第30話 また海を越えて(雷鳴・フリューエル)

 ~語り手・フリューエル~


 エトマカ空軍基地まで帰って来ました。

 雷鳴は『教え・治癒・痛覚鈍麻MAX』を全員にかけてくれます。

「あんまり疲れてないとは思うけど、全員寝る事!おれはここの人たちに首尾を報告してから寝る。確認は向こうに任せてすぐ帰ってくるから」

 と言うと、建物の中に入っていきました。


 私たちは言われた通り寝ます。無痛で寝れる時間は貴重だからです。

 アザのないリリジェンも、奇跡で体力を削られているでしょうし。

 夢を見るならがアリの出ない夢ならいいのですが。

 幸いにして夢は見ず、安らかに眠る事が出来ました。


 私が起きると夕方でした。他の面子はもう起きています。まだ体ほぼ痛みません。

ございます………」

 そう言って、水をタオルに含ませ、絞ります。

 それで顔をと、上半身をふくと、やっと目が覚めた気分になりました。


「ミシェル、今回の要救助者は?ばらけているんでしたっけ?」

 声をかけるとミシェルがパソコンから顔を上げます。充電しといてあげましょう。

「三か所に二~三人が分散しています。全部ここに来るまでで通過してきた街です」

「今回は別の大陸に行くような『予感』がする。ってことはオーステラリアだろ?それなら、ここはインデの奥のほう。どうせ引き返すんだ、構わないだろ?」

雷鳴は人助けに積極的ですね、本当に悪魔ですか?


「人助けですから、私は構いませんけど」

 リリジェンも大きく頷いています。ヴェルは我関せずです。

「私も異存ないですよ」

「………好きにしろ」

 と全員の意見が一致?しました。


「雷鳴、ここの人たちに出て行く旨告げましたか?」

「大丈夫、こっちの面子が起き次第出て行くって言ってある。見送りは不要とも言ってあるよ。『クイーン』のことも詳しく話してある。半信半疑だったけど、それは仕方ない。後でドローンを飛ばして確認するだろう」


