帝国首都大学アニメ研究会部長の第六感

山岡咲美

帝国首都大学アニメ研究会部長の第六感

「見つけた!!」


 六道感美ろくどうかんみは思わず大学の学生食堂で彼女の手を掴んだ! 


「なっ、何ですか?!」


 彼女、井仲花いなかはなは驚いた様子で回りを見る。


「何」

「どうした?」

「けんか?」

「痴情のもつれ?」

「男を奪い合って?」

「ガチバトル??」


 回りの学生も突然の大声に二人を見る。


「…………」

 金髪ショートカットで目を見開き六道感美が井仲花をじっと見つめる。


「あの……貴女は?」

 腕を捕まれたまま井仲花は少女マンガのヒロインのようにを赤らめ肩ほどの茶髪で横を向き顔を隠す……顔が近いです。


「愛か?」

「告白?」

「付き合ってる?」

「痴話げんか?」

「ラブなの?」

「愛のなせるワザ??」


「あ、…………」

 六道感美は回りの視線がおかしいと気づく。


「両方とも違います!! アタシと彼女は[美少年帝國軍~陸海空~びしょうねんていこくぐん~りくかいくう~]の海兵くんのファンなんです!!!!」

 六道感美はたくさんの学生の前で趣味をぶっちゃける!


「美少年帝國軍~陸海空?」

「なにそれ?」

「アニメ?」

「マンガ?」

「ゲーム?」

「大陸系アイドル??」


 [美少年帝國軍~陸海空~]とやらのファンと指摘された井仲花を学生食堂の学生達がじっと見つめる。


「ちっ、違うんですーーーーーー!!!!」

 井仲花が顔を真っ赤に染めながら学生食堂から逃げ出す。


「待って! 友達、友達になりましょーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」



***



「ようこそ帝国首都大学アニメ研究会へ♪」

 六道感美は満面の笑みを浮かべながら扉にロックをかけた。


「ごめんであります、部長は強引でありますから」

 長い黒髪で顔が半分隠れるほどの陰気な女、影山海月かげやまくらげがマグカップのコーヒーを出す。


「何でこんな事に……(あります?)」

 コーヒーの良い薫りが漂うそのアニメ研究会のオタク部屋で井仲花は完全に身動き取れなかった、蛇に睨まれた蛙だった。


「強引じゃ無いわ、ここの活動目的、アタシ達の野望を知れば彼女だってきっと協力してくれるわ」

 自分に絶対の自信あり!


「聞くだけでいいから聞いて下さいであります」

 影山海月は騒ぎが広がらないように、おとしどころ探る。

 

「はあ……あの、活動ってなんなんです、私アニメとかは……」

 井仲花は少し目を反らす。


「それわね、ファーストシーズンでくしくも打ち切られた[美少年帝國軍~陸海空~]を盛り上げて海兵くんの登場するセカンドシーズンを制作させる活動よ!!」


[美少年帝國軍~陸海空~]それは十二話で制作される予定が十一話で打ち切られた伝説の作画崩壊アニメである、そして海兵くんはセカンドシーズンに登場するため十二話で伏線登場する筈がファーストシーズンで打ち切りのためにその話数ごとカットされた幻のキャラクターだった。


「は? 私……そんなの知らない、ですし、打ち切られたアニメのセカンドシーズンなんてあり得ないですよ」

 井仲花は話を切って帰ろうとする。


「無駄よ、どんなに隠そうともアタシの能力からはのがれられないわ!」

 六道感美は扉の前に立ちふさがる。


 アニメ研究会の部室、推理ドラマのラストのようにたたずむ探偵役、六道感美、役立たず刑事役、影山海月。


「能力?」

 井仲花は六道感美を見つめる。


 六道感美は口角をニンマリ上げた。



「そう! アタシはアタシと同じ趣味をもつ人間を感知できる超能力、第六感を持っているのよーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」



「…………」

 井仲花は影山海月の方をゆっくり複雑な表情で見つめた。


「自分の胸に手を当てて聞いてみると良いであります」

 影山海月は生暖かい優しい笑顔でそう言った。


 

「私の黒歴史がーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」



 井仲花は魂の底から叫んだ。



***



 大学近く、学生御用たし激安食道。



「良いじゃん、好きなんだから好きって言えば」

 でか盛り手作りプリンをでっかいスプーンでがっつくの六道感美。


「海兵くんは某アニメ誌で設定画だけが先行公開されたてたのでありますが、キャラデザが神でありました」

 影山海月はレバニラをどこかの黒魔術の儀式かって感じるでむさぼる。


「貴女もファンだったんですね……」

 井仲花はウーロン茶を一口。


「自分、陸くんも、海くんも、空くんも、いいでありますが、やっぱり一番は海兵くんであります」

 影山海月自身も六道感美から井仲花と同じ勧誘を受けアニメ研究会に入っていた。


「影山は浮気ものだな~~」

 六道感美がスプーンを降りながら影山海月にからむ。


「…………」

 井仲花は楽しそうに話す二人を見つめる。


「でも何で隠すの?」

 六道感美は別にアニメとか好きでも良いじゃない? と思う。


「そうであります」

 影山海月は趣味は友を作ると信じている。


「いや……貴女達こそどうして隠さないの、あれ好きなのセンス無いって言うのと同義だだよ」

 井仲花は確かに海兵くんが好きだ、実家には[美少年帝國軍~陸海空~]のグッズがあふれてる、でも誰もが認める低評価作画崩壊アニメが好きなのは肩身が狭い、同調性バイアスだ。


「は?」

 六道感美は怒る。


「あー」

 影山海月はやっぱりと思った。


「いい、井仲花さん貴女にステキな言葉を教えてあげる」

 六道感美は二人の前で一人立ち上がり自信満々に腕を組む。


「ハードル上げましたよこの人……」

「なぜ自分をそこまで追い詰めるでありますか?」


 

「好きなものを好きと言えない世界なんてアタシ好きじゃないわ!!」



「大したこと言ってない」

「言ってないであります」



 その日、帝国首都大学アニメ研究会部長、六道感美は新たな仲間を見つけ上機嫌だった、仲間がいるということは喜ぶべきことなのだ。

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帝国首都大学アニメ研究会部長の第六感 山岡咲美 @sakumi

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