幻想的で美しい、けれども悲しさの残るような作品です。
そしてこれは、ミオの救いの話というよりも、もう一人の登場人物「析易せきえき」に差し伸べられた「救いの手」の話なのかなと思いました。
主人公は一座で胡琴弾きをしているミオ。ですが胡琴をあまり上手く弾けないのか、今回の曲芸の披露でも失敗してしまい、仲間に怪我を負わせてしまうのです。
自分の不甲斐なさや情けなさ、胡琴を弾くのが好きだからこそ、上手く弾けないことへの悔しさなどもにじみ出ていて、何かを極めようとしている人たちにとっては、きっと共感できるものがあるのではないかなと思います。
胡琴を上手く弾けないという理由からミオは一座を離れるのですが、その先で美しい音色を奏でる胡琴の奏者と出会います。彼は析易という名の仙人で、一座にいられないと思っているミオに居場所を与え、友となるのです。
しばらく析易の住む場所に滞在しながら共に好きな胡琴を奏でているうちに、ミオは次第に心を許していくのですが、析易には彼女には言えない秘密を抱えていました。
自分よりもずっと上手に胡琴を弾き、同じように孤独で寂しい思いをしている析易。彼と話しているうちに、ミオは「自分を理解してくれるのは析易だけだ」と感じるようになっていきますが、本当の姿の析易は違います。
彼は自分を認めない者を遠ざけ、時には力によって屈服させようとしていました。それはミオの信条とは根本的に違います。
自分だけを認める者だけを残し、それ以外を排除する析易。
彼と共にいたミオはどうなってしまうのか。そして析易は救われるのか。
幻想的で美しい描写にも引き込まれますが、技芸とはないか、それを目指すこととはないか、問われているような作品だと思いました。
自分の腕前に嫌気がさした旅芸人のミオ。引き留める同僚の声を無視して、逃げ出した森の中で彼女は仙人の析易と出会う。芸人と仙人という全くの身分違いの二人であるが、胡琴を伴奏すれば音は見事に重なりあい、析易に連れ出された先で見る鮮やかな光景にミオはすっかり心を奪われる。世俗と離れ平穏な生活を送る二人だが、その生活はある出来事をきっかけに壊れ始め……。
中華風の世界が舞台なのだが、物語全体の雰囲気が非常に良い。森の中で偶然耳にした析易の演奏にミオが思わず伴奏するという出会いも良いし、誰といても劣等感を感じて孤立してしまうミオと山奥でひとり他人と交わらずに暮らす析易が互いの孤独を埋め合わせようとする様子を巧みな文章で見事に描写されている。だからこそ終わりが非常に切ないのだ。析易が抱え込むコンプレックスをミオは全く気にしなかったのに、そのことに析易が最後まで気がつけないというのが何とも悲しい。
シンプルで短い内容の中に、人間とそうでない者のすれ違いを描いた美しい短編だ。
(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)