転生未満
闇谷 紅
未来を勝ち取るために
「次は1916番さんの番ですよー」
若干能天気な声が空から降る。三秒ぐらいしてからすっと立ち上がったのは青い炎で出来たかのような人型。性別も年齢もわからないソレは、死した人の魂であるらしく、例外に漏れず俺も同じような外見をしていた。
「自分の番だって気づくのに三秒か」
「早い方だな」
「まぁ、な。……というか、何故こんな大人数を一堂に会させたとツッコミたいところだが」
近くで似たような恰好の奴らが言葉を交わすのが聞こえる。正直聞こえてきた疑問には同感だ。今このただっぴろい部屋に居るのは、死したことを伝えられ、転生するかという問いに是と答えたものだ。
「たしかにな」
転生を希望するかを尋ねられたのが自分の寝室と変わらぬサイズの部屋で質問者の女性と二人だけだったのだ。ぶっちゃけあそこで色々決めてしまえばよかったと思うのに、今俺はここにいる。もっとも、大勢をこの部屋に集めた理由も一応はあるのだが。
「おめでとうございます。あなたの特典は『電流操作』と『綿棒3年分』ですよー」
再び能天気な声が聞こえ、1916番と呼ばれた人型がどこかに消える。言葉の通り特典を得て転生したのだろう。
「『綿棒三年分』……いや、もう一つはそこそこアタリだったよな」
「まあな、これでいい特典が一つ減った訳だが……残りのカード覚えたか?」
「いや、貰ってもアレだろ、綿棒よりいらないヤツだぞ?」
結果に先ほど話していた二人がまた口を開いた。そう、俺たちはずらっと並ぶ裏返しのカードのうち四枚をめくる権利を与えられ、そこに書かれていたモノの内二つと揃えたモノを手にして転生することになるらしいのだ。
つまり、なんだ、数えるのもめんどくさい程の数のカードを用いだ参加人数四桁のしんけいすいじゃくをやらされている訳で、あまりの待ち人数に自分の番が来たことに暫く気づかない者も居て、先ほどの三秒は早いという発言につながる訳だ。
「次は1927番さんの――」
そうして幾人もの使者が名を呼ばれ、カードをめくって転生してゆく中、俺は目を閉じ、自身の番が来た時のことをイメージする。他者がめくったカードを覚える者も居るのだが、ぶっちゃけカードが多すぎて覚えきれないし、さっきの綿棒のようなハズレも多い。順番待ちをする中、注視するのは自分の番が迫ったてきた時くらいでいいことを学習してしまったというのもある。
「遠くのカードは位置覚えるのが無理ゲーだしな」
カードが膨大過ぎて端っこから何番目かを数えられる気がしない。それにめくったカードに良い特典があれば、たいていそれを得て転生してゆくのでその手のカードは残りにくいのだ。残るのは三枚以上いい特典が出た場合くらいで、残った一枚もだいたい次の挑戦者がめくって獲得してゆくので回ってこない。
「ハズレカードを揃えればそれも特典として持って行けるし、ハズレのカードだけしか引けない奴も減らせるはずだ」
なんて後のヤツのことを考えたやつも居はしたが、カードの位置を覚え間違えたか何かしてポケットティッシュと油とり紙を特典に貰って転生していったのを最後にその手の他者の為に動く者も居なくなってしまった。
「……覚えきれない、なら頼りになるのは勘、だ」
目を閉じたまま、心に浮かぶカード群を俺は第六感に従い、めくる。
「『剣術』か……悪くはないが」
これは俺の想像の中、イメージトレーニングでの結果だ。願望が混じっていないとは言い切れない。
「次は2132番さんの番ですよー」
集中が途切れた時、俺はまた能天気な声を聞いた。ちなみに俺は6148番だ。先はまだ長い。
転生未満 闇谷 紅 @yamitanikou
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