ふたつ選べ。

倉沢トモエ

ふたつ選べ。

「うそだろ……」


 こっちが言いたいわ。


「すごくね……」


 ここは放課後の教室なので、こうして神経衰弱やってること自体はどうってことないんだが、このいつの間にか集まったギャラリーの熱気はまずいかんじだ。


「矢吹、1回も交代してないの?」

「1回も?」


 俺の前にはトランプ。

 対戦(というほどのものか?)相手は、同じクラスの田中。俺は帰宅部の高校生にすぎない。


「♦️2」


 それにしても、おかしい。


「♣️2」


 神経衰弱は、じゃんけんでも何でも、負けたほうが先攻だ。1枚もカードをめくっていないうちから、同じ数字の2枚を当てろ、というのは無理だから。

 少しずつゲームが進み、より多くのカードを覚えたほうが大抵勝つ。


 なのに。


 今回俺はカードを覚えていない。

 ただ選んだだけの2枚の数字がなぜか合っている。

 それが、もう15回も続いている。


「……」


「♠️5」

「♥️5」


 俺なんか帰りてえわ。


 向かいあってる田中の無言がなんか不気味だし。


 てか、まだ終わらねえ。


「♣️9」

「♦️9」


 俺、どうなってんだ、これ?

 もともと第六感とか、縁ないんだけどな?

 それとも、こんなとこで幸運無駄遣いしてるのか?

 このまま全部のカード当てちまったら。何か起こりそうでこわいな。


「♥️7」


 ここで、次のカードをめくろうとして……

 やっぱりやめて、別のカードをめくったら、どうなるの、っと。


「♦️7」


 ……………はずれさせてくれねえのかよ。帰りてえ。


「これは……」


 田中、小さくつぶやいた。意味なくこええ。


「……そうか……そうかもしれない……」

「田中。なんだよこれ。俺、このままどうにかなんねえの?」

「あせってはいけない」


 なんだその落ち着き。


「今は現象を見極める時だ」


 理系の奴って、そういうときあるよな。


「♠️A」

「♥️A」


 そのつぎだった。


「♥️2」

「♥️2」


…………ん?


「なんだ、トランプ不良品か?」


 少し安心したが、それでも無限神経衰弱になりかけた説明にはなってねえ。


「落ち着きたまえ」


 いや、田中、お前もなんかへんだぞ。


「もう一度、2枚選びたまえ」


 言われた通りにする。


「♣️5」

「♣️5」


 ……………。


「やっぱりこれ、」


 あっ。


 田中が無言で俺の取り札を取り上げ、並んでいるトランプと混ぜ、切り、並べ直した。


「2枚選びたまえ」


 なんか、やばい科学者みたいな目付きになってるんだが。

 ギャラリーも、なんか引きはじめて減ってきたぞ。


「♠️7」

「♦️7」


 普通に戻った?


「♥️A」

「♥️A」


 またこれか。


「興味深い」


 むしろ田中がやばいぞ。


「最初は数字が合う流れだった。次はカード自体が同じものになる流れだった。

 今はその混合だ」


「矢吹。俺ら先に行って待ってていいか?」


 この後ラーメン屋に行く約束をしていた永井と岡崎が飽きてきたようだ。


「永井岡崎、悪いな。なるべく早く行くわ」


「おう」


 永井と岡崎が俺に向かって手を振った様子を見て驚いた。


 ふたりとも顔が永井になっていた。

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ふたつ選べ。 倉沢トモエ @kisaragi_01

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