虹を見つける彼女

つばきとよたろう

第1話

 激しく雨が降った日も、あまり雨の降らなかった日も、宇野瑞希はよく虹を見つけてくれる。それは、ふと何かを思い付いたように。お気に入りの青と白の水玉模様の傘を掲げて、まるで手品師みたいに、「てへへ、ほらあそこ虹が出ている」と、ちょっと威張った口調で、小さな口を囁くように開く。大声を出せば、虹が消えてしまうと思っている。太陽の光の射し込む雲間に、高層ビルと高層ビルを跨ぐ、七色の虹が架かっていた。爽快だった。


 虹が架かっているのを見つけると、ちょっと浮き浮きする。


君は、いつも僕より先に虹を見つける。負けてばかりだ。

さあ、どうしてだろね。

君が虹を架けているんだと錯覚するよ。

まさか。幾らなんでも虹は架けられない。


どうして虹を見つけられるの?


 瑞希は鈴音のような虹を渡る人の足音が聞こえる、と静かに教えてくれた。それって虫の知らせのようなものかい。僕にはそんな音聞こえない。


 虹の根元には、そこを掘り返せば、この世の全てを覆すほどの宝が埋まっているという。でも、そんな宝を見つけた人は、未だにいない。いるはずがない。それはそうだ。虹が架かるのは、偶然だからね。でも君が虹を見つけるのは、偶然とは思えないよ。


 そんな瑞希が、急に元気を失った。僕は心配して聞く。


どうしたんだ?


 瑞希は虹が見えなくなったと言った。今ではぼくの方が、虹を見つけるのが得意になった。


悲しんでいるの?

戸惑ってるのと、瑞希は答えた。

どうして虹が見えなくなったの?


 瑞希は虹の根元に埋まっている物を知ってしまったと言った。瑞希は、赤ちゃんを授かった。

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虹を見つける彼女 つばきとよたろう @tubaki10

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