第32話 最終決戦の地へ

~語り手・フリューエル~


黒い女神の降臨―――

そう言いたくなる女性が実際に降臨してきました。

皆が「ウィングブル」に戻って来た時の事です。


「姉ちゃん、今回はタイミングが違うけどどしたの?」

「うん、今回は皆に渡すものがないから、落ち着いたところに行こうかと思ってね」

「でも話す事はあるとか?」

「んー一応。次では全力を―――制限空間での全力を出して貰うからがんばってねっていうのと」


フリューエルをひた、と見つめて

「魂削って貰う事になるけどごめんね。その代わり、2人のサポートは私もするからっていうことぐらい。天帝陛下にはもう言っといたから」

「それで十分です」


「うん、それだけ。頑張ってね、最後だよ」

そう言い残してレイズエル様は消えてしまわれました。


「魂を削るとは何の事だ」

ヴェルに詰問されたが

「後で皆で作戦を立てる時に言いますよ」

「………大丈夫なんだな?」

「魂は再生するものですからね、大丈夫ですよ。最終的には」

ありがとう、ヴェル。私は大丈夫ですよ。死ぬわけじゃなし。


「それよりも、ミシェル。早く飛び立たなくて大丈夫ですか?」

今は夕方なので、私とヴェルが当番です。

「それが………向こうとの連絡がつながらなくて」

「………場所は聞いていますね?とにかく行きましょう!」


一番近い所で半日ほどかかる。「ウィングブル」を全力で飛ばしたが………。

結果は、一人残して全員が餓死。一人だけ救えた者は異空間病院に。

私はノートパソコンをミシェルから取り上げようかとも思いましたが、もしそれでまだ助かる人がいたら、と思ってこらえました。


~語り手・雷鳴~


ミシェルを見てられない。希望だけ与えた結果なのだから、残酷だ。

「でも、生存者を探すのはやめないでくれ。今度は優先して向かうから」

そう励ますと

「うん………一人だけでも助かったもんね………?」

と、泣きそうな顔で聞いてくる

「その通りだ。探すのを止める事は可能性を潰す事だ。だから頼む」

「うん………」


「侵略者め………」

ミシェルを見ていると憎悪と殺意が沸き上がって来る。

俺は悪魔だから、不特定多数の死よりも、親しいものが泣く方が許せない。

俺の相棒を、泣かせやがって………!