「では出発しますか。まだ夕日がありますから、操縦します。ミシェル、後部座席に座ってナビしてください」

「はい、わかりました。最初は一番近い所で………」


 その後は、街の外に「ウィングブル」で着陸して「ライノ」で街に入り、連絡を取り合いながらゾンビを倒して救出を行う………の繰り返し。

 ネットは死んでませんが、電力は発電機頼みになっています。

 二件は発電機のある建物からのSOSでした。

 もう一グループは手回し発電機でスマホを充電。スマホでアクセスしていました。

 電力のの限界ですね。でも少しでも見つかるなら、助けてあげたいです。


 ~語り手・雷鳴~


 やつれた顔の要救助者を、全員回収してウィングブルへ。

 さすがにこれだけ時間が経つと、備蓄が無くなり食料に困窮してたようで、渡した口糧を夢中で食っていた。

 フリウの言う通り、電力の限界だ。でも仕方ない、足で探す余裕はないのだから。


 最後の人たちを拾い、全員異空間病院に送り届けた。

「ウィングブル」に「ライノ」を格納。固定する。


「んー、もしかしてそろそろ俺の出番かな?」

「そうですね。雷鳴。いつもの啓示をお願いします」

「了解しましたー」

 フリウの太ももを枕に、寝転がる。

「殺気を放つなヴェル。普通に寝転がると肩と腕が痛くて、集中が難しいんだよ!」

「………別に」

 ふいっと横を向くヴェル。ちょっと嬉しそうなフリウ。

 もろバレバレなんだから、普段から普通にイチャつけばいいのに。俺は構わない。


 まあそれは置いといて、瞑想だ。

 深く―――深く―――意識が溶けて消える―――。

 泡がはじけるような感覚と共に俺は目を開けた。

「どうだった?」


「次の目的地はオーステラリアです。地図を指さしてもらいましたがオーステラリアの小規模な港街です。それから、水上戦になる、と解釈できました。」

「げ………姉ちゃんのゴーグルに使い道がありそう………」

「ええ。次のは海に浮いてたり潜ったりするっぽいですね」

「厄介だな。水中戦じゃないのがありがたいけど。水上戦かぁ」


「雷鳴、俺また生存者を探していいか?」

「良いんじゃないか?頑張れよ」

「ミシェル、この港街の付近に軍港などは?」

「探してみます………ないですね。かなり遠くになります」

「そこに向かう途中にはあるんじゃないのか?」

「あるよ。パーサカ陸軍基地。補給出来そうな、羽小江山クラスの基地」

「それは重畳。立ち寄って食料と水を確保しましょう」


 さて、今回はコンパスがある。町に入った時に買っておいた。

 地図と星も重要ですが、コンパスがあれば、今度は堂々巡りにはならないだろう。

 パーサカ陸軍基地までは大体四日かかる。

「また十二時間交代にします?私は構いませんけど、他は?」

「ああ、俺も異存はない。夜に操縦できるのは叶ったりだからな」

 他の面子も問題ないようだ。

 リリ姉は退屈しのぎに、町で本をどさっと買い込んできている。


「ヴェル、あなたも何かしますか?スマホの充電ならやりますよ?」

「いらん………お前を見ている」

 フリウの顔は真っ赤だ。

 ヴェルは―――それでも遠慮してるのだろうが―――そんなフリウにキスをした。

 あのー全員いるんですけど?

「はいはい、朝だから二人の担当な。いちゃつくならそっちでどうぞ」

 リリ姉がキラキラした目で見つめていた。女の子って好きだよな。


 ~語り手・フリューエル~


 私とヴェルは、お互いを意識したままコクピットに入った。

 しばらく運転して、日が高くなってきてから

「ねえ、ヴェル。この件が片付いたら、私と宇宙空間で戦闘するんですよね?」

「そうだが」

「その後は………会えなくなるんですよね。こんなに思いが通じているのに」

「………そうだな、魔界に連れて帰りたい」

「………それは無理ですが、負けたら、再戦したいとか思います?」


「ああ、当たり前だろう」

「なら、再戦の条件として、召喚されて具体的に言われた場合を除いて、人間を殺さないというのを提示します。あなたを押さえるという理由(言い訳)があれば、私の仕事が休みの時に会えますから」

