第31話 海上決戦!

 ~語り手・フリューエル~


「アレ、作戦らしい作戦あるのか?」

 雷鳴が発言します。それもそうですよね。体はタコ。ひっくり返ってくれないと、脳にダメージを与える事はできません。


「「タコモドキ」は呼吸と、防御形態を繰り返しているようですね。息をするために、かならずいつか頭をさらす」

「「タコモドキ」の弱点は、あのデカい「目」だ。脳は目にある」

 ヴェル情報です。助かります。確かに琥珀色の巨大な目が一個ついていましたね。


「じゃあ、ゾンビを食い終わって、沖に出たところで攻撃するしかないな。タコの触手を切り落としてやるといい。ひっくり返って、触腕で攻撃してくるだろう」

「触手の相手をしていれば、弱点が反転して来ますか。くれぐれも真ん中の「口」に近寄らないように。大ダメージを受けること必至です」」


「船は、港のを徴収するしかないでしょうか」

 ミシェルが不安そうに口にします。

「そうですね、申し訳ないですが。お借りしましょう」

「でもそれ、タコが触腕で大量に水を巻き上げてきませんか?波が目に入って、海水もかぶって、って戦闘どころじゃないですよね」


 リリジェンの言葉で私はゴーグルを取り出します。

「これを着けていれば、ある程度視界が確保されますよね」

「姉ちゃんは、この事態を大体予測してたんだなぁ」


「船を動かす練習をします。私と雷鳴は例によって動かせますが、他の、面子は初めてでしょうから。まだ朝ですし練習しますよ」

 ここに滞在している間、交代とか無しで(夜間は交代で見張っていましたが)普通のサイクルで過ごしていたので、まとまって行動できます。


 私達は高台から港に下り、港の両端にある、潰れていない小型漁船を探しました。

 かかっていたキーは、雷鳴がキー無しでも動くようにしてくれました。

 本当に多芸なひと(悪魔)ですね、雷鳴は………

 漁船の操作は、似たり寄ったりだったので、私と雷鳴が教えて回ります。

 「「タコモドキ」の所に行くのには、特別な操作は要りません。五人で囲んでしまえばいいだけです。


「逃げる、潜るは私が「念動」で止めます。巨体ですからキツいんですが、レイズエル様が疲労回復薬をくださっていますから、それでも私は使い物になるでしょう」

 ただ、と私は続ける

「反転はちょっと制御できないと思います。元々「念動」は得手ではありませんし」


「一応皆ターンできる様になろう。囲むのにちゃんと持ち場に着ける様にしないと」雷鳴が「教え・虚言・幻覚」というと、「タコモドキ」が海上に姿を現しました。

「ヴェル、目が弱点なんだな?」

「ああ、間違いない。後頭部にも脳みそは詰まってるが、俺は正面に着きたい」

「正面はいけて後二人だ。俺とフリウで決まりだな。ミシェルとリリ姉は後頭部を叩いてくれ。二人の攻撃力なら後頭部ぐらい砕けるだろう」


「さあ、燃料は問題なさそう―――後で足すけど―――だし、まずは試しに囲もう」

 その後は、目も当てられない有様になりました。

 その場で回転する者―――(ミシェル)、「タコモドキ」を横切ってしまう者(リリジェン)、他の船に突っ込む者(ヴェルミリオン)―――という有様です。


 私と雷鳴はてんてこまいで、技術指導して回りました。

 何とか、夜になる前に皆形になりました。ターンできる様になっただけですが。

 明日も特訓ですね。現実には「タコモドキ」が海水をかき回しているのですし。


 全員(私と雷鳴も)疲れて寝ました。『痛覚鈍麻』はかけて貰いましたが。


 次の日、特訓の続きです。

 ミシェルはもう自由自在に船を操るようになりました。卒業ですね。

 リリジェンは、所定の場所に着くことは可能ですが、波が荒れたらどうでしょう。

 ヴェルは………自分で運転すると言ってますが、もう私の念動で運びましょう。

 不測の事態になったら、念動でサポートするという事で昼には解散しました。


 私は、時間のあるこの時間に、ずっとやりたかった事をしようと決めました。

 もっとも、短い話になる可能性も十分あるのですが………。