最終決戦、上等だ。やってやろうじゃないか。

そのためにフリウの魂の力が必要らしいが………姉ちゃんの予定のうちなのだろう。

それなら俺は従うまで。

姉ちゃんの筋書き通りに「踊って」みせようじゃないか。


「あーフリウ。そろそろ「啓示」いっとくか?」

「ああ………確かにそのタイミングですね。やりましょう」

「ライノ」の中に全員が集まる。リリ姉はミシェルに寄り添っている。

今回もフリウの膝枕だ。鍛え抜かれてるのに柔らかいんだもんな、すげぇ。


さあ瞑想だ。深く………深く………深淵へ至るまで………。


「どうだった?」

「場所はイタリクの太陽神の広場です。よりによって我らの聖地を………!!」

ミシェルも頬を紅潮させて怒っている「汚すつもりですか………!」

「最後の敵の能力には、今の状態では太刀打ちできません。ですが、手はあります。私の魂をエネルギーに稼働する「エンドレス・ヴォイス」です」


「どういう能力なんだ?」

「私が効果を発動させている間、相手を制限空間、こちらを制限空間外の能力にすることができます。一時的な像とアリ状態ですね」

「なんだよそれ………勝負にならないじゃないか!」


「ただしこれには精神力ではなく、魂そのものを消費します。二~三分なら回復の効くダメージで済むのですが………それを超えると魂に永遠に傷が残ります」

「こんだけの能力者が揃ってるんだ、それだけあれば十分だろう」

「何が何でも二~三分で殺ってみせる、フリウ」

凶悪な微笑みを浮かべたヴェルが俺に続く


フリウは頷いて「当然ですね」と言い

「ミシェルとリリジェンもよろしくお願いします」

ふたりとも、ちぎれそうな勢いで首を縦に振っている

正直、ミシェルやリリ姉が数に入るかは分からない。もしかしたらヴェルもだ。


恐らく、姉ちゃんは俺に全力を出させたいのだろう。なんでも叩き潰してみせる。

悪いけど、俺はこの場の全員を制限空間外で相手して勝つ自信がある。

静かに、俺は最終決戦に思いを馳せた。


~語り手・フリューエル~


「私は魂ダメージに強いというのはなんとなく知っていたでしょう?」

「初対面で、魂封印具に手を突っ込んでたからな」

「あっ………正しく認識してくれてたんですか。良かったです」

「説明がなかったから、自分で推測した」

「あの時点のあなたに説明しませんよ。戦闘マシーンだと思ってましたし………」


「否定はせんな。俺は戦魔だ(今はまだ)」

囁いてくれた台詞で機嫌がよくなります。

エンドレス・ヴォイスはかなり痛いので憂鬱は憂鬱でしたからね。


いつも通りのローテーションで飛行が続きます。

喜ばしい事にミシェルが生存者グループ六人を見つけたので、先に行くことに。

いつもの手順で異空間病院に収容しました。

ミシェルに笑顔が戻って何より。リリジェンもですね。


さて、首都に来ました。太陽の広場を「ウィンドブル」でさっと流してみるつもりが、火球を吐かれて炎上しました。

郊外に不時着しましたが、もうこれはダメですね、飛ぶのは危険です。

ここから打って出るしかないでしょう。


相手の姿だけは分かりました。

顔部分だけ紙粘土で出来ていて、後は毛糸と言った女の子の人形です。

実際は顔は卵のような柔軟性がありそうでしたし、毛糸の部分は全部腸です。

無数口付の巨大触手攻撃に、顔からの砲撃、大きさは高層ビル並み。


………なるほど、「エンドレス・ヴォイス」が必要な訳です。

ガイアの法則に従っていては、半端とはいえ解放された身でも無理というものです。

全員出撃準備はいいですか? では


                 GO


「ヴヴウウウウウウウウウウウウヴウウウウウウウウウウウウウウウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

イタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタ


~語り手・雷鳴~


その瞬間、体を縛っていた星の法則―――制限空間―――がすべて取り払われた。

逆に相手は強制的に法則に従わされている。

体を支えきれずにべたりと地に伏している有様だ。触手すら動けていない。

奇跡を使わずに勝てたのはこれが初めてだ。


ヴェルが一撃で相手の卵めいた頭を粉々にしたのである。

大量の魂が宇宙へと喜色に包まれて帰って行った。

だがこれからだった。


空間を異界の法則で捻じ曲げて、巨大な黒いアリが姿をあらわしたのだ。

現存する建物のどれよりも巨大、といえば少しでも伝わるだろうか。


姉ちゃんが現れた

『雷鳴!「ジェネラル」協定違反により処分せよ!』


待ってました。

俺は『勘』に従い、魔力を高めていった。

余りの高威力高密度の魔力に、仲間は皆ギョッとして一旦ストップしてくれている。

そして俺の腕は、魔力で構成された破壊だけを目的とした剣となる。


「ジェネラル」に匹敵するほど巨大な魔力剣はすとん、と「ジェネラル」に

両断したのである。

遺体はずるずると異空間に飲み込まれていく。

空間に黒い大きなひずみが出来ている。これが姉ちゃんが言ってた空間汚染か。


いつの間にかフリウの狂おしい声も止まって―――姉ちゃんが止めたみたいだ。

介抱してたフリウを、ヴェルが抱こうとしてたんだが、それを制し何か言っている。

ああ、例の約束か。あ、真上に飛んで行った。宇宙空間へと飛んだんだろう。

そう、宇宙空間へ。フリウの「エンドレス・ヴォイス」は止まっているのに。


ガイアは普通の制限空間に戻ったのだ。天使・悪魔の実体化、否実体化は自由だし、宇宙にだって出て行ける。ヴェルはこれから子供への能力移譲をするんだ。

約束通り俺も行かないとな。背に竜の翼を出し、俺は舞い上がる。ミシェルに

「仕事するようになったらまた会いに行くよ!」と告げて。


~語り手・フリューエル~


私はレイズエル様の手を離れよろめきながら立ち上がりました。

大丈夫、魂は傷こそあれ元に戻るレベルです。

ヴェルが宇宙空間へ羽ばたいていったのが見えました。

ミシェル、ミシェル帰りますよ。あなたはセントクレストの洗礼はまだでしたね。

きっついですから、覚悟しておきなさい。


私は先に聖と魔の境目で、ヴェルの魂を受け取りしてから向かいますから………え?