「俺が負けるの前提で話すな」


「悔しいでしょうけど、あなたはまだ私にかなわないと思いますよ」

「………負けたら吞んでやる、負けたらな」

「では、二人で誓いましょう」

「「再戦の条件を呑む(与える)ことを誓う」」

 これで、時々会えるでしょう。休みは少ないですが。


 二日目に入りました。操縦に支障がない程度にヴェルといちゃついたりしてます。

「海しか見えないと、不安になりますね。天界に海はないので」

 そう言うと、ヴェルは意外そうに

「ないのか?まあ、海魔領は危険だからこっちも海には入らず、深い川で泳ぐが。そっちはどうやって泳ぎを覚えるんだ?」


「湖ですね。私の家の近くにも小さな湖があります」

「一体どこに住んでいる?雲に湖ができるのか?」

「雲にも湖がありますし、私の家は地天領にあるので普通の湖もありますよ」

「雲に湖………違和感が凄いな」

「そうですか?そうかもしれませんね」


 三日が過ぎました。旅は順調です。

 私とヴェルは、普通に恋人同士の扱いにされています。構いません。

 寝るのも寄り添って寝ます。 

 わたしはよくヴェルに抱き着きます。彼の深層意識が気持ちいいからです。

 この男は(精神が)強いのだと実感します。

 実際には戦闘能力は、非制限空間では私が上でしょうが。


 四日目。パーサカ陸軍基地が見えてきます。そこそこの規模があるようですね。

 重要なのは、ゾンビの姿が見える事。補給の前に掃討戦です。

 滑走路付近のゾンビは脳を『人体発火』、させて着陸の妨げをなくしておきます。


 着陸と同時にゾンビが寄って来たので、フラッシュバンで滑走路わきに誘導。

 これで皆が「ウィングブル」から下りる時間を稼げました。

 私とヴェル、雷鳴とミシェルとリリジェンの組で浄化して回ることになりました。

 おおまかに担当区域(東と西で半分に割った)を決めて、出発。


 浄化は順調です。というか、私たちの実力だと、すでに激弱だったのです。

 走り「ながら」で倒してしまえました。

 全ての担当区域の建物を制圧し、野外へ。

 群れていたので脳の『人体発火』で終わらせ、バラけているのを捜索、浄化。

 大体終わらせたので、雷鳴に連絡。同じような状況でした。


 一旦「ウィングブル」に戻り、調達するものを確認します。

 口糧、手榴弾、水(大目に)、ガソリン。

 こんなところです。魚雷があれば良かったのですが、ここは陸軍基地です。

 口糧をリリジェンとミシェル。手榴弾は私。水は雷鳴、ヴェルがガソリンと手分けして持って来ることにしました。

 もちろん雷鳴の『縮小国家』を使用して、場所を突き止めてあります。


 つつがなく物資が揃いました。私は『第六感』に従って単眼鏡を三つGET。

 ああ、雷鳴はまだ水汲み場と往復していますね。

 水は飲む以外にも使うので、量が要るんです。

 待っている間、皆でここの口糧を食べてみました。……うん、まずい!

 総合的な感想ですので、まずくはないものも一応ありましたが………。

 調味料が豊富に入っているのでそれが救いですね。


「皆、何やってるんだよ。俺のはー?」

「皆で一食を分け合って食べてました。もちろん雷鳴の分もありますとも」

 そう言って、ローテーブルの上を指さします。ヴェル以外は笑顔です。

「どれどれ……うん、まずい!」

「アマリカの口糧を優先して食べよう。あっちはフツーだし」


 水の積み込みも終わり、まだ日が高かったので、私とヴェルの運転になりました。

 ヴェルが腰を抱いてきたので、寄り添って操縦室へ向かいました。


 ~語り手・雷鳴~


 う~ん、何かが吹っ切れたのか、最近フリウとヴェルのラブラブオーラが凄い。

 悪いとは思わないけど、この件が終わったらかなりの遠距離恋愛だな。

 何かできるようなら、力を貸そう。


 お、日没が来た。フリウと操縦を交代だ。

 小規模な港町、メーベルテリアにはもう二~三時間で着くだろう。


 ミシェルに今回の活動結果を聞く。

「今回の町には生き残りの情報はない。それ以外の都市で、前と同じく三件ほどSOSがあるよ。今回の目的が終わったら、救助すると伝えてある。一件、体調に不安がある人がいるから、急いだほうがいいかも………」