 私はヴェルに声をかけて、コクピットに来てくれるよう頼みます。

 怪訝な顔をしましたが、わかった、と言ってくれました。


 私は後部座席を対面になるように操作し、ヴェルを待ちます。

 ヴェルはすぐに来ました。私の顔を見て怪訝そうな顔をしています。

 多分、私の今の顔は、恋する生娘のようなものでしょう。

「私は………あなたにどうしても聞いてみたいことがあって」


 ヴェルは私の髪をくしゃりとすると、額に唇を落とし

「言ってみろ、聞いてやる」

 と言ってくれました。私は少し勇気づけられます

「ヴェル、天使になってくれませんか?」


「「煉獄」で、浄化を受けて………勿論、痛いし苦しいですが、本人に浄化される意志があれば、せいぜい2億年ぐらいだと思います。浄化されて、天使になってくれませんか?そして私のそばにいてくれませんか?」

 沈黙が痛い。ヴェルはしばらく考えてから

「お前の気持ちはわかった。いいぞ」


 わたしはポカンとした顔をしていたでしょう。

「ほ、本当に?本当に天界へ来てくださるのですね⁉」

「ああ。だが個人的な問題がひとつある」

「解決できることですか?」

「簡単な事だ、この戦闘衝動を自分の子供に移してしまえばいい。でないと天使にはなれない。認知はしてないが、2人ぐらいいたはずだ」

「それが悪魔なのなら、私の口を挟む問題ではありませんが」

「その後で天界に行く。念話で連絡するから、迎えにこい」

「勿論です!」


「だが一つ聞きたいことがある」

「私に答えられることならば、何でも」

「何故逆ではいけなかった?」


「本能がそれを拒否したのもありますが………それだけならあなたも同様ですよね。三代期に、私は堕天使の作った実験場で生まれ育ちました。嫌というほど堕天使を見ましたが、正直悪魔より質の悪い連中です。元の人格のかけらもない」

 私は息を吐き捨てて

「元の人格が残っていない私を、あなたは愛せますか?」


「………いいや。俺は本当は人一倍正義感が強いくせに、常に物事を冷静に見て、皆を引っ張っていくお前が好きだ」

「正義感は残りませんね。他も良くて歪んで残るだけ。堕天使はそういうモノです」

「………そうなのか」


「それに、どうしても堕天できない理由が、もう一つあるのですよ」

「?なんだ」

「私は堕天できません。堕天状態に移行しようとしたら、体と一体化している「装置」が反応して、私は自動で死にます。あなたにも弱点として見えているのではないでしょうか?元の機能は違うのですが、それは煉獄が付け足した機能です」

「確かに腹に何かあるようなのは、弱点として見えているが」

「物凄く丈夫ですが、私に異常を引き起こして弱体化が狙えるので弱点扱いされるのだと思います。本当はコレを発動させたら………いえ、今は止めておきましょう」


「理由は分かった。だが少し不安だ。煉獄で俺はどう変わる?」

「それは恐らく、試行錯誤の中で、受け入れられるところから変わっていくでしょう。自動的に天使の倫理観は身につくと思いますが、それ以外は自分を曲げて変わるわけではありません。あくまであなたの意志で、自然に変わるものです。煉獄官がその手伝いをします」

「そのあいだ、お前とは会えるのか?」

「勿論です。私は煉獄官に教育されたのですから、馴染みです。問題は休暇の少なさの方ですね………でも休暇の度会いに行きます。何時間でも、時が許せば何日でも」


「なら―――俺は天使になってやろう」

「その言葉―――誓えますか?」

「誓ってやろう。こんな時でも用心深いな」

 ぽろぽろと涙を零しながら私は言った「ありがとう、愛しています」と。

「俺もお前を愛している。戦うお前が好きだ」誠実さが伝わって来る声音。


「ああ、そうだ。これを渡そうと思っていたんだ」

 彼の手には恐らくプラチナ製らしい、シンプルな指輪が二つ。

「どこだったか、適当な街で購入した。バックパックに現金が入っていたから、対価はちゃんと払ったぞ………お前はそういう事を気にするだろう?サイズは適当だが、この件が終わったら自分で調節してくれ」

