吾輩は何者かである

ViVi

名前は重要ではない

 吾輩は何者かである。名前は重要ではない。吾輩思う、ゆえに吾輩あり。そういうモノである。


 ここは何やら暗い、じめじめした空間のようだ。いや、「暗い」という形容はいささか以上に遠慮した物言いであろう。いかなる光も存在しない、完全なる暗黒だった。


 ところが、吾輩はこの場所を、視覚で、正確に、認識していた。《暗視》の能力である。いわば超能力ESPだ。第六感といってもいい。能力名はまだない……というのでは恰好もつくまい。神の眼キャッツアイと名付けることにした。


 そう命名すると、吾輩が何者であるかが、にわかに定まってきた。


 吾輩は、猫である。


 それをきっかけに、あらたな能力が目覚めた。肉体を、まるでスライムめいて流体に変化させられる能力だ。猫は液体である。融点は常温に等しい。あるいは、ここがじめじめした、水と縁の深い場所であることが、関係したのやもしれぬ。


 しかし、こうなると、吾輩に名前がないというのは、やはりどうにも、恰好がつかない。能力がひとつしかない有象無象モブキャラであるならまだしも、こうして第ニの能力を得て、しかも主観視点でものを述べているのだ。いわば主人公だ。名前のひとつも、必要だろう。


 吾輩が、これもまた第六感によって得た知識によれば、猫というものは、多くの場合、飼い主から名を与えられるそうだ。となると、困った。吾輩はひとりである。あるいは一匹である。ここに飼い主はいない。


 いやさ、この際、「飼い主」でなくとも構うまい。要は、第三者であればよいのだ。それであるなら、ひとりばかり、心当たりがある。吾輩はその存在を、第六感で、捉えている。すなわち、いまこれを読んでいる――吾輩の語りを聞いている、読者氏、あなたである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

吾輩は何者かである ViVi @vivi-shark

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