ついてくる?勝手が分からない、ですか。仕方ない子ですね。

子………そう、あなたはまだまだ若いのに大変な経験をしましたね。

リリジェン、また会う事もあるでしょう………おや?再開は遠くなさそうですよ?


~語り手・レイズエル~


彼女の前には知らない上級天使と、沢山のキューピットたち。

上級天使がリリジェンに言う。「天帝陛下が貴女を天使にせよとの仰せです」

「「「「「「聖女」」」」」」様。キューピットたちが唱和する。

「貴方はこの旅、正しく聖女であられた。あなたは天使に相応しい!」

「え、ええっと。まだ事態が収束したばかりで………」

リリジェンにはこのテンポで話についていくのは無理でしょうね………。


「そうでしたね、天界の神殿の方で宿泊されませ。ゆっくりとお話を進めましょう」

「い、いいんでしょうか院長先生」


私は瞬時に降臨した。担当官は見知っているから問題ない。

「いいもなにも、今までのあなたの人生の集大成でしょう。聖女に認定と同時に天使へというのは………天帝陛下があなたをいたく気にいったからのようだし」

「で、でも………」

「心の準備は用意してくれる神殿で、ゆっくりなさい。断ったっていいんだし」

「そ、そんなことは!」

「ない、というなら神殿へお行きなさい。大丈夫、私が欲しければ呼びなさい」

「………あ、なんか落ち着きました………」

「あのねぇ………まぁいいわ。頑張りなさい、天帝陛下が好きなんでしょう?」

真っ赤になったリリジェンに軽く笑いかけると私は姿を消した。


ガイアは元に戻った。住民たちも異変が終わったことに気付いていくだろう。

ゾンビも灰塵となり、ガイアに帰って行った。

異空間病院の人間たちも、希望者以外は星に帰す予定だ。

五人の勇者は誰もいない所で戦ったので、記憶にとどめるのは解放された魂のみとなるが、彼らはそれで十分というだろう。

ガイアは死んではいない。文明は衰退してもゆっくりと元どおりになるだろう。


最終的に処断せざるを得なかった「ジェネラル」の残した空間汚染は、中が特殊空間になっている小瓶に封じた。これから私が時間をかけて処理することになる。

他の「侵略者」達は勝ち目のなさを悟って出ていった。

彼らの最高戦力である「ジェネラル」をああも容易く雷鳴が下したことで無理だと悟ったようだ。最後まで見届け、痕跡まで掃除しておいた。


ヴェルミリオンの魂は無事フリューエルから、セントクレスト、セントクレストから魂の浄化場である煉獄へ受け渡されたようだ。

事後処理のすべて済んだフリューエルが会いに行っていたが、現状話の出来る状態ではない。なに、1万年もすればヴェルミリオンも浄化の苦痛に落ち着く。

その時には愛を語る未来が私にはちゃんと『視』える。


そしてミシェルは今後「守護者」《ガーディアン》として大成するよう。

彼の守護する者は、こっそり………でもないか。雷鳴の加護もつく事でしょう。


リリジェンは結局、天使になるための勉強をスタートしました。

これからは天使として生活するのだけど、あの子の事だからどうせ仕事は「外勤」に着くのでしょうね。人界に下りてくるでしょう。

でもこれこそ私の願い。今度こそ神との愛を成就させ生きてね―――セフォン。

―――彼女は未来の天帝の母となる。そう『視』えているのよ。


今回は「聖女」として―――皆を助けてくれたことに私からも礼を。

直接の礼は、どうせみんなまた会えるのだから、そっちで聞いてね。


END===================================


第一作目。生みの苦しみを、何より文章を綴る難しさを思い知った作品でした。

あなたは誰が好きですか?何を感じ思いましたか?作者は聞きたがっています。

できれば恵んでやってくださいね。

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白と黒が聖女の周りで踊る旅 フランチェスカ @francesca

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