 ちょっと赤くなりながら早口で説明するヴェル。

 でもたぶん、私の方が真っ赤になっていたでしょう。


 指輪には慎ましいサイズのエメラルドが嵌まっていました。

 天使の好みを考えてくれたのでしょう。あの、ヴェルミリオンが‼

 わたしはおそるおそるヴェルの手から小さい方の指輪を取ります。

 嵌めてみると、少し大きいものの、大した誤差ではないように思います。

 ヴェルも、指輪を身につけてくれました。ふふ、似合いませんね。


 ヴェルは立ち上がると、いきなり私をすくい上げました。

「ヴェル?」

「適当な空き屋に行くぞ」

「ちょっと⁉まさか!見張りはどうするんですか!ヴェル!」

 彼はコクピットの扉を蹴り開け、「ウィングブル」の中を駆け抜けると街に出て「適当な空き家」に私を連れ込み―――後はご想像に任せます。


 ~語り手・雷鳴~


 なんだなんだ、騒々しい………。

「見張りはどうするんですか!ヴェル~~~~!」

 という言葉をたなびかせて、ヴェルがフリウを拉致して行ったのだ。

 何なんだ、ヴェルに盛りがついたのか?


 俺は街の端まで偵察に行った。ゾンビはまだ来ていない。

 ヴェルとフリウが戻ってくるまで持つだろう。

 ………なんでいきなりヴェルがフリウを拉致って行ったのかは不明だが。

 ………不明って事にしてやろう。 

 何日ぐらいで、他の町からのゾンビは、ここに辿り着くのだろう。


 地図をタブレット上に出してみる。ここへ来れるだろう町は3つ。

 それも結構遠い。不眠不休で走れるゾンビ(普通映画のゾンビってノロいけど、ここのゾンビって早いんだよな)だからこそ、ここまで1週間前後で来れるのだろう。

 ミシェルのSOS調査では、3組がもうギリギリだという。

 早く来てもらいたいもんだ。早くカタをつけたい。


 暗くなってきたし、俺は「ウィングブル」に帰る。ヴェルとフリウも戻って来た。

「ん?」

 暗くなっても俺の目は効く。俺ははっきり、二人の薬指に輝く指輪を捕えていた。

「婚約したのか!」

 俺の声は「ウィンドブル」に響いた


「ヴェルミリオンが、天使になる事を了承してくれたのです」

 と、実に幸せそうに、ヴェルに抱えられたフリウは言う。

 その言葉は全員に届いた。

 誰も言ってないのに、ミシェルとリリ姉が、確保しておいた強い酒を持ち現れる。

「婚約ですね!ゾンビは来ませんし、酒盛りです!」

「ヴェルミリオンの昇天を応援するよ!ああ、昇天なんて聞くの初めてだ!」


「エメラルドの婚約指輪なんて、見たのは初めてです!」

 リリジェンが無邪気に婚約指輪を見ています

「煉獄から出たら、すぐ、マリッジリングを贈るのですね」

「当然だ、もちろんもっといいやつを贈るぞ」

「天界の宝石類は無料ですからねぇ」

 とミシェルが言います。それ、知らせるのは後にして欲しかったですね。


「そうなのか?何だか、ありがたみがないな」

「でも、特別な事がなければ提供されませんよ」

「そうか………大きなエメラルドが嵌まったプラチナのを贈ろう」

「素敵です!」


「唯一の難点は、俺の戦闘衝動を、すでにいる子供のどちらかに移してからでないと、煉獄に入っても昇天はできない事だな。これは世襲だ」

「この俺、「魔界の大公爵」は祝福はできないが。裏で手を回し、戦闘衝動の移行は宇宙空間でつつがなく終わるようにしてやろう」

 と俺が言う。俺は立場上、昇天を喜ぶわけにはいかない。殺してもいいぐらいだ。


 ミシェルがブランデーの瓶を持って来る。

「飲めば世は事もなし、です」

 今回の任務で変な癖がついてしまったか?。教官とやらに謝らねば。


 祝いの酒宴は朝まで続いた。

 そして、酒宴の後は、フリウとヴェルが俺の前に正座している。