「おいおい、それ、先に行った方がいいんじゃないのか?」

「ここからだと、西に四時間ほどだよ」

「よし、行こう。行った方がいいって『勘』も言ってる。フリウ達は寝てる、起こさなくていいだろ。ミシェル、リリ姉にだけ事情説明しといて」

 ミシェルは「わかった」と言って、コクピットを出る。


 俺は進路を西南にとり、要救助者のいる町を目指す事にした。。

 そこも海辺の町だ。が、「オオキナヒト」らしきものは海に見た事がないという。

 行先の町近海にしかいないのか、要救助者が見落としているのか………。

 まあ、本格的に調査するのは要救助者を助け出してからだ。


 到着したので、フリウとヴェルを起こす。

 寝ぼけ眼の二人に、事情説明。「ライノ」に乗り込む。まだ暗いので運転は俺だ。

 「ライノ」には、インデで購入した後付けナビがついている。

 道には迷わずにすむだろう。暗いのは俺にとっては問題にならないし。

 ルーフにはリリ姉が乗る。もはや定位置である。


 ゾンビを排除しながら「ライノ」を走らせ、無事に目的地に到着。

 会話した後、『教え・感性・洗脳』で、異空間病院に自主的に入ってもらう。

 熱があり、苦しそうにしていた女の子は、よろしく頼むと念を押しておいた。

 行先はれっきとした病院なので、心配ないのは分かっているのだが。


 街からさっさと出た俺たちは、「ウィングブル」に乗り込む。

 まだ暗いので、運転は俺だ。目的地まではもう、四時間もかからない。

 貨物室は静かだ。多分寝直したのだろう。


 夜明け前、無事に目的地近郊に到着。

 町の上を一周して、ゾンビがいない事を確認した。

「おーい、起きろよぉー。着いたぞー」

 声をかけつつ、目覚ましのベルを鳴らす。やかましい音が響き渡った。


「あいたたた………おはようございます」

 ああ、アザが痛いのか。確かに俺も痛いので『痛覚鈍麻』を五でかけた。

「ありがとうございます。上半身全部というのはやはりキツいですね」

 ヴェルとリリ姉も起きだしてくる。


 全員がきっちり起きたところで、「ライノ」に乗り込む。

 夜明けが近いので、運転はフリウとヴェルに頼んだ。後部はサイドドアを開け放ち、景色が見えるようにする。山を背にした坂の多い街だ。路地が多い。

 表通りの道を選び、町の下―――港の方に走っている。


 港には荒らされた、というより破壊された船が多かった。

 無事な船は七~八隻ぐらいか。どれも港の端の方にある船だ。

 破壊された船は、何か大きなもので押しつぶされたような感じだった。

 とりあえず、飛んで沖の方まで見てみるが、何も見えない。


 今回の敵は移動が自由なようだ。まず捕捉しなければならない。

「見晴らしのいい高台の広場に陣取って、気になるものが見えたら単眼鏡で監視、というのがいいと思うんですが」

「俺の『勘』もいずれここに現れると言ってる。その案で行こう」

「監視は全員で港を気にしておく、ということでいいでしょうか」

「いいんじゃないか?交代制で注視するのも、ずっとは集中力が持たないしな」


 ~語り手・フリューエル~


「気長に構えた方がいいと『第六感』も言っていますし、どっしり構えましょう」

 そう言って、単眼鏡を全員に配ります。倍率などの調整は個人の好みで。

「ところでお茶の補充に、食料品店に行って来てもよろしいでしょうか?」

「こんな所だから、小さいのがあるだけだろうと思うけど………行ってらっしゃい」


 了承をとりつけ、私たちは街を食料品店を探して散策し始めました。

 迷うので路地には入りません。惨劇の名残があちこちにあるので、いい気分にはなれないのですが、馴れたのか割と普通に歩いています。

 一時間ほどで食料品店は見つかりました。フルーツや生鮮食品は酷い事になっているので意識して無視。お茶のコーナーを探します。


 結果、アップルティーと普通の紅茶をかごに入れました。

 他に何かあるかなと探してみると、メープルシロップを発見。

 他には、真空パックのパウンドケーキ二種をあるだけかごにIN。

 あとは袋菓子をかごに入れて、「清算」します。異国の通貨ですみません。

 ビニール袋に買ったものを入れて………帰りましょうか。

 途中に金物屋さんがあったので、やかんを買っておきました。


 帰りに港の方を見たら、気になる物があったので、単眼鏡をそちらに向けます。

 港から見たのでは死角になる位置に、なぜか大量の衣服が投棄されていました。

「何でしょうね、あれは………」

 今回の「オオキナヒト」がゾンビを食べて服を吐いた?

 そう考えると、この街が無人な理由が説明できるのですが。


「ただいま戻りました」

 そう言ってから、さっき見たものを情報共有する。

「うーん、その可能性が大だな。でないと服なんて投棄しないだろう」

「でも、この町は無人になったのに戻って来るんでしょうか?いえ『第六感』は来ると言っているんですけどね」

「まあお互いの『勘』を信じよう」


「皆さん、とりあえず十二時です。食事はしておきましょう。うどんで良いですか?」

「いいよー」「「ありがとうございます」」「構わん」

 などと返事が帰って来ました。私は手早く準備します。麵は乾麺、味はだしの素ですので、手早くやらなくてもそう時間はかからないのですけどね。


「十五時には、おやつにしましょうね。パウンドケーキが手に入ったので。紅茶は、アップルティーと、シナモンティー、普通の紅茶にメープルシロップを入れるとか、色々ありますからね」

