない光を放ち渦巻いていた魔術陣が、今は、しぼんで。
「しかも、魔術師団は全滅です。全員、魔力を限界以上に陣へ吸い取られてます。幸い死者は出ていませんが、どいつもこいつもゲロ吐いて昏倒してます。」
部屋に立ち込める酸っぱい匂い。
おっと、釣られるな、耐えろ、嗅ぐな意識するな
「……宰相よ。」
「は。」
「朕は現実を直視しとうない。」
「は。
理解はします。同情も。ですが。」
間。
「繰り返す。”否”じゃ。
そうじゃ、見よ!
あ奴はまだ倒れておらん!」
あれは! あれは僕らの 魔術師団長!
ゲロで前掛けを散々に汚しながらも、杖を離さず立ち続けて居る!
杖の宝珠も光を失っていない!
あ、でも、目は死んでる。
「彼は、『直立不動』のユニークスキルで己を縛っているだけでしょう。
立ったまま寝てるに等しいです。
いえ、”不動”が効いて、意識を失う事すらできませんから、
なんていうか、ある意味、
地獄ですが。」
なんという in hell。
「そう、そこよ。
"不動”故に、あ奴は今、術を切る事すらができなくなっておる。
どれだけ魔力が枯渇しようと、ゲロしようと、術はまだ続いておるのだ!」
「えっ。いやでも、確かに。
え、あれ? え?
ええっ。いやいやいや、それすごくヤバいんじゃ
衛兵! 衛兵! 急ぎ魔石を持って来い! 無理矢理食わせる? 肌に当てるだけでもいけるか? とにかく魔術師団長に魔力補給を行え!
放置すれば尽きた魔力を尚供給する為に生命力を強制変換し、生命尽きれば霊力を消費し、果ては死霊地縛霊となりて更に周りから魔力を吸ってもうどうなるのか特殊過ぎて判らんぞ!」
なんという death march。
だが、おかげで、一縷の望みが残った。
魔術陣が完全には失われず、僅かに、ほんの一握りの大きさだけ、残ったのだ。
その上には陽炎の球体が。
「あれは『異界の門』だそうです。
術としては、現在は、”召喚中”状態な訳で。
本来ならパッと大きく開いて、勇者様一人をサッと通して、その後フッと消えるはずの、一瞬だけの、世界の外へ通じる穴な訳ですが、
ズッと、”只今通過中”とか、”通過準備中”な訳です。」
魔術師団長の双子が呼び出され、ユニークスキル『以心伝心(血縁度依存)』でもって師団長の代弁をする。
ちなみに、美形ではない。双子共に。良く似ているが。
誰得か!
師団長は今『地蔵』と綽名されている。あるいは『けろけろ地蔵』と。
スキルのせいで動く事も、当然喋る事も出来ない。
お供え物は魔石。
「この大きさと質の”門”だと人は通れません。維持できてるのもこう、かなり術式進行にイレギュラーがあったのが、たまたまうまく嚙み合って。噛み合うっていうか、むしろ”抜けなくなった"とかそんな感じらしいです。」
やばたにえん。
「逆に聴こう。
何ができる?」
「向こうに”声”を届けるのはできそう、との事です。
元々、勇者たる資格を持つ人を探して、それを”呼ぶ”訳ですから、念話というか。
資格を持つ人というか、波長が合う人、とかになるのかな。」
「つまり、助けを求める事はできる、と。」
「はい。あと、人は無理ですが、この陽炎の大きさまでの物体なら、あちらからこちらへと召喚できるのでは、と。あ、大きさだけでなく質の縛りもあって、意識持つ生物は無理だろうとの事です。」
「人族でなくとも、伝説の妖精族が異界に居てくれればあるいは、と思ったが、そうはいかぬか。」
何ができるというのか。
「”助けを呼ぶ声”に反応があったらしいです!
”助けてやる”との返しが!
でも誤解がある? 正確な意思疎通は難しい?
魔王の事とか色々伝えてるんですけど、伝わってないっていうか。」
「むむ。無理もあるまい。だが、できるだけを。」
「はい。
えーと、食糧危機に応じる? 支援物資?
なにか来ます!」
陽炎から、ごろん、と飛び出すソレ。
ごろんごろんごろん、と、1つでなく転がり出る。
「食糧? らしいです?」
「土の塊に見えるが? いや、石か? 世界が違うと食べ物の種類も変わるのか?」
「いえ、伝説の勇者様が土食べたとかそんな話聞きませんし、私達と同じもの食べてたはずですから、土でも石でもないでしょう。」
「これは”何”なのか、”救援者”に聞いてみてくれ。」
「ええ。はい。えーと、”IMO”らしいです。」
「なんだ、それは?」
「ええ、はい、”美味い!”らしいです。」
「美味い?」
がぶり。
もぐ、もぐ。
「ど、どうですか。」
「……土、ではない。
が。
土の味がする。」
「はあ」
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