「俺は構わない、愛ゆえの昇天だ。祝福してやるわけにはいかないが。だが!ヴェルミリオンは魔界には戻ってくるな!子供なら指定の者を宇宙空間までこっそり運び出してやるから。そこで能力移行させて行くんだ。ヴェルミリオンは立場ってものがないからそれで魔界を去っても気付かれないはずだ」


「いいんですか、その………仮にも大公爵が、昇天に関わるなんて」

「大丈夫だ、黙らせる。今ここを見ているかもしれないお方々は姉ちゃんが誤魔化してくれるだろう。ヴェルは堕天使と同じく追われる立場になるな。茨の道になるが逞しく行けよ!」

「はい!試験を受けて貰って、わたしの下に付けるつもりです!」


(雷鳴!雷鳴!)

 唐突に姉ちゃんの声が、頭に流れ込んで来る。

(2人の告白シーンと、今の酒盛りのシーンは何とか水盆の不調を装って、ヤバい部分は隠した。それでも第一王子殿下にはバレるだろうけど。この先、ラブラブなのと、婚約指輪も何とか誤魔化すから!「昇天」のキーワードだけは絶対出させないようにして!それが出ると一番ヤバい紅龍にバレるから!)


 俺は慌ててフリウとヴェルに通達する。

「だから「昇天」のキーワードとそれに類する発言は、この先NGで。でないと任務の最中でも容赦なく兄ちゃん―――姉ちゃんの夫、紅龍王子に殺される。だから先に言っておく。任務が終わったらヴェルは、宇宙空間座標〇〇〇で待機していたら、俺が指定の子供を運んでくる!戦闘衝動を移行しろ!フリウは天界に帰って報告!両方の時が合ったタイミングで「GO」をかけるから、「聖魔の狭間の空間」に集合!宇宙空間での戦闘の誓いは、今ここで二人の合意の上破棄しろ!」

「は、はい誓いを破棄します。破棄しますか」「破棄する………」

 

 皆もぽろっとNGワードを出さないように!


 俺は全員に通達した。

 ヴェルとフリウの恋路のためだ、皆黙っていつも通りを演出すると誓ってくれた。

 全く、いい仲間に恵まれたもんだ。


 ~語り手・フリューエル~


 雷鳴にはかなり心痛をかけてしまったようです。

 しょぼんとした私は「ウィングブル」の外で、見張りをしていました。

 単眼鏡を目に当てます。もっと緊急事態なのだと、認識すべきでした。

 そうですよね、堕天使を作ると言われたら、天界だってさらに過剰反応します。

 魔界だってそうでしょう。


「フリウ?」

 何でしょうか、今私は落ち込んで………ってヴェルですか。

「ゾンビが見えるぞ」

「!」

 私がぼうっとしていただけで、確かに、地平線にゾンビが見えます。

 走ってはいないので、あの速度では、2日はかかるでしょうが………。


「皆、ゾンビが見えます!多分2日はかかるでしょうが、見張りを!」

 その結果、いつもの私とヴェル。雷鳴と、ミシェル、リリジェンといった面子が12時間交代で張り付くことになりました。

 ゾンビは走ってこっちに向かっています。

 雷鳴の計測によると、ゾンビは一日半でこちらに到着するとの事です。


 その中で、休憩組になった私は優雅にお茶を飲んでいます。

「お前は天界でも茶飲みなのか?」

「そうですね。人界から取り寄せたお茶をたしなんでいます」

 よく分からんと、ヴェルが首を振る

「お茶は芳醇で、疲れを癒してくれますよ」

「そのうち教えてくれ」


 ゾンビ監視組は、それどころではありませんでした。

 ミシェルが高台に戻って来、もう来ますよ、と言う。

 雷鳴の計測はゾンビが走る事によって崩されたようです。

 沖には「タコモドキ」の姿があります。


 私達は、それぞれの船舶に乗り「タコモドキ」が消化の姿勢になるのを待ちます。

 機は訪れました―――。

「今です!「タコモドキ」を囲みますよ!」

 ひっくり返っている「タコモドキ」を剣でさし示します!

