第4話 罰
おそらく今、
ミオは胡琴を持ったまま、小走りで
その部屋は、殿の中ではせまいほうで、白い
御簾のむこうの、
胡琴をかかえたミオが到着したときには、部屋にはもうだれもいなかった。さきほどまで、たしかに
「析易、いる?」
ミオは
紅玉を見るうち、ある考えがわいた。
この
ためらいながらも、そろそろと紅玉のほうへ手をのばす。
「ミオ」
あと少しで指先がふれそうなところで、不意にうしろから声がした。
とびあがってふりむくと、析易が真後ろに立っていた。いつものおだやかな笑みを口元のはりつけている。
「析易。たいへんなんだ。下に飢えて傷ついた人たちが大勢やってきてる。早くたすけないと」
「わたしのものを勝手に持ち去ろうとしたな」
析易はやさしく、しかし有無を言わさずに告げた。ミオは少ししょげる。
「ごめん。怒ってる?」
「ああ」
「ごめんよ。この紅玉が析易の大切なものなのはわかってる。けれどユンの兄貴分もいるんだよ。あたしはどんな罰でもうける。早くその紅玉でたすけてあげて」
肩にそっと手を置かれた。おだやかに告げられる。
「わたしがなんとかしよう。ミオは
「……わかった」
析易はかがやきを増す紅玉を、ミオの前にかざした。ミオは胡琴をだきしめ、目をぎゅっとつむる。視界が、いつか見た血の色に覆われていった。
「そうだ、ミオよ。殿の深部の御簾の奥は絶対にのぞくでないぞ」
壁をよじのぼり、
妹分のミオが消えたあの日、一座の滞在先の村はよその村の
生き残ったユンは、傷ついた人々と世をさまよい、この
そのミオは、この殿の主を呼ぶと言ったきり戻ってこない。このままではもう二度と会えないように思えた。体の動くまま殿に乗りこんだ。
しかし高い天井の殿は広く、彼女がどこにいるのかなど検討もつかない。
走りながらなやんでいると、今しがた通りすぎた部屋から
ユンは眉をひそめながら、部屋に近づいた。
かかった白い
ユンはまさかと思い、御簾に近づき隙間から中をのぞいた。
部屋は緋色の
部屋の中心では、身なりのよい小柄な男が、
そのわきには、
ユンは御簾の中に飛びこむ。
「ミオ!」
ユンがよびかけても、ミオはちっとも反応しなかった。生気のない目をしたまま。
にやついて胡琴を弾く手をとめた男を、ユンはにらんだ。
「おいあんた、ミオに何をした」
「なにもしてはおらぬ。ミオはみずからをみずからで罰しているだけ」
ユンにはおぼえがあった。
そう、いつぞやミオを探したとき、胡琴の音に惹かれ入った暗闇の
「まさか、お前はあの時の……」
「きさま、よくもやってくれたな。一生血でもすすっておれ」
男は首の紅玉をかかげた。目をあけていられぬほど、玉が
「待て。ミオをかえせ」
やがて
鼻を手で覆う。
鉄くさい。これがなんのにおいなのか知っている。
気持ち悪さにめまいがした。
水しぶきをあげ倒れたユンは、ピクリとも動かなくなった。
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