【KAC第六感】運命の始まり

風瑠璃

手遅れ第六感

俺には、昔から虫の知らせと言うか、第六感と言うか、身に危険が迫った時。瞬間的に危険だと理解することができた。

後ろから迫るボール。意識の外から頭を狙う頭上の棚。歩いていたらぶつける足の小指。

本当に些細な危険だけど、それが起こる時に「危ない」と知らせてくれるのだ。


まぁ、教えられて回避できるかはまた別問題で、基本は回避できないタイミングで教えてくる。

ぶつかる。危ない。そう思った時にはもうぶつかっているので、痛みを一瞬だけ耐えるくらいにしか使わない。

役に立たない能力。これが超能力なのだとしたら笑うしかない。

話したことのある友人たちはなんだそれと笑いの種にするのでどうやらみんながみんな使えるものではないらしい。

選ばれた力なのだとしたら、もっと実用的なものがよかった。サイコキネシスとかテレポートとか、物語で活躍するようなやつ。こんな第六感で何かを一瞬前に把握するような力なんていらないのだよ。


ため息を吐いても仕方がない。


この力とすでに十年以上付き合っている。良し悪しは把握できているので、消えるまでは付き合っていくのだ。

俺の人生において、役に立つことがあるのだろうか?

この手遅れ第六感は。


暖かい午後の日差しに照らされながら散歩をする。

仕事が休みで昼まで寝ていたことを取り戻すように体を動かす。

めちゃくちゃ寝たからか、お腹は空いている。冷蔵庫の中に物を入れていれば外になんて出なくて済んだのに。


「ふぁぁぁぁ」


あれだけ寝たのにまだ眠い。欠伸で出た涙を拭いながら曲がり角にさし掛かる。


(危ない)


第六感が危険を知らせる。思わず立ち止まるが、直後に何かがぶつかる気配はない。辺りを見回そうと背中を向ければ、「きゃっ」と悲鳴が聞こえた。

女性の声だと思われるソプラノボイスに何が起こったのかと視線を向ければ、スーツを着た女性が驚いたように固まっていた。

突然振り返ったことに驚いたのだろうか?

だけど、曲がり角よりもかなり前で姿なんて見えなかった。走ってきたのか?


「えっと、大丈夫ですか?」

「なんで曲がらないんですか!!」


なんか怒られた。

えっ。俺が悪いの?


「今、そこの曲がり角を曲がる予定でしたよね?」

「曲がるかどうかは気分で決める予定だったけど、真っ直ぐ行くかもしれなかった」


危ないと言われなければ、どうなっていたか分からない。未来なんて数多ある選択肢の一つでしかないのだ。


「いーえ。曲がるはずでした。私の第六感がそう告げてます」

「うわぁ」


聞きたくなかった単語に全力で忌避感を抱く。

それでぶつからずに済んだ俺とそれを頼りにぶつかろうとした女性。なんだこの関係。


関わるべきではないと判断してジリジリと距離を取る。運動してない体でどこまでやれるのかは不明瞭だが、全力退却するべき案件だ。

第六感は何も言わないが、俺の頭脳はそう決めた。


女性はハイヒールを履いていてスーツ姿。走るには適さない。巻くことは可能。

背中を向け、走り出すーー


「ストップ」


まるで、そのタイミングを理解していたかのように抱きついてきてアスファルトの地面に体を叩きつけてくる。

ズザーッといかなかったから擦りむいてはいないだろうけど、めちゃくちゃ痛い。

ポカポカ陽気だけど、熱せられたアスファルトは普通に熱い。夏ほどではないにしても顔面着地は考慮されてない。


「なんで逃げるんですか!」

「当たり前だろ!?」


怪しい人を前にしたら逃げるのが当然だ。

我が身が一番可愛いのだから。


「言いたくないですけど、そこそこ可愛いと思うんです。私」

「ほら、女性は化粧で化けるから」

「ひどい!!」


見ず知らずの他人相手に何を言っているのだろうと叫びたくなる。

無理に起き上がろうとするも何故か体に力が入らない。お腹が悲鳴を上げるだけだ。恥ずかしい。


「視線集めてるから離れて。な?」

「逃げるなら。離しません」

「逃げない。逃げないから!!」


周囲の視線に耐えきれなくなってきた。近所だから変な噂をされたら社会的に死ぬ。「あの人なら、やると思ったんですよ〜」みたいなこと言われてしまう。


仕方がないから話を聞くしかない。

解放されてから立ち上がる。服の汚れが酷い。ジーパンを履いていたから足に目立った外傷はない。痛みがあるのは顔面くらいか。思いっきりいったから怪我があるかもしれない。明日の仕事中からかわれること必須だな。


「私の名前は鳥遊里たかなし莉奈りなです。ピッチピチの二十歳ですよ」

「今更自己紹介ありがとうございます。俺は神供じんぐうのぞむだ。それで、何がしたかったんだよ」


ぶっきらぼうな言い方になるのは目を瞑ってほしい。

空腹の上に押し倒されたのだ。怒り狂って暴言吐かないだけマシに思ってくれたらいいが。


「私の勘が告げるのです。あなたが、あなたこそが運命の相手であると!」


目をハートにして人差し指を向けてくる。

その指から逃げるように左右へ移動するが着いてくる。ちくしょう。


「さぁ私と一緒に幸せな未来を紡ぎましょう!!」

「断る!!!!」

「なんでぇ!!」


互いの絶叫が、昼下がりの住宅街に響き渡る。


この日から、俺と鳥遊里たかなしの物語が始まった。

互いの感覚を信じて行われる謎の物語。その行先は天国か地獄か。

俺の第六感が告げている。何をしようと、もう手遅れであると。

意外な使い方があるじゃないか。手遅れ第六感よ。






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