「囲め!」


 私達は、それぞれ「タコモドキ」の触腕に取りつきます。

 ウェルは、切り攻撃を追加してもらったナックルで。

 私とミシェルと雷鳴は剣で。

 リリジェンは「切り」を追加してもらっていた空気砲で。


 それぞれ攻撃しましたが、ゾンビを食べたばかりだからか。切られても切られても生えて回復してきます。

 ですが、たまりかねたのか、本体が怒りの表情でざばあっと出てきます。

「頭」側が出てくるなり、攻撃の嵐です。


 ~語り手・ヴェルミリオン~


 まさか雷鳴があそこまで協力してくれるとは思わなかった。

 悪ければ当局に通報されるかとまで思っていたのに。意外だ。

「愛を育む男女には弱いんだよ」

 とは本人の弁。今は信じるしかないが、どこまで本当やら。


 フリウがいる見張り台まで行き、地平線を見ると………ゾンビがいるではないか!

「ゾンビが見えるぞ」

 間違いなく、あれはゾンビだ。歩いているので2日はかかるだろうが………


 全員にゾンビが向かっている旨が通達された。

 今は、俺とフリウが見張りの時間だ。愛しさが押し上げてくるが、ぐっと堪える。

 

 フリウと俺は休憩組になった。フリウはまだ寝ていない。

 フリウは優雅に茶を飲んでいる。マグカップだが、彼女だと優雅に見えるのだ。

「お前は天界でも茶飲みなのか?」

「はい、人界から取り寄せたお茶を嗜んでいます」


 よくわからん、と俺は首を傾げる。

「お茶は芳醇で、疲れを癒してくれますよ」

「そのうち教えてくれ」

 これぐらいは、構わないだろう。


  ゾンビ監視組は、それ処ではなかったらしい。俺ももうすぐだと思っていたが。

 ミシェルが高台に戻って来、もう来ますよ、と言う。

 雷鳴の計測はゾンビが走る事によって崩されたらしい。

 「沖には「タコモドキ」の姿があります」

 今日は時化っている。よくもまぁ、こんな時に。

 俺の操船技術は酷いものだ。操縦するな、フリウが念動で動かすと言われていた。


 皆、それぞれの船舶に乗り、「タコモドキ」が消化の姿勢になるのを待つ。

 機は訪れた―――。

「今です!「タコモドキ」を囲みますよ!」

 ひっくり返っている「タコモドキ」をフリウが剣で指し示す!

「囲め!」


 俺は、時化では操縦できない。フリウに任せた。

 それぞれ「タコモドキ」の触腕に取りつく。

 俺は、ナックルに切り攻撃を追加してもらって良かったな。と思っていた。

 あの女―――雷鳴の姉ちゃん―――はどこまで見通しているのやら。

 フリウとミシェルと雷鳴は剣で。

 リリジェンは「切り」を追加してもらっていた空気砲で。


 それぞれ攻撃したが、ゾンビを食べたばかりだからか。切られても切られても生えて回復してくる。たまりかねたのか、本体が怒りの表情でざばあっと出てくる。

「頭」側が出てくるなり、攻撃の嵐が降り注いだ。

 俺は中心だ、ヘマをするわけにはいかない。渾身の力でナックルを振り下ろした。


「目玉」は弾力があり、結構頑丈だ。二本の、裏とは比べ物にならない触腕が、こちらを潰さんとしてくる。飛行で回避できる搭乗者はともかく、船は傷つく。

 フリウなど、目を抉り出そうとしていたようだ。流石に無理だったが、後頭部との挟み撃ちで結構傷ついてきたようだ


 また、ぐりんっと、触腕だけの姿勢に戻る。

 またタコ切りか………と思った瞬間!

 吸盤に吸い付けられて、ミシェルが宙に浮いた!まずい!

「口」に持って行かれそうだったミシェルを、即座にフリウが「タコ足」を切って救出する。「貴方は本来の力を取り戻しているのですから、慌てず行動すれば助かったはずですよ。気を付けてください」


「はい………!」

 とミシェルが気合を入れ直したところで、タコ狩りの時間だ。

 焼いたら旨そうな―――奇跡の時に溶けて消えるだろうが―――タコ足を、俺は皆と共に量産していく。切られては生え、切られては生え―――。

 そのうち息の限界(あることに驚きだ)が来て、反転する。


 それはさっきの繰り返しになると思われた。

 フリューエルが、顔の横についた大触腕の叩きつけをもろに食らわなければ。

 叩きつけられたフリウ。何度も叩きつけられる大触腕。


「やめろおおおおおお!」

 その間に入り込み、大触腕に攻撃を加える。何度も。大触腕はちぎれ飛んだ。

「雷鳴っ、治療だ!」

「おうっ『教え・治癒・回復MAX』!」

「死んではいないんだな⁉」

「大丈夫だ、危なかったけどな」


 ほっと息を吐く。俺と雷鳴は復活した触腕に向かう。

 フリウが起きてこなければ、本体への攻撃はおぼつかない。

 ………と、そこにフリウがぐぐぐっと身を起こす。

 大剣を手にして彼女は起き上がる。


「この程度で私は死なない!仲間の皆がいるから!ヴェルがいるから!」

 そう叫んで、巨大な中華包丁のような剣は、「タコモドキ」の顔にに深々と裂傷を刻んだ。もちろん何度も。

「フリウ!無理に動くな!」

 雷鳴の声は否定された。

「馬鹿な!今動かずにいつ動くのだ!神よご照覧あれ!」

 彼女の狂乱は、再度「頭」が水中に没するまで続いた。


 雷鳴は、彼女の傍に行き、二言、三言。声と、回復術をかけていた様だ。

 俺の所に来て、「ちょっと錯乱していたみたいだけどもう大丈夫」と告げた。

 ならいいんだが………俺は持ち場があるから彼女の傍に行けない。

 再生してくるタコ足と延々と戦っている。勿論フリウも。雷鳴も持ち場に戻った。


 反転してくる頭。目を潰す役目は本来真ん中の俺のものだろう。

 触腕は、雷鳴と冷静になったフリウが切り落としてくれる。

 本来フリウがいなければ、おれは立つ位置も定かでないのだ。

 正気に戻った彼女は、冷静に俺の足場を『超能力・念動』で固定してくれていた。


フリウは、バックパックから―――触腕を避けながら―――疲労回復薬を出してきた。どうするつもりだ、と思っていると、「タコモドキ」が空中に固定された。

「皆さん、「目」に飛行攻撃してください!急いで!長くは持ちません!」

そりゃあ、ビルに匹敵する巨体を―――「クイーン」と同程度とはいえ―――持ち上げるんだ、疲労もするだろう。


俺は空を飛んで、攻撃に加わった。

皆の攻撃が一転集中した結果―――「奇跡を行います」と、声が広がった。


 想いを込めて この世界を想い 伝えます

 癒しの祈りを 救いの祈りを 絆の祈りを

 存在の祈りを

 魂の営みを われらは諦めず

 例え迷うても、生命は再生すると信ず

 世界を抱き 良きなるものに光を導きたい

 われらに託された、かけがえのない祈り

 癒しの祈りを 救いのの祈りを 絆の祈りを

 存在の祈りを

 生命は営みを諦めない

 例え迷ったとしても、いのちは再生すると信じてます

 だからこそ、わたしは祈るのです…

 どうか希望の力を


「タコモドキ」は、痕跡も残さず崩れ去った。

港に放置されたゾンビの服だけが名残か。

………思えばこの「奇跡」のすさまじさも、俺が光に嫌悪感を抱かなくなった理由の一つかもしれないな。


さぁ、今は「ウィングブル」に―――「ライノ」に戻ってゆっくり休もう。

「ウィングブル」に戻った時、いつもの「女神(雷鳴の姉ちゃん)」はやってきた

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