「女の子は、甘いもの好きだよな。俺も好きだけどさあ」

「雷鳴は食べ物を食べますが、胃は動いてないんでしょう?どうしてるんです?」

「ああ、『異物消去』って教えで消してるよ。でないと胃の中で腐るし」

「便利な能力ですね」


 十五時です。

 「ウィングブル」から、広場にコンロを下ろし、上に水入りのヤカンを設置。

 全員のマグカップを持ってきて、何が飲みたいか聞いて回ります。

 雷鳴は普通の紅茶をメープルシロップで。ヴェルは普通の紅茶ストレート。

 リリジェンはアップルティー。ミシェルもアップルティーです。

 わたしは折角なのでメープルシロップを入れることにしました。


 パウンドケーキを二つ開けます。ナイフで切り分け、お皿に乗せ、皆に配ります。

 その後要望通りにお茶をいれます。

「フリウ様って、マメですよね………いいお嫁さんになりそうなのに」

「残念ですが、その予定はありませんね。こういう選択をした時点で」

 と、ヴェルをチラ見。お茶は配り終わりました。ティータイムです。


「雷鳴には好意を寄せる女性はいないんですか?」

「寄せるも何も。俺、既婚者だし」

「「「「えっ⁉」」」」

「ヴェルまで………。お家のための結婚だけどさ………派手な結婚式やったけど、皆は知らないだろうな。でもヴェル、お前はすぐ知れたはずだ」

「………興味がない」

「そう言うだろうと思った」


「どんな人なの⁉」

「リリ姉落ち着いて………プライドが高くてワガママだけど可愛い所もある娘。美人だよ。それと、剣の腕が立つ。ショートヘアなのも魔帝領では珍しいな」

「優しい?雷ちゃんのこと思いやってくれるの?」

「厳しいけど優しいよ。ああ、思いやりは俺にはあるから。大丈夫」

「ならいいけど………」

「ちなみにおふくろの妹だよ」

「「ええっ!」」

「リリジェン、ミシェル、落ち着いて………悪魔は近親婚好きですよね」


「俺のことばっか言うけど、ミシェルとリリ姉はどうなのさ」

「私は信仰が恋人なの(天帝陛下に恋してるなんて言えない)!」

「十分変だよ!感動してるミシェル!お前は?」

「愛の泉でじゃれ合う程度で、決まった人はいないよ!」

「普通だなあ………好みのタイプは?」

「優しくて慎ましいひと、かな」

「付き合ったことがないのがよく分かる回答だ」


 そんな風に楽しいティータイムは終わりました。

 まあ、ティータイムは毎日していたのですが。

 

 8日経った頃「アレ」が起こる日が来たのです。


 それは一体のゾンビが坂道を駆け下りてきたことで始まりました。

 私たちの間に緊張が走り、私は『第六感』に導かれるままこう言いました。

「気を付けて次々来ます!「ライノ」の中に退避!」


 その一体が港に向けて下りてくると、町のあちこちからゾンビが侵入してきて、やはり港に向かっていきます。百体近くやりすごしたでしょうか。

「もう大丈夫だ。外に出て何が起こるか確かめよう」

 雷鳴も『勘』が働いたのでしょう。私たちは外に出、観察を始めました。


 ゾンビ達は港の中央に佇んでいます。

「海に何か居るぞ!」

 雷鳴の声に、目を凝らします。確かにいます。巨大な肌色のタコに見えますね。

 単眼鏡で見たら、タコの頭部分は人間の頭で、足部分はまさにタコでした。

 単眼で、口があるように見えます。


 そいつは、ヒレのような前足でもう潰れている漁船をさらに叩き潰しながら、ゾンビ達に近寄って行き、ゾンビ達の前まで来るとくるんと反転しました。

 つまり、顔部分が海中に没し、足部分が上を向きます。

 足は放射状に広がり、中心部分をさらけ出します。普通タコならそこに口がありますが、こいつも同様だったようです。


 ゾンビはその中心部分に身投げを始めました。それを口が呑み込み咀嚼します。

 タコと同じ場所に「くちばし」があるのですね。

 そして、一定量食べると、ゾンビの着ていた服をまとめて吐き出しました。

 丁度、私たちが見つけていた場所に放り出されます。

「この「オオキナヒト」の名称は「タコモドキ」でよろしいでしょうか」

「「「「異議なし」」」」


 唐突にくるっと「タコモドキ」は反転しました。終わりなのかと思えばそうではなく、呼吸の為だったようで、深呼吸をしてまた反転します。

 残りのゾンビはそれで全部食われてしまいました。服が排出されます。そのあとはしばらく逆さで漂っては呼吸に反転する、を繰り返していました。

 ゾンビを消化していたのです。魂が増えていくので予想がつきました。

 消化が終わったのでしょう、またタコそっくりの泳ぎ方で「タコモドキ」は去って行きました。またゾンビが集まるのを待つのでしょう。


「タコモドキ」が去って、全員の体の力が抜けます。

 決戦は、作戦を練り、次に「タコモドキ」が現れる時に決行されるでしょう。

 それまで、しばしの休